蜘蛛の子を散らす魔言
さて、、
このまま睨み合ってても、殺し合いしか生まないわけで。
どうしたもんかな、、
今の会話で、自分の価値と出生が、まぁまぁわかった訳だ。
あの時、俺をかばって死んだらしき男性は、マジでお父さんかも知れないんだね。
その、北海の民とかとのハーフ的な。
しっかし、ほんとーにどうしたもんかな、、
このまま、差し出してもらっても殺されはしないわけだ。
しかしながら、ここで土蜘蛛さん達に付いて行って、お姉様は無事に済むかしら、、
土蜘蛛に襲撃されて逃がしたとか、お父様に、お咎めとかあるんじゃないの?
すると、あの可愛らしいお姉様も不幸になっちゃいそうだよね。
んーーーーーーーーー
んーーーーーーーーー
「お父様、怖い、、」
ひしっ
「「なっ?!」」
おー、おー、相手ビビってるぜ?
一緒にお父様までビビってるのは、ちょっとどうかと思うけれども。
『どういうことだ?』
『もしや、本当の父親か!』
『ナデージュナ様は処女受胎だ!夫などおらん!』
『しかし、確かに似ているぞ!』
『処女受胎は、ババさまも否定しておられただろう!』
『おい!どうするんだよ!』
『おれは、ナディア様に嫌われたくない!』
『仕方ない!引くぞ!』
『くっ、ここまで来て!』
『水路の道は分かるな!』
『引けっ!引けー!!!』
「あじゃぱー、、」効果覿面ですこと。
まさに、蜘蛛の子を散らすように。
四方八方へバラバラに去って行きましたね。
そのあまりの素早さに、しばし屋敷内は静寂に包まれた。
ヒヒーン!!!
槍持ち前進!!!
「はっ!?男爵閣下の援軍です!」
「ベラン!怪我の手当てを!ベラル、男爵に説明に行くぞ!話を合わせよ!」
「はっ!」
そこで、足下に降ろされた俺は、顔を寄せてきたイケメンお父様に言い含められる。
「今日から、お前は神子ではない。私の息子だ。いいな。土蜘蛛は、今朝方の襲撃の後、最後に残っていた我が部隊の後を付けてきて襲って来ただけだ。そうだな?」
「う、うん、、」
ん?どうなってるんだ?
「勝鬨、揚げよ!」
「勝鬨揚げよ!」
お父様が発した言葉を、治療を始めたベランが復唱する。
「「「神の威光よ!」」」
「「「女王様へご報告!!」」」
「「「女王様へご報告!!」」」
「「「女王様へ!!!」」」
一斉に回りの人達や上の階の人達が声を上げ始める。
もう本当に喉が裂けんばかりにだ。
、、決まりでもあるのだろうか??
「シュターク伯!!」
「マシュタール男爵か!援軍感謝する!」
槍を持った胸当てとノッポさんみたいな冑を着けた部下を引き連れ、真っ黒な厚目の鎧をガッチリ着こんだ中年のおっさんがガチャガチャ言わせて入ってきた。
「何事ですかな、これは?!援軍に駆けつけたものの、左右前後全ての扉が破られ、鎧窓も幾つか割られている様子。最悪まで思い描いていた矢先、賊らしき者共が闇夜に飛び出して参り、、槍を向けるも、そのまま散り散りに逃げて行き申した。」
「土蜘蛛共の襲撃よ、、隙を突かれてご覧の有り様だが、盛り返した所で男爵の援軍。進退窮まって逃げ出したのだよ」
疲れた様子を隠しもせず、苦笑いさえ浮かべながらお父様は答えた。
よくわからんが、勝ったことにしたい、、ってことなのかな?
取り敢えず黙っとくけれども。
「援軍が間に合い、まっこと重畳にござる!屋敷の中の使用人の者さえ弓持って戦うシュターク伯爵家の使用人どもの顔付き、将に見事よ!」
そう言って上機嫌に笑うおっさん、推定40歳。
まさか、助け出す予定の子供が父親に保護されただけかも知れないというサプライズに混乱して逃げ出したとか、中々に言える雰囲気じゃないな。
「あぁ、自慢の家人達だ。幾人か失ってしまったけどね。これから弔いをしなくてはならない。良いかね?」
「うむ。名誉の戦死でござる。お弔い下さいませ。我らはなんら被害ござらん。礼は不要にござる!なにがしかの時は、宜しくお頼み申す!」
「あぁ、本当に助かったよ。貴殿に事あらば、シュターク家の全力でお助けしようとも。」
そうお父様が言うと、まぁ本当に"いい笑顔"で目礼すると、部下を率いて帰って行った。
「ふぅ、、お前らは敷地内の安全を確保。門が閉まれば門を閉め、そのまま二人見張りを出せ。安全が確保され次第、死体を噴水横に並べろ。顔ぐらいは拭けよ。屋敷の破られた所は外側に布を垂らせ。その後、内側から適当な板で塞げ。今夜は眠れんぞ!行け!」
「畏まりました」
いつの間にか三階のバリケードを撤去していた使用人さん達が、揃って返事をする。
見た感じ、兵隊さんっぽい人はいない。
みんな、パパッと仕事を始めたけど、、そういえば、青とハゲはどこ行ったんだろ。
現実逃避的に、そんなことを考えていた。