白い鴉
電話を終えて部屋に戻ってきた霧島は結果を亮に伝えた。
「一体どう言う事だよ。荷物を回収するはずじゃなかったのかよ! 普通荷物って言ったら日用雑貨とそういう物だろう、それが・・・コレって一体どういう意味だよ。」
「私に言ったって仕方がないでしょう。だいたいここに来るまで荷物が何なのかなんて、私だって知らなかったんだら。それにこれも一応荷物でしょう。正確には『お荷物』だけどね」
「くだらねぇ事言ってんじゃねーよ。多少のリスクは覚悟してたけど、下手したら国際問題になるぞ」
「心配し過ぎよ、そのへんは依頼人だってちゃんとわかってて私たちに依頼してきたはずだから・・・・・・多分ね」
「その依頼主は何が目的なんだよ。大体コレって一ノ瀬の持ちもんなのかよ? 誰だなんだよコイツは?」
亮の疑問をぶつけてる相手は、床に転がされたまま体にタオルを掛けられている。今だ意識を取り戻しせずに気絶したままで微かに息はしていた。依頼人が霧島が伝えた荷物の回収は、この男を連れてくる事だそうだ。
「これって明らかに誘拐だろ?」
「人聞きの悪いこと言わないで、彼を見なさいよ。こんな満身創痍で虫の息なのよ、これは誘拐じゃなくて私たちが保護するのよ」
「なに無理やり正当化してんだよ。百歩譲って目的は保護でも手段は拉致だろが、それにどう見ても危ない匂いがプンプンする状況だろう、こんな危ない仕事が20万!? 割に合わねぇよ」
「ここまで来て後には引けないでしょう、それに断れる理由があるの?」
「うっ、」
霧島に痛いところを突かれてしまった。普通ならこんなおかしな仕事は簡単に断ればいいだけの話だが、依頼人が亮に見せたマナ達の写真を思いだし、下手に断ったあとマナ達に降りかかるリスクを考えれば引き受けるしかなかったのだ。
「無いようね。それじゃこの人を早く運ぶわよ。幸い今の時間帯通りに人はいないみたいだし、車を持ってくるから早く運びましょう」
「どこに運ぶんだよ? それよりもコイツどうするつもりなんだ?」
「はっ!?」
霧島の目が一瞬鋭くなる。亮はマズイ事を聞いてしまったと気づいた。この手の仕事について深く追求する事は御法度なのだ。亮が受けた依頼はこの男の搬送であって、その後どう処理するのかでわない。こっちの世界では好奇心と言う感情は、いかに危険な考え方であるのかを亮は思い出した。
「探索屋は嫌われるわよ、今のは聞かなかった事にしてあげるわ。平和ボケが抜け切れてないみたいだがら、次は気をつけることね」
霧島の忠告を黙ったまま受け止めた。
「それともう一つ、今度はちゃんとハンターバッチを持ってきてね。今回は急だったから仕方ないとして、これから連邦警察や地方警察と関わってくるかもしれないから、色々面倒な事は避けておきたいのよ」
「おい、ちょっと待て。次ってなんだよ。もしかしてこの次があるのか? 聞いてないぞ!」
「あら。何言ってんのよ、今聞いたじゃないの。心配しなくても大丈夫よ、今回のは特別よ次はこの前言ったハンター本来の仕事を私が直に依頼するから。今日のは準備体操って思えばいいから」
「涼しい顔でよくそんな事が言えたもんだな。副教らしいと言えばと言えなくもないけど、前に言ったとをり俺はハンターに戻る気なんて―」
「はいストップ!!」
突然霧島の人差し指が亮の口を塞いだ。
「いいか、ここで次の仕事をするしないの押し問答をしていてもしょうがないでしょう。取り敢えず私が車を持ってくるから、話の続きは車の中でゆっくりしまう。ねぇ!」
半ば強引に話を止められてしまったが、亮もいつまでもここにいてはマズイを考えていた。さっきの術士がまた次の襲撃に現れるかもしれないし、彼らの目的だった別の人物に鉢合わせしてしまってはまた面倒なことになるかもしれない。
ここは霧島に従って、一刻も早く現場から離れる必要があった。
「わかったよ、それなら早いとこコイツを回収してここから離れよう。話はそれからだ」
「話をわかってくれて助かるわ。今車持ってくるからそいつ直ぐに出せるようにしといて、じゃあ来ら1回クラクション鳴らすからね」
霧島が部屋を出て行くと、亮は倒れている男を慣れた手つきで担ぎ上げた。さすがに全裸はマズイと思い、掛けてあたバスタオルも一緒に羽織る。
準備が出来上がり、部屋を出る前に何か忘れ物がないかと思い部屋を一つずつ回って確認する。一体どんな生活をしていたのか気になるくらい生活感がないこの部屋では、それほど時間を掛けずに確認する事ができた。
「よし、大丈夫そうだな」
確認をすませ外に出ようとしたその時、亮は背後で冷たい視線を感じた。
振り返ると先程まで何もなかった床上で白い鴉が亮を見つめている。一瞬置物かと思ったくらい綺麗な羽をした鴉は、よく見ると足が三本ある。
「八咫烏!?」
亮が呟くと、今まで微動だにしなかったその3本足の鴉が大きく翼を広げた。そしてそのまま勢いよく亮目掛け弾丸のように一直線のまま飛び込んでくる。
「うぅっ!!」
男を背負い両手が塞がったままの亮は目を瞑ったが、何故か顔に衝撃は来なかった。目を開けてみると白い3本足の鴉の姿は何処にも見当たらず、亮は呆気にとられててしまった。
やがて外から響いた合図のクラクションで我に返った亮は、直ぐにその場を後にした。
「早く乗って乗って!!」
背負っていた男を後部座席に押し込め終わると、助手席へと乗り込んだ。無事に車が発進すると、亮はバックミラーから一ノ瀬のアパートを見つめながら昔聞いた叔父の言葉を思い出した。
『白い八咫烏が見えたとき、大門が開き鬼達が来る。その時、鬼を食い殺せたものだけが『桜の獅子』になれる。ようは通過儀礼だ。亮、お前はさぞ大きな鬼をその身に喰らうだろうな』
今までただの冗談と思って忘れていた事を思いだし、亮はあの白い八咫烏を見た時から感じていた言い知れぬ不安の波に襲われていく。
今回はいかがでしょうか、今回は2話連続掲載で文字数がだいぶ少なくなってしまって申し訳ありません。
次回からまた1話づつ掲載に戻りますのでご了承下さい。
今回も最後まで読んでれました事を心から感謝しております。今後もどうぞよろしくお願いますm(__)m




