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20.ルオ=ハルドへ

【白の空間・光の記憶】


 ――静寂。

 風も、音も、痛みもない。

 ただ白い光が世界を満たしていた。


 光雷は、どこまでも続く白の中に立っていた。

 地面も空もなく、ただ“光”がゆるやかに揺れている。


光雷「……ここは、どこだ……?」


 声は、すぐ消える。

 けれどその瞬間、柔らかな声が返ってきた。


???「――ベル。」


 懐かしい声。

 ずっと遠い記憶の底で眠っていた、父の声。


光雷「……その声……まさか……」


 振り向くと、そこに立っていたのは一人の男だった。

 金の光を纏い、かつての王冠も鎧もない――ただの“父”の姿。


シン「久しぶりだな、ベル。」


 光雷の目が見開かれ、息を呑んだ。

 少年の頃に見上げたその瞳、その笑み。

 記憶のままの父が、そこにいた。


光雷「父さん……なのか……? でも、死んだはず……」


シン「そうだ。私はもう、この世にはいない。

 だが“神の契約”によって、最後にもう一度――

 お前に会うことが許された。」


 シンの声は優しく、けれどその奥には確かな力があった。


光雷「やっぱりヴィルヘルムは……父さんだったのか。」


シン「ああ、そうだ。

 神は私に“器”を与え、光の弓を授けた。

 お前の中に残る“闇”を祓うためにな。」


 光雷は拳を握りしめる。

 胸の奥で何かが熱く脈打っていた。


光雷「……あの時、俺は何もできなかった。

 国を……母さんを……父さんを守れなかった。」


シン「違う。

 お前は生きてくれた。それだけで十分だ。」


 シンが歩み寄り、光雷の肩に手を置く。

 その手は温かく、確かに“生”を感じさせた。


シン「ベル……生きろ。

 お前は我らの希望だ。」


光雷「……ありがとう、父さん。」


 その言葉を最後に、白い世界が静かに閉じていった。



 ーー《あれから7年が過ぎた》ーー


目覚めた俺はキールと共に打倒ヴァンパイアを掲げグリフォンの世界を旅した。


その中でジールと出会い。


リーナを助け、


グリフォニア王国を抜け


悪名高きエキドナ倒した。


そしてもう一度グリフォニア王国に訪れた時…


【グリフォニア王国・神の階段】

  俺はその階段を、ゆっくりと上っていた。

 背中には決意だけ。もう迷いはない。


キール「……光雷! どこに行くつもりだッ!」


 荒い息を吐きながら、キールが追いついてくる。

 

光雷「キール……俺は――転生する。」


 その一言に、キールの足が止まった。


キール「……は?」


光雷「ここで一度、全部を終わらせる。

 神の扉をくぐって、俺は“次の俺”に託す。」


キール「……そんなこと、させねーよ。」


 キールの目が一瞬、赤く光る。


キール「《デッドリー・ライブ》!!」


赤黒い稲妻が走り、階段の一段が砕け散る。

 光雷は片手で稲妻を展開してそれを受け止める。

 

