一章 第一話 日常
知られざる場所の知られざる本にこそ面白さがある。
このキャッチコピーに惹かれたらお越しください
別天知図書館
ピピピ…
目覚ましの音を止め、眠い目を擦ってどうにか体を起こす。
「今日からまた会社かよ…」
朝の支度を済ませ、電車に揺られ、よくわからない仕事を訳もわからないまま進め、上司に怒られるそんな日々がどうにもつまらない。
部下にも「佐藤先輩って、いっつも虚無顔ですよね〜上司さんにも男なら…とか言って、歌舞伎町に連れていかれても、顔色一つ変えずに淡々と時間を潰してて逆に尊敬しちゃいましたよ。」
そんな尊敬はいらないとは思うものの、部下に慕われているだけまだ楽しい方なのかもしれない。
帰り途中の裏道でボソッと「なんか刺激が足りねぇよなぁ…この生活」とぼやくほどには、何の変哲もない生活だった。
すると、後ろから肩を叩かれた。
「すみません…何か私落としてました?」
と振り返ると、そこには自分よりもいくつも年下のお兄さんが、なんとも言えないような顔で立っていた。
「いえ、違うんです。あなたに刺激とやらの届けてあげようかなと。」
淡々と私を連れ出す準備をする彼を見て、なんとも言い表せない気持ち悪さを感じた。
「たしかにさっき刺激が足りないとは言いましたけど冷やかしとかボッタクリバーとかには興味はありませんよ?帰ってもいいですか?」
「そのようなものではございません。そのような素振りがあったならすぐに帰ってもらって構いませんので、騙されたと思ってついてきてください。いいものを見せてあげます」
怪しさ満点の見た目でよく言うよとは思うものの、実際ここまで言われるとどんなものなのかは、確かに気になってしまう。
「家に帰っても何もすることもないのでついていきますけど、本当に変な事があったらすぐに帰らせてもらいますからね!」
「えぇえぇやっと乗り気になってくれましたか!ではこちらへ」
後ろをついて行く時にいつもと違う道を通り、スマホの地図アプリで調べても、正しい方向も示せないような場所に連れて行かれた。
「まだ着かないんですか?もうだいぶ歩いたと思うのですが」
「もう少しだけ付き合ってください。もう着きますから」
そうして、言われるがままにしていると急に開けた場所に到着した。
「あれは…図書館?」
「はい。今となっては誰も来館されないので景観も杜撰といったものですがね」
「なんで私をこんな場所に?本ならば今やネットでワンクリックで解決してしまうような世の中だと言うのに」
「ここの本は他とは一線を画すような本ばかりなんですよ」
「試しに一冊借りている本があるので、読んでみてください」
ペラっとページをめくると、図書館ごと周りがガラリと変わった
「またよくもわからない場所に出てしまったな…」
「どうです?他と一線を画すの意味がわかりましたか?」
「確かに理解は出来た。だが移動するからといって、今のところ何か変な事が起きてもない。刺激というにはちと計算が甘いのではなかろうか?」
「今に見ててください。そろそろですよ」
その言葉を聞くやいなや目の前にドデカいキノコが出てきた。
「おぉ、こういうのでいいんだよそうそう…デカくね?」
珍しく動揺していると隣から声がした
「どうでしょう?これならば刺激があるでしょう?」
「刺激というか命の危機っていうか…とりあえず凄いのは分かりましたから、助けてくださいよ」
「わかっていただけたならうれしい限りです。では終わり方を説明しておねばなりませんね」
そう言って天高く栞をかかげると、そこは例の図書館の前だった
「た、助かった…自分から刺激を求めた癖に、元の場所に戻った瞬間ここまでホッとするなんて自分は一体何が欲しいのやら」
「一度やってみたからこそ言えることもありますし、この図書館の本は今回のようなものばかりではないので、次お越しになった際には別ジャンルのものを紹介いたしましょう」
「元の場所までお見送りいたしますよ」
といってスタスタと歩いていき、元の裏道に着いた。「ではまたのご来館をお待ちしております」
と言い残して、そそくさと帰ろうとしていたので
「あの…名刺だけでもください」
というと、急に目の前まで寄ってきて
「名刺ですね!いやぁ良かった良かった。先ほどのものを見せると、皆さん怯えて二度と来てくださないことがほとんどでしたので、お客様のような人が来てくれて本当に嬉しいんですよ。もしよろしければ、本図書館のことを同僚や上司様にもご紹介いただけないでしょうか?」
