32.新たな旅立ち
【――光の、届かない場所で】
暗闇。
何もない空間。
音も、光もない。
だが――
“視線”だけがある。
???
「……終わったか」
静かな声。
どこからともなく響く。
わずかな沈黙。
???
「……ああ」
ゆっくりと。
???
「ついに……ここまで来た」
何かが、笑う。
音もなく。
???
「長かった……」
一拍。
???
「だが――」
声が、わずかに震える。
歓喜か。
狂気か。
???
「……神よ」
低く、呼びかけるように。
???
「もう少しで――愛しの貴方を取り戻せる」
確信に満ちた声。
???
「すぐに――」
一瞬の沈黙。
そして。
???
「すべてを私のものに」
その瞬間。
闇の中に――
“翼”の影が、広がる。
その名は、まだ語られない。
拓弥(語り)
ヴァンパイアの結界から抜けた後。
俺たちは、駆けつけたエクストラ兵たちに助けられた。
そして、傷が癒えるまで、
エクストラ城で滞在することになった。
魔佐兄たちは、
先に自分たちの世界へ帰ったみたいだ。
影で暗躍していたヴァンパイアの存在を、
世界が知ることは最後まで無かった。
だが――
ポルポトが倒れたことだけは、
確かに世界へ広がっていった。
次の王は誰になるのか。
誰が、この国を導くのか。
そして――
【グリフォニア王国・王都】
朝。
空は、どこまでも澄んでいた。
広場には、多くの民が集まっている。
人間、エルフ、人魚。
かつて交わらなかった者たちが、同じ場所に立つ。
壇上。
アンジェラ
「――今日より」
静かに、しかし強く。
アンジェラ
「私が、グリフォニア王国の王として、この国を導く」
ざわめき。
アンジェラ
「強制労働による橋の建設は――中止とする」
解放された者たちの間に、安堵が広がる。
アンジェラ
「エルフへの迫害」
アンジェラ
「人魚への差別」
一つ一つ、言い切る。
アンジェラ
「――これらを、私は許さない」
【回想/エクストラ城】
静かな部屋。
戦いの傷を癒した後。
アンジェラ
「……本当に行くのか?」
拓弥
「ああ」
迷いはない。
拓弥
「ありがとう、兄貴」
一拍。
拓弥
「俺は俺の人生を生きる」
まっすぐ、前を見る。
拓弥
「ベル・エクストラの人生は――もう、とっくに終わってる」
静かに、しかしはっきりと。
拓弥
「過去に囚われるのは、もう終わりだ」
その言葉に。
アンジェラは、何も言わない。
ただ、受け止める。
光輝
「……そうだね」
短く。
拓弥
「でもさ」
少しだけ笑う。
拓弥
「また会いに来るから」
拓弥
「その時は、暖かく迎えてくれよな」
アンジェラの目が、わずかに細まる。
アンジェラ
「……勿論だ」
光輝
「この世界のこと頼んだよ」
【現在 グリフォニア王都・広場】
アンジェラ
「すぐには変わらないだろう」
現実を見据える。
アンジェラ
「だが――」
顔を上げる。
アンジェラ
「この国は、必ず変わる」
強く。
アンジェラ
「私が、変える」
【人々】
拍手が広がる。
【その中で】
リーナ
「……変わるかな」
ジール
「……変えるんだろう」
短く。
リーナは、小さく笑う。
【街道】
王都を離れる一本道。
荷物を背負った拓弥たちは、
ゆっくりと歩いていた。
拓弥は、ふと空を見上げる。
拓弥
「……また会おうな、キール(相棒)」
風が吹く。
返事はない。
それでも――
どこかでキールが笑っている気がした。
【語り】
彼らは、去った。
自らの世界へ帰り。
この世界の未来を――
この世界の者たちに託して。
空を見上げる。
広がる青。
風が吹く。
それはまるで――
“新しい時代の始まり”を告げるように。
そして俺たちもまた、
新しい旅へ向かおうとしていた。