光雷「キール、分かってくれ……!」


キール「どうしてだ……!ここまで一緒に来たじゃねえか!」


光雷「今の俺たちじゃ勝てない……でも、『転生』すれば必ず“勝機”はある!」


キール「勝機のために、すべてを捨てるのか!? そんなことしたら……もう、二度と……会えねえかもしれないんだぞ!」


光雷「俺は絶対に忘れない。

 キール、お前を。」


 その名を、はっきり呼ぶ。


光雷「……必ずまた、会いに行くから!」


キール「シャイニング・ソウル!」


光雷「ライトニング・ザ・サンッ!!」


キール「……っ、くそ……っ……!」


 歯を食いしばり、地に拳を叩きつける。


光雷「すまない。キール」


俺は神の扉へと歩みを進め、二度と戻ることはなかった……


そして転生して生まれ変わった…


雨川拓弥として――。


【エクストラ王国・城外の丘】


 ――静寂。

 風が止み、時間までもが息を潜めていた。


 拓弥は、ひとり丘の上に立っていた。

 膝の前には、苔むした墓標。

 刻まれた名を見つめると、胸の奥で何かが確かに鳴りはじめた。


 シン・エクストラ。


拓弥「……父さん。」


 その名を口にした瞬間、世界が光に包まれた。

 青白い稲妻が拓弥の全身を駆け抜け、過去と現在が交わっていく。


 眠っていたすべての記憶が、一気に開かれていった。

 腰に差していた雷の剣が、ひとりでに震える。

 手に取ると――封じられていた刃が、まばゆい光とともに再び姿を現した。


拓弥「……迷いがなくなったからか。」


 呟いた瞬間、遠くから駆け寄る足音が聞こえた。


アンジェラ「やはり……ここにいたか!」


 風を切って現れたのは、金の髪を揺らす壮年の王――

 エクストラ王、アンジェラ・ユニティス・エクストラ。


アンジェラ「……ベルなのか……?」


 拓弥は振り向く。

 その瞳に宿るのは、もう“雨川 拓弥”だけのものではなかった。


拓弥「兄貴……」


 その一言に、アンジェラの表情が一瞬で崩れた。

 王ではなく、“兄”の顔になる。


アンジェラ「……やはり……お前か。

 何度夢に見たことか……お前が、またこの地に立つ日を。」


拓弥「俺も……思い出したよ。

 全部……父上も、母上も、国も……そして、俺自身のことも。」


 白い霧が晴れていく。

 丘の上、二人の影だけがゆらりと伸びた。


アンジェラ「……転生したのだな。」


拓弥「……ああ。

 “約束”を果たしに、戻ってきた。

 今度こそ、ヴァンパイアを倒す。」


アンジェラ「ヴァン……パイア……?」


拓弥「ああ

 この世界を闇に呑み込んだやつだ。」


 アンジェラはゆっくりと頷いた。

 その瞳の奥に、王としてではなく兄としての誇りが宿っている。


アンジェラ「お前はやはり、父上(シン)の息子だ。

 頼んだぞベル……」


 兄弟の間に、沈黙があった

 だがその沈黙は、悲しみではなく“再会”の証だった。


拓弥「兄貴……力を貸してくれ。」


アンジェラ「もちろんだ。

 我らエクストラの名にかけて――世界を取り戻す。」


 風が再び吹いた。

 墓標の苔が剥がれ、刻まれた名が陽光に照らされる。


 “シン・エクストラ”。


