千尋とウォーキング
数日、両手に風紀で登校してるものだから、すっかり名物風景になってしまった。
園田から「姫と王様と騎士のご登校」って言われてるって教えられて、激しくヘコんだ。
委員長が王様ってのは分かる。
高槻先輩が騎士ってのも、まぁ分かる。俺の中では、高槻先輩はムエタイ戦士だけどね。
俺だけ姫って・・・何でだ!?
「俺もムキムキになりたいなぁ。」
「ダメ!!絶対!!」
「アリスちゃん、それは無し!」
ぽそりと漏らしたら、美村と園田に全力否定された。なんでだ。
でもなぁ・・・。
姫は無いわぁ。
確かに細身だけど、アン◯ールズみたいにガリガリってわけじゃないのになぁ。
退院してから有栖川邸のトレーニングルームでリハビリと筋力回復の為のトレーニングをしていたけど、この学園に来てから何にもしていなかった。
トレーナーさんに、あまり激しい運動は禁止されてたけど、ウォーキングならいいって言われたなぁ。
正しいウォーキングのフォームも教わってる。
正しいウォーキングは全身の筋肉の80%を使うし、ランニングよりも膝や心臓への負担も少ないって言われたな。
よし。明日から登校前にウォーキングしよう。
何か言われそうだけど。
高槻先輩は目覚まし3個めまで起きないし、早めに戻ればバレないだろ。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
翌朝、俺はいつもよりずっと早く起きた。
半袖Tシャツとハーパン、ペットボトルの水だけ持って、こっそり部屋を出た。
初夏の朝は暑くもなく、寒くもなく、運動するには丁度いい感じだ。
早朝の空気が気持ちいい。
俺は寮を出て、裏の林の小道へと歩いて行った。
山奥にある学園だから、緑が多くて気持ちいい。
トレーナーさんに習ったフォームで歩きだした。
誰もいない小道を歩いてると、ふと人の気配を感じた。
見ると、生徒が1人立っている。
「?」
俺みたいに運動するぞーって格好でもなく、ラフな部屋着だ。
こんな時間になんだ?
俺は立ち止まって、水を飲んだ。
「あ!」
よく見たら、野生のリスがちょろちょろっと木から降りて、そいつの肩に飛び乗った。
ーーーなにあれ。超可愛い!
「!?」
俺の声に驚いたそいつが振り返った。
サラサラの黒髪の、どっかの国の王子様みたいな顔をしていた。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
眉を顰め、怪訝な顔をして俺を見た。
肩に乗っかってるリスがちょっと怯えたように、そいつの首元に隠れるようにしてこっちを見てる。
ーーーナウシカかよ!
あ、怖がらせちゃいかんな。
俺は右手で「お口チャック」のジェスチャーをして、左手をヒラヒラ振って、2、3歩ほど後ろに下がった。
邪魔する気ないですよー。
静かにしてますよー。
怖くないですよー。
伝わったのか、そいつはふいと俺から視線を外してポケットからなんか出した。
クッキーかな?
リスがクッキーを受け取り、小さな両手で掴んでカリカリカリって食べだした。
おお!可愛い!
ちょっと離れて場所からリスの食事風景を見て、ほっこり癒された。
ーーー朝からいいもの見た。さて、そろそろ行かなきゃ。
歩き出した俺を、そいつがまた見た。
俺はぺこりと頭を下げて、その場を去った。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
◆ナウシカ(?)視点◆
この日も朝早くに寮を出て森林を歩いた。
俺は昔から人と関わるのが苦手だった。
人の感情に敏感で、人混みなんか耐えられない。
イライラした奴の側にいると頭が割れそうに痛くなるし、欲望を向けられると吐き気がする。
どうかそっとしておいてほしい・・・そう願うのに。周りは放っておいてくれない。
クォーターの為に顔立ちは日本人離れをしていて、瞳の色は色素が薄く金に近い茶色だ。髪の色も薄いが黒く染めている。
こんな容姿をしているから、嫌でも注目されてしまう。
この学園に入ったのも隔離された空間だからだ。
なのに抱かれたいランキングなんかに名を連ねられて・・・。
生徒会役員になったのは、一般生徒から距離を取れるし、生徒会限定のフロアで1人部屋になれるから。親衛隊などというオマケ付きだが。
『君はエンパスだね。』
『エンパス?』
『共感能力が高いんだよ。辛かったでしょう。』
俺は桜ノ宮桜真の言葉を思い出す。
桜真は不思議だ。
感情の起伏が少ない。
真冬の湖に張った薄い氷のよう。冷たく、静かに俺を見る。
桜真の側にいると、その冷たさに落ち着いた。桜真も『人嫌い』だと思う。
俺はいつもの場所に着いた。カサカサと木から滑り降りてきたリスが俺の肩に飛び乗った。
動物は好きだ。
感情がシンプルで。起きて、食べて、眠る。それだけ。
「あ!」
背後から聞こえた声に驚いて振り返る。
随分キレイな顔をした生徒が立っていた。
ああ。俺の秘密の場所だったのに。
生徒会の奴らにも、親衛隊にも教えていないのに。
けれど、その子は指先を口元に当てて、そっと後ろに下がった。
ーーー秘密にしておいてくれるのか?
その子は、リスの食事風景をニコニコして見ていたが、ぺこりと頭を下げて歩き去った。
一言も話さずに。
見た事の無い生徒だ。とても・・・
穏やかで、明るく優しい空気をまとっていた。
俺はいつまでも、その子が歩き去った方を見ていた。




