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異界に行って神子  作者: 馳 元嬉
2/6

黒騎士と拐われた神子

なちく臭い…


地元でしか聞いたことのない言葉を使いながら、俺は目を覚ました。


首ががが、重いわー!!!


何かに乗っかられている。人だね、多分。

しかもどけられない。力があからさまに弱くなってる。


必死にもがいてその人の腹の下から這い出てみると、パチパチと家の残骸が燃える音と、焦げ付いた臭い、あちこちから細く昇る煙、そんな世紀末な世界が広がっていた。


ふと振り向くと、骸が転がっていた。

これが自分にのし掛かかっていた元凶で、おそらく、自分が生きている要因だった。


ふむ。

そんなに大柄には見えない男性だが、その腹の下から這い出たと言う事は、俺、相当小さくなってるな。手を見ると、ぷっくりとした可愛らしい両手があった。


保育園くらいじゃねーの?


右を向く。左を向く。ふと気づいて上を向く。


すると、黒い鎧で黒い槍を持ち、死体を突き刺しながら歩く、騎馬を連れた騎士っぽい人と目があった。


「あじゃぱー…」はい死んだー。


俺は、自分の不運にあきれ果てていた。

あれー?異能ゲットの異世界ライフなんじゃなかったっけー?


うーん…


こっち来るよね。


言葉わかるかなー??


いきなり、刺したりしないよねー。

さっきまで問答無用で死体刺してたけどねー。


魔法でも使えないかなー…。


そう思い付いて、騎士に向かって、両手を突き出してみる。


これは、あれだな。


「ドラ○スレイブー!!」


しかし何も起こらなかった!!


「ダメかー!!んじゃ、ファイアーボール!」


周囲に声が響き渡った!!


「アイシクルスピア!サンダーボール!ストーム!火の玉!吹けよ風!なんか出ろ!!メ○!!ギ○!!パヨエー○!!!」


わめき散らしながら、両手をガムシャラに動かすも、何も起きない。


そして、黒騎士は、俺の右手を掴んできた。


はい死んだー。


ところが、黒騎士は何か話し掛けてくる。

「神性語か、それは?ファイアーボール?」


キタねー。

これはアレか。

英語がこの世界では失われた神聖な言葉で、話せると神様かそれに近い者だと思われるっていう。


「そうだと思います!!生まれた時から知っていました!!!」


「そうか。それで生き残ったのだな。神性語を生まれた時から話せる神子は、部族の宝となるという。」


俺は、生き残れる可能性を感じて、黒騎士を見つめた。

右手は離され、黒騎士は、スッと腰を伸ばした。


「私は、シミレット-シュターク-インジビレンド。帝国東方遊撃隊第二小隊の小隊長さ。と言ってもまだわからんか。」


ほうほう。小隊長さんね。


「まぁいい。さて、君にはいくつか選択肢がある。」


そう言いながら、彼は、冑の仮面部分を取り外した。ありゃー、白人さんだよ。目が青いよ。


「神と女王の名の下に、私と共に付いてくるか。父祖と、王国の名の下に、ここで私に刺されるか。」


ぇ…デッド・オア・アライブ?


「あ、えっと、その、い、行きますが…」

「女王に忠誠を誓うかね。君の父親と思わしき人物は、君を庇って死んだようだが」


「いやいやいやいや!そうだけど!死にたくないし!この世界まだわかんないし!死んだ両親は気の毒だけど、よくわかんないし!お願いします!連れてって下さい!!!」


なんかもう死ぬしかないような流れだったので、とにかく、固い鎧にしがみついて泣き叫んだ。


「エイメン?」

え?なに?アーメン?的な??!!


「エイメンエイメンエイメン!!!シュアシュアシュア!!!ぷりーず!レッツゴー!!」


出たよ!英検三級!なめんなよ!!


