千尋と密会
「うっ!ふぐぅ・・・ッッ!!」
うーうー呻きながら、引きずられる。
けっこう暴れてるのに。馬鹿力め!
ーーーちくしょっ!!
「静かにしろ。お姫様。」
「ッッ!?」
耳元で囁かれた。
ーーーこの声!?
「ぷはっ・・・風紀委員長!?」
ドーベルマンみたいな風紀委員長だ!
「なんで!?」
「お前こそ。なんで桜ノ宮と平野の部屋に行った?」
「えっ?」
見てたのかよ。
「お前、今日、風紀室に来たときに高槻に嘘を吐いていただろう。怪しいと思って見てたんだよ。最近、新入りのせいでおかしな空気になってるからな。」
桜ノ宮のことか。
「・・・。」
口元は笑ってるけど、目が笑っていない。
どうする?
たぶん、このドーベルマン委員長には嘘やごまかしは効かない。
それに風紀委員長だし、高槻先輩の上司みたいなもんだしな。
俺はゴクリと唾を飲み込んで言った。
「全部話すから、手離してもらえます?」
俺はまだ御影委員長に背後から抱かれたままだ。
「このままでもいいぜ。お前、意外と抱き心地いいな。」
ニヤッと笑われる。
「はぁ!?あんた、何キャラだよ!キモイんですけど!」
「それが、素か。」
御影委員長が面白そうに目を細めた。
「なんでもいいから離せ。」
「はいはい。」
ようやく腕から解放された。ほっとしたのも束の間、腕を掴まれた。
「えっ?」
「ついてこい。」
引きずられるようにして、俺は歩き出した。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
俺は委員長に引っ張られて、寮の裏口まで歩いた。委員長の部屋は俺と同じ建物だった。
裏口の鍵は先生連中とひらパー兄さんしか持ってないはずなんだけど
「風紀の特権だ。」
と言って、委員長はキーを出した。
「なんで裏口から?」
「誰かに見られたら面倒だし。高槻に見つかったら、それこそ厄介だ。お前を溺愛してるしな。」
「はあ。」
「階段で行くぞ。」
「?どこに?」
「俺の部屋だ。」
ーーー委員長の部屋って・・・最上階ですか!?
数分後、俺はヒィヒィ言ってヘタレていた。
「おい。あとちょっとだぞ。」
「ハァ・・あんた、早いんだよ・・ちょっとって・・今、6階だっけ・・ぜぇ。」
「12階までだ。」
「・・・ひぇ。」
まだ半分かよ!?
有栖川千尋の体は軟弱すぎる。
「・・・仕方がない。ほら。」
「?」
委員長が踊り場でしゃがんだ。
「おぶされ。」
ああ。なるほど。
少し悔しい気もするが、楽したれ!
「失礼しま~す。」
委員長は軽々と俺をおんぶして階段を登った。
「重くないですか?」
「全然。お前もう少し太った方がいいぞ。」
「はぁ。」
あっとゆうまに最上階に着いた。
委員長は俺をおんぶしたまま部屋に入った。
「あの。おろしてくれます?」
「ああ。お前、背負い心地もいいから忘れてた。」
「・・・だから、何キャラだよ。」
よいしょ、と委員長の背から降りた。
ーーーめっちゃ広っ!!
