プロローグ
趣味はオ○ニー。
仕事は某一流企業の営業マン。
特技は愛想笑いとExcel。
バツイチ子なし。
実家は農家でそこそこ。住居はマイホーム庭付き一軒家でそこそこ。
家があって仕事があって、小説が読めて、ネットが繋がってて、オ○ニーができれば、毎日の嫌味にも微眠微休にも耐えられる。
それがこの俺、枇杷島 誠、31歳だ。
「まぁ、まこと、と、ふつーに呼んでくれれば構わないよ。そこの君。君だよ、君、君。」
そう呼び掛けられて、俺は気が付いた。
今日も今日とて日付の変わる寸前、俺は帰途に付いた。
さてさて、俺の大好きな「ま・○・わ」さんは更新されていますかねー。
スマホを片手に営業車で、暗い夜道を走り抜ける。
ガラケーと違い、チラチラ確認しながらでないと操作出来ないスマホは正直めんどくさい。
それでも、今日のストレスを異世界で解消するべく、運転しながら操作を行う。
昨日は、書籍を買って始めから読み直した。挿絵を目当てに買った感じだが、ヒロインとチョロいんちゃんのイメージの擦り合わせに苦労していた。
挿絵イメージで、もう一回、全部読み直そう。
そう心に決めているが、それは書籍でこなし、連載の方は、既にガチガチに脳内構築されたマイイメージに忠実にいこうと思っている。
「更新キターーーーー!!」
更新通知の最上に位置する、燦然と輝く更新19:00の文字。
俺は運転中にも関わらず、軽く下を向いて読みはじめてしまう。
ガンッッッッ!!!!
左前輪が飛び上がり、ホイールや足回りの固い部分から身体に衝撃が突き抜けた気がした。
世界は斜めに傾き、すぐ、左後ろのタイヤも跳ね上がったのがわかった。
うわー…、起きたら痛そうだな、これ。
何度目の事故かなー…
不思議と死ぬとは思わなかった。
というか、でかい事故など何度も経験しているが、俺は今まで五体満足だった。
実家の薬師堂や、氏神さんやご先祖様。
母さんも婆さんも、姉さんも、俺は何かに護られているのだと、よく言っていた。
今回も、大した後遺症も残らないのだろうと、そう思っていた。
それより、これで何日か休めるような怪我をすれば、小説に浸れるかもしれないなどと、役体も無いことを考えながら、一瞬の衝撃と共に、世界は暗転した。
ま、こ、と…
それは、俺の名前だ。お前の名前じゃない。
「おや?自我があるか。たまのをの太い人だね。これは重畳」
あんた、誰だ?俺を殺すのか?言っとくが金はないぞ。
「ふーん…、これは。確かに、強いね。このたゆたう世界で。そこまで輪郭を喪わないとは。」
「君、ご先祖様に神や伝説の人物がいるんじゃない?」
うちは旧い農家だけど、家系図も350年程度さ。武家やお貴族様とは違うよ。
「300年も一つ土地を治めたんだ。少しは神力も付くか?とは言え不可思議だね。それにしても、」
で、僕は死んだのかな、これは。で、自我を試されたということは、戻っても良いのかな?
「余裕だね」
異能でも得て帰れるなら、さらにいいけどね。
「そうだね。そうなるだろうね。」
表情はみえないが、肩をすくめたような気配を感じた。
そして、エンジェルラダーが横から下から上から降りそそぐ。
「では、よい旅を。その血に籠められた、先祖累代の深き加護に感謝して生きなさい」
最後に見えたボヤけた少年の様な顔は、8歳で死んだという、祖母の弟なんじゃないかなとか、そんな親近感を覚える顔だった…。