そう言って10枚も押し付けてきたので、仕方なく名刺入れに一枚だけ入れ、後はファイルにしまった。
その後帰路でタクシーを捕まえ、名刺を読んでみた。
”別天知図書館 館長藤原隆道”
裏には、ご丁寧に図書館の電話番号、本人の電話番号、図書館への行き方や愛読書まで書いてあって、余計に怖くなった。
家に帰り、ネットで図書館のことについて調べてみたが、何一つとして引っかからなかった。
その日は、それでよしにして、翌朝公民館や地域図書館などで、歴史をしらべてみたがやはり何も引っかからない。
首を傾げていると、従業員さんが
「何かお探しですか?」
と聞いてくるので、
「別天知図書館ってわかります?ほらこの名刺の場所」
と、ファイルから一枚名刺を取り出し渡す
すると、分からないが館長ならば…とわざわざ館長を呼んできていただいた。
館長曰く、
「私の祖父が朧げに話していた図書館に似ているが確かなことはわからない。一度お調べするので1週間お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
とのことだった。
これで、何かあの奇怪な図書館のことについて何かわかればいいのだが。
その後、退勤時に名刺の通りに進んでみると、やはりあの男が立っていた
「昨日だけでなく、今日もお越しくださったのですね!来館した方々には、こちらのスタンプを押していただくことになっていますので、手を出してください」
スタンプカードなどではなく、手なのかと少し驚きはしたが、昨日の不可解な現象を見た後なので、すんなり受け入れてしまった
「スタンプも済んだところで、今回は館内でも案内いたしましょうか」
そう言って、今時珍しいドアノッカーを叩くタイプの扉を通って中に入ると、そこはまるでこの世の本が全て置いてあるのではないかと思う程膨大な量の本と、それをしまう棚がずらりと並んでいた。
「ここに来た人は、壮観だなぁなんて呑気な事を言うものですから私としても、この本達と巡り合ってそんなこと言えないぐらい虜になっていただきたいな。なんて思うのです」
「そうそう。そういえば、見せるだけ見せてまだもったいぶっていたものがありますよね。」
といって、朝顔の描かれたようななんて変哲もない栞を渡してきた。
「まぁこの前の栞は、皆さんで言うところのマスターキーのようなものですので渡せないのですが、この朝顔の栞でしたらこの棚の本なら大体のものは読めますので」
といって、自分よりも何倍も大きい本棚を指指して言ってきた。
「すみません…ここにきていうのもなんですが、の棚で一番お勧めの本ってどれですかね?後脚立的なものを…」
というと少しクスッと笑ってから
「そういえばまだ2回目でしたものね。右も左も分からない人に何をしてるんでしょう。私は」
といって、脚立とオススメの本を一冊ひょいと持ってきてくれた。
「ではひとまず私の管轄外で事故でも起こされると困りますので、一度その栞を使って本の出入りを試してみてください」
と言われたので、そっと本を開いてみるとこの前のものとは違い、凄く落ち着いた空間に出た。
小鳥もさえずり、花も辺り一面に広がっている
一生ここにいてもいいんじゃないだろうかと錯覚するほど居心地が良かった。
「刺激より今は癒やしが欲しいと思いましたので」
「たまにはこんな風に後先考えずに休める空間っていうのもいいものですよ」
そんなこんなで一時間は経過しただろうか。
「じゃあそろそろ帰りますわ」
不思議と打ち解け、タメ口になっていたがそのまま栞を天高く栞をあげて本を閉じた。
「この本って借りれますか?」
ふと図書館ならば…と思い、聞いてみると急に真顔に戻り、身分証明書で手続きをお願いしてきたので、マイナンバーを渡し、普通の図書館と同じような手順で、無事カードを作ってくれた。
「有効期限は1週間ですので、忘れずにご返却ください。こんなよくわからない図書館で有効期限切れなんて何があるかわからないですから」
と、少し冗談交じりに教えていただいた。
家に帰ってから再び本を開き、缶ビールとスルメを持っていき、そのままゆっくりと眠りについた。
そう。栞で閉めることなく寝てしまったです