「ふ、神性語が話せるのは本当の様だ。薬師の神子と似たような言葉を使う。では、両親との血縁が薄いのも納得か。」

「来い。」


黒騎士は、俺の右手を握ると、踵を回して歩き出した。馬も上手に回転する。


「わ、まって!!」


ちょっとした段差にも困りながら、俺は、懸命に付いていったのだった。



「隊長ー!って…今晩、そいつですか?あぁ!口か!」


ビクゥ!!

背中から嫌な冷や汗が吹き出る!寒イボが!

今なんつったこいつ!?


「ジャスティン、女は見付からなかったのか」

「今回はしくじりましたね。集落がでかいから、先に火をかけたみたいじゃないすか。若いのから先に逃げたんでしょうよ」


ジャスティンと言われた若目の青い鎧の騎士は、朗らかに物騒なことを言っていた。


「今回は奴隷確保がメインじゃないからの。仕方なかろうよ。」

「じいさんは枯れてるからな。ジャスティンは、先頃の奴隷狩りの時も、見つけた女がいい女過ぎて、手を出せなかったからな。」

「その金で買いに行った色町でまた大ベテランに当たってかぁ?俺の不運をあげつらわないで下さいよ!」


「ベラン、首尾はどうだ?」

「そうですな。【死んだふり】は、ほとんど無かった様ですな。少し時間も経っていますし【土潜り】もいないと思われますが…」


ベランと呼ばれた初老の黒騎士は、シミレット小隊長にそう答えた。

そこに、細目で坊主、かなりでかい体つきの、何故か冑を被っていない青鎧の騎士が神妙な顔で言ってくる。


「正に土蜘蛛。蜘蛛の子を散らすとはこの事だな」

「面白くねぇよバギンス」


間髪いれずに若いジャスティンと呼ばれた青騎士が突っ込んだ。

突っ込まれてもどや顔を変えないハゲ騎士は、バギンスと言うらしい。


「取り合えず、目的は果たした。ババと呼ばれる指導者と、その取り巻きは討ち果たしたと聞いているし、ここに新しく生まれていた神子も確保できた。」


ほほぅ…

へぇ…

ヒュィ!


それぞれ感嘆の意を示してくる。

小隊は、小隊長に部下三人が基本のようだった。

初老の黒騎士ベラン、若い青騎士ジャスティン、ハゲで何故か冑を被ってないバギンス、そして、


「シミレット隊長…!!」

言うと、ベランが馬に飛び乗った。

それぞれ、素早い動きで馬に飛び乗る。

俺も、右手に抱えられて、小隊長の馬上に上がった。


「痛いよ!…ッッ」


鎧の纏われた腕で抱えられた俺は避難の声を上げたが、すぐに黙った。


周囲の温度が変わった気がした。


頭の後ろが針が刺さったかと思うほどの痛みを告げる。


ざわっとした。


いや、何かが動く音が重なったんだ。狼に狙われたことはないが、きっとそういうことだと、俺は思った。


やっとの思いで回りを見渡すと、薄汚れた木綿地のような服を着た人々が、それぞれ短槍や短刀、木弓を持って囲んでいた。


「ちっ土蜘蛛どもめ!まだそんなにいやがったのか!」

ジャスティンが声を上げる。


「ババ様が死んだだと?」

「神子様だ。確かにあの子は神子様だ。」

「肉食の蛮人どもめ。里を焼くだけでは飽きたらず、神子様まで…」


あまり、普段は喧嘩しなそうな顔付きの人達ばかりだったが、震えるほどの怒りを身体中に漲らせ、土蜘蛛と呼ばれた彼らは、こちらを包囲していた。


「ハッ!!」


一瞬の間。シミレットは、馬を蹴ると人々の中心を突破した。


ハァッ!!!

残りの三人もそれに続く。


「待てぇ!」

「ぐぎゃ!」

「射れ!投げつけろ!」

「近くの里へ使者を出せ!」

「俺が行く!」

「追え!隠し馬を取ってこい!」

「若いやつは走れ!」


後方の怒号は、あっという間に離れていった。

あー、きっと、誰かは助けに来てくれるんだろうなぁ、と。漠然とそう信じた。

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