 その文字が輝いたように見えた。


拓弥(心の声)「父さん……俺が世界を取り戻すよ。」


 【エクストラ王国・城内 謁見の間】


 白い柱が並ぶ壮麗な謁見の間。

 高い天窓から光が差し込み、拓弥――いや、ベルの立つ場所を神々しく照らしていた。


 その横には王・アンジェラ。

 しかし今、彼の瞳は“弟を見つめる兄”のものだった。


 扉が勢いよく開き、雪・光・麻里奈が駆け込んできた。


麻里奈「拓弥くん! 本当に……良かった……!」

光「王様が追いかけたと聞いて、びっくりしましたよ!」

雪「……言っただろ。無茶するなって。」


 拓弥は三人を見渡し、静かに、しかし力強く微笑んだ。


拓弥「みんな……ありがとう。

 俺……全部、思い出したんだ。」


 三人の息が一斉に止まる。


拓弥「俺は――ベル・ユニティス・エクストラ。

 この国の王子だった。」


麻里奈「……この国の王子……」

雪「マジかよ……!」

光「! じゃあ……キールさんも……?」


拓弥「ああ。キールは……間違いなく、俺の親友。

 前世で、一緒にヴァンパイア軍と戦った仲間だ。」


 空気が変わった。

 仲間たちの顔に驚きと感情が混ざる。


拓弥「兄貴、地図を借りたい。」


アンジェラ「わかった。」


 アンジェラは壁際の棚から古い大地図を取り出し、玉座前の机に広げた。


拓弥「キールと別れた場所はグリフォニア王国。

 俺たちは南ルートで迷いの森を抜けて……今ここにいる。」


 指で南から東へ曲がる軌跡をなぞる。


拓弥「なら、キールたちは――東ルート。

 このルートしか取れない。」


 拓弥の指は、灰色で塗られた街に止まった。


拓弥「“灰色の街・ルオ=ハルド”。

 ――必ず、ここを通るはずだ。」


麻里奈「えっ……ちょっと待って。

 この地図の通りに行くなら……雪山越えて、海まで渡ることになるよ!?」


雪「簡単じゃねぇぞ。この海峡は、荒波だと本書いてあったぞ……」


アンジェラ「それなら心配いらん。」


 三人がアンジェラを見る。


アンジェラ「明朝、そちらへ向かう補給馬車が出る。

 荷物に紛れ込んで運んでもらうといい。

 あそこは今……正面からは絶対に通れん状況だ。」


拓弥「……状況?」


アンジェラ「行けばわかる。

 ただし、ひとつだけ約束しよう。」


 アンジェラはまっすぐ拓弥を見つめた。


アンジェラ「向こう岸までは必ず安全に渡らせる。

 それが……兄としての責任だ。」


 拓弥の胸が熱くなる。


拓弥「……ありがとう、兄貴。」


アンジェラ「ベル……いや、拓弥。

 これは言わせてくれ。」


 アンジェラは、王ではなく“兄”として言葉を続けた。


アンジェラ「もう二度と……お前を失いたくない。

 でも、お前が行くというなら……

 私も、国も、お前を支える。」


 拓弥は深く息を吸い、まっすぐ返した。


拓弥「必ず……戻るよ。

 今度こそ、ヴァンパイアを倒す。」


光「じゃあ次の目的地は――ルオ=ハルド。」

雪「キールの野郎……まだ生きてろよ。」

麻里奈「拓弥くん……必ず再会しよう。」


 拓弥は胸の奥で言葉を噛みしめた。


拓弥(心の声)

(待ってろ、キール……

 今度こそ――必ず、会いに行く。)