風紀委員長の特権らしい。1人部屋の特別ルームだ。
同じ階の別部屋は、副委員長とVIP待遇のお金持ちお坊ちゃまだとか。
別練の寮の最上階には、生徒会連中の部屋があって、そこも別格らしい。
むかつくなぁ。
「さて。話してもらおうか。お姫様。」
「姫って言うな。」
ちょっとムッとしつつも、俺は委員長に全部話した。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
バスで平野に出会ったこと、いじめのこと、とりあえず委員長に全部話した。
ーーーそれから、生徒会長とエレベーターのくだりで委員長が爆笑した。
「ハハハッ!あの俺様野郎を挟んだのか!最高だ。気に入った!」
「ワザとじゃないですよ!」
委員長はゲハゲハ笑ってる。
すっげーゲラだ。てゆうか・・・
「生徒会長と仲悪いんですか?」
「・・・ああ。犬猿の仲だな。」
委員長が笑い止んだ。
「・・・平野のこと、どうするんです。」
「・・・。」
「知ってたんでしょ?」
これは、勘だけど。
「まあな。」
「なんで助けないんです?」
「本人が必要無いと言っていた。」
カチンときた。
「はぁ!?見て見ぬふりしてただけだろ。平野は俺に助けてって言ったぞ。」
怒る俺を委員長は面白そうに見る。
「あんた風紀委員だろ!なんでいじめを放置してんだよ!?」
「まぁ待て。放置してた訳じゃない。ちゃんと親衛隊の奴らの動きは把握してる。」
「でも・・・」
「ガチの制裁ってのはな。平野みたいなチビが相手ならレイプが相場なんだよ。」
「は!?」
「悪くて輪姦だ。被害者本人が訴えないから、首謀者が捕まることも無い。男にレイプされました、なんて親に知られたくないからな。」
「そんなこと・・・」
信じられない。
高校だろ?しかも、金持ちお坊ちゃんの。
「閉鎖された世界で、歪んだ奴も多いんだよ。エスカレーター式に上がってきた奴なら、尚更だ。美形信奉に親衛隊に制裁。生徒間のカースト制を当たり前だと思ってる。この学園内だけでなら、無茶が通用するんだ。」
唖然としている俺に、委員長が続ける。
「平野が今受けてる嫌がらせなんて、可愛いもんだ。最悪の事態にならないように見張ってるから、そこは安心しろ。」
それに・・・と続けた。
「お前は平野に関わるな。お前が相手なら喜んで『制裁』したいって野郎が山のように出てくるぞ。」
「・・・。」
気持ちが悪い。
なんなんだ。この学園は。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
「嫌です。」
「は?」
「平野とはもう関わっちゃってるんで。可愛いいじめってゆうけど、平野は傷ついてる。今更、知らん顔できません。」
俺は委員長をじっと見て言った。
「・・・お前、変わってるな。」
委員長が目を細めて、しみじみと言う。
「変わってるのは、おたくら望応学園の生徒だと思うけど。」
「確かに。ま、好きにすればいいさ。」
委員長が、ハハッと笑った。
「そろそろ部屋に戻れ。高槻が心配する。」
俺を玄関まで見送った委員長が含みを持たせた声で言った。
「桜ノ宮には接触するな。」
「なにかあるんですか?」
「・・・いいから。可愛く良い子にしてろ。な?」
俺の頭を撫でた委員長の手を振り払って
「だから、何キャラだよ!?」
俺は委員長の部屋を出て行った。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
◆御影視点◆
有栖川千尋を見送って、しばらく玄関に立っていた。
変わった奴だ。
最初は桜ノ宮同様、厄介な一年生かと思って早めに手を打とうとしたが・・・
驚いたことに本気で平野を助けたいと思っているようだ。
『変わってるのはおたくら』か・・・。
俺はこの学園の暗黙のルールが嫌いだったが、いつの間にか当たり前だと思ってしまっていたようだ。
姫の言葉で気付かされた。
俺が風紀にいるうちは、二度と『制裁』なんて真似はさせない。
俺は改めて、固く誓う。
ふと、姫が生徒会長を死体遺棄のごとく引きずってエレベーターに挟んだ話を思い出して、また笑ってしまった。
久々だった。こんなにバカ笑いをしたのは。
ーーー高槻が溺愛するのも分かるな。
馬鹿正直で、おせっかいで、無防備なお姫さまには、誰にも手を出させる訳にはいかないな。
思い出し笑いに唇を緩めたまま、俺は自室へと戻った。