 雷の剣が静かに光り、拓弥の決意に応える。


 ――こうして、再会へ向かう“第二の旅路”が幕を開けた。


 【灰色の街・ルオ=ハルド】


 海峡に最も近い街、ルオ=ハルド。

 晴れているはずなのに空気はくすみ、街全体が灰色がかったフィルターで覆われたように見える。

 潮と鉄と…そして“疲労”が混じる重い匂いが漂っていた。


リーナ「…なんか、この街……空気が重いね」


キール「だろうな。見ろよ」


 キールが顎で海岸を示す。

 そこには巨大な橋の“建設途中”の姿が、黒い骨組みのように突き出していた。


 その周辺で、無数の人々が働かされている。

 鎖付きの足枷。監督するグリフォニア兵の怒号。

 まさに“奴隷労働”そのものだった。


リーナ「…ひどい……」


ジール「…………」


 無口なジールでさえ眉をひそめるほどの光景。


キール「橋を造るために、ユニコールやオーク村から人が“消えた”ってのは…これが理由か」


リーナ「どうするの? こんなの、普通に船で渡れる雰囲気じゃないよ……?」


キール「まずは聞き込みだ。

 向こうに渡らないとヴァンパイア城には行けね……」


 キールは海を見つめた。


キール「“渡る方法”は絶対にどこかにあるはずだ」


 自分に言い聞かせるように。


【街の情報収集】


 昼間の酒場。

 店内には作業を終えた疲れ切った人々が座っている。


店主「渡りたい?やめとけ。

 今は橋の建設が最優先で、海峡の周辺は軍が完全封鎖中だ」


キール「向こう岸渡る船は?」


店主「軍の許可証がなきゃ動かせんよ。」


リーナ「仕方ないね。じゃみんなで泳いで渡ろうっか」


ジール「…………無理だ……」


キール「あの距離渡れるのはリーナだけだな」


 店出ると小さな子供が大人に突き飛ばされていた


チンピラ「エルフのガキがこんなこんなところをうろついてんじゃね」


キール「へー大の大人が子供をいじめるとはな」


 鎌取り出してチンピラを脅す。


チンピラ「ひーなんだよお前…」


 チンピラが去ったあと、路地裏にはわずかな潮風だけが残った。


リーナ「大丈夫?」


エルフの子供「…………」


 エルフの子供は、深く頭を下げるとすぐに踵を返し、細い路地へと走り去っていった。


リーナ「……どこ行っちゃったんだろ」


キール「こっそり追うぞ」


リーナ「えっ?」


ジール「…………(無言で頷く)」


 キールたちは子供の走った方向へゆっくり進む。





 街を抜け、荒野を進み、さらにその先――

 枯れた木ばかりが突き出す“死の森”のような場所へ辿り着いた。


リーナ「……ここ、さっきの子が来るような場所じゃないよ」


キール「だからこそ、だろ。

 人目につかず、追われたら絶対に来れねぇ場所ってことだ」


ジール「…………(周囲を警戒し続ける)」


 周囲は風が吹くだけで木が折れそうなほどの枯れ木地帯。

 だが――エルフの子供は迷いなく進んでいく。


キール「ほら、見ろ。あそこだ」


 子供は立ち止まり、周りを見渡したあと――

 空間の一点に、そっと手を触れた。


 すると――


 “波紋”が広がった。


リーナ「えっ……空間が揺れた……?」


ジール「……隠している……何かを」


 子供はその揺れた空間の“中へ”滑り込むように姿を消した。


リーナ「き、消えた!!」


キール「次元?いや次元じゃねぇ……

 高度な“結界”だな。」


 キールは空間に指先を伸ばす。


キール「……急げ。閉じる前に入るぞ!」


 3人も結界の中へ飛び込んだ――その一瞬後。


 空気が変わった。


【エルフの里・外縁部】


 視界が切り替わる。


 さっきまでの枯れ木だらけの景色は跡形もなく、

 緑が光る美しい森が広がっていた。


リーナ「……わあ……!何ここ……!」


 葉には微かな光が宿り、花々は風と一緒に歌うように揺れている。

 森の奥には小川のせせらぎ――そして、古い木でできた吊り橋や住居が点在していた。


ジール「……まるで、別世界だ……」


キール「結界の“内側”は、こうなってるのか……」


 その時――


 ひゅっ。


 空気が揺れ、数本の矢が彼らの足元に突き刺さった。


リーナ「きゃっ!」


キール「なっ……!」


 木々の上から、影が音もなく現れる。


 白銀の髪。

 透けるほど薄い肌。

 鋭い耳を持つエルフの戦士たちが、

 弓を構えたまま、彼らを取り囲んだ。


エルフ戦士A「ここは“聖域”だ。外の者は、引き返せ。」


エルフ戦士B「ここ最近、グリフォニアの兵が周辺で嗅ぎ回っている。

 侵入者を通すわけにはいかない。」


キール「……チッ。歓迎ムードじゃなさそうだな。」


ジール「……(鎖には触らないが、警戒は解かない)」


 緊迫した空気が森の中を張りつめる。


エルフ戦士A「そこの白髪の男……

 その忌まわしき武器と共に、ここへ何しに来た?」


 キールの眉がぴくりと動く。


キール「……ああん? 喧嘩売ってんのかよ。」


リーナ「――やめて!!」


 リーナが一歩、前に出た。


リーナ「私たちは敵じゃないの!

 私は……リーナ・エリート。人魚族の女王です。」


 その瞬間、エルフたちの表情に変化が走った。


エルフ戦士B「……エリート?

 まさか、人魚族の“女官マリア”の血筋か……?」


リーナ「う、うん……! マリアは私のおばあちゃん!」


 森の空気がふわりと揺れた。

 エルフたちは互いに視線を交わし、徐々に弓を降ろしていく。


エルフ戦士A「……入りなさい。長老が、お待ちです。」


リーナ「え……待ってる? どういうこと?」


エルフ戦士A「“マリア様の孫”が来ることを――

 長老エリエル=ナイア様は、予言されていました。」


キール「なるほどな……長老さんは、只者じゃねぇってことか。」


ジール「…………(小さく頷く)」


 こうして、

 キール・リーナ・ジールの三人は――


 1500年以上生きるエルフ長老が待つ“里の中心”へと進むことになる。


 森の奥、風と光が交差する“聖域”へ……。

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