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黒少女  作者: 真冬 白雪


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12/12

#10

 【_______あの子を殺したのはネファスじゃないからね?】


 その言葉が今もなお、私の心をき乱す。

______________________________________


 自己紹介を終えた後、零祓れいはは私に部屋の提供を提案してきた。高級マンションなだけあって部屋は余っているらしく、どこでも好きなのを使っていいと言われた。


 羽毛のベッドの柔らかなぬくもりに気だるげな身体を預け、眠りについた。

 けれど、私の心は冷たいままだ。いずれ、羽化しなければいけないと理解わかっていて、拒み続けている様で何だか情けなくなる。これでは、引きこもりと変わりない。

 寝返りを打つ度に目を開けて軽い深呼吸をした。張り詰めた気持ちと脳内で再生される、光景が動作をさらに加速させる。


 「零祓は、ああ言ってたけど・・・それって、ネファス以外にも()()って事だよね・・・・・・次から次へと・・・・・・・・・」


 人間の内容物を初めて見た衝撃ショックは想定以上に精神に深い傷を刻んでいた。散乱した臓器が地面に飛び散り、細々とした肉片が壁にこびりつい____


 「____っ! うぅっ・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・・・はぁ」


 瞬時に押し寄せる吐き気が強制的に意識を覚醒させ、右手を額に当てた。躍動する心音に急かされて呼吸が酸欠を起こし、視界を曇らせる。


 「・・・何か飲まない・・・・・・と・・・」


 口の渇きにそくされて部屋を出た。寝室及び通路は既に電気が消されており、ひんやりとした静けさが微かな環境音と共に存在していた。リビングに歩みを寄せた私はキッチンのシンク前に立った。

 そのまま傍に置いてあった、コップを手に取ると蛇口をひねり、水を注ぎ喉に流し込んだ。


 「うっく____!・・・はぁ・・・・・・」


 しかし____


 「・・・・・・・・・気持ち悪い」


______________________________________


 部屋に戻った私は眠りにつく気にもなれず、なんとなくベッドに腰かけた。センチメンタルな気分で窓から眺めた夜空は雲から零れた月光によって微かに闇夜を照らし、カーテンの隙間から部屋に差し込まれていた。

 ぶらぶらと揺らしていた足を止め、間を置いてから再び安らぎに身を任せることにした。扉に背を向け、毛布に縮こまった私は無理やりにでも夢の世界に介入しようと瞳を力強く閉じた。逆効果だと分かっていても、私には現実との繋がりを遮断する方法を他には知らなかった。


 ギィ____


 (____ッ!?)


 「・・・なっ・・・・・・な・・・に?」


 咄嗟に起き上がり、くるまった毛布を全身に巻き付け身をまもる様に音のした方へ視線を向けた。


 ギィィ____


 ゆっくりと、徐々に開かれる扉を前に硬直してしまう。


 ギィィィ____ガチャッ_______


 ドアノブが戻る音がした。暗闇に目が慣れておらず、ぼんやりとした人型の輪郭だけが視認できた。

 手探りで武器になる物を探そうと右手を動かす。


 (ネファスが私を追ってきた・・・? いや、それなら零祓が気付くはず)


 切迫した緊張感と抵抗するための意思を胸に目の前の奇襲に神経を集中させる。


 そして____


 「ふぁ~~~~・・・・・・」


 「!?」


 寝ぼけているのか、おぼつかない足取りで目をこすりながら半袖シャツ姿の少女が部屋に入ってきた。聞こえた声は間違いなく、零祓だ。


 「ちょっ、急にどうしたの・・・?!」


 反射的に返した。


 「あれぇ~どうして、れいにゃが私の部屋にいるの~~~~?」


 「ここは、私の部屋! 零祓の部屋はあっちでしょ!」


 「え~~~そうだっけ? まぁ、いいや。 丁度、抱き枕が欲しかったんだよね~~~~」


 「____?!」


 働いていない思考で私に向けられた質問。答えた所で意思の疎通は難しいだろう。

 そうしている内にも、深夜の来訪者はベッドへと忍び寄ってくる。


 (・・・ど、どうすれば・・・・・・隙を突いて部屋を出るか?)


 零祓の影が私を覆い隠す瞬間、すかさず体を反らし、予備動作でそのまま彼女の背後へと動い____


 「きゃっ____!」


 だがしかし、相手は狩人・・・・・・私の動きなどスローモーションに見えていたに違いない。頭で思い描いた脱出経路を実行する僅か手前、コンマ何秒のズレが命取りとなった。


 「捕まえた~」


 足首を掴まれ、そのままベッドへと引きずり込まれる。拘束から逃れようとバタバタと両手両足を暴れさせ、相手のバランスを崩そうとするのだが、底知れぬ力で抵抗虚しく抱き枕に成り下がる。


 「マシュマロみたい~~~~」


 背後から、がっしりと回り込ませた両腕が体の自由を奪う。当の本人は無意識でやっていることだから余計にたちが悪い。


 むにゅっ____!


 「あっ____ちょっ・・・やめっ!」


 脇腹の両端から伸びた腕が少しだけほころんだと思った次の瞬間、零祓の両手が弱点を触り始め・・・・・・・・・。胸・腹・腰、柔らかな感触が感じられる部位をむ様に撫でまわす。シャツの隙間から入れられた左手薬指がへそかり耐えようのない感覚に跳ねる体。


 「くすぐっ・・・・・・た・・・いっ____!」


 だが、その程度では終わらなかった。スルスルと下腹部に移動した手は下着の隆起で止まり、布と肌の間に指を入れ____


 「良い・・・か・・・・・・げん・・・に・・・・・・」


 拒否する心と裏腹に体は徐々に熱を帯びてゆく。内側から込み上げる未知の快感に思考が停止しそうになる。

 私は最後の力を振り絞り、彼女の奇襲に一矢報いることにした。


 「してっ_______!」


 バサッ____!


 思いっきりひねった体で零祓の方に寝返りを打った。


 「____っえ」


 目が合った。青い青い透き通った瞳と____。

 背後に感じた無邪気さとは一転して、視界に映る美しくも儚い黒髪の少女。その、あまりの変化に動揺し思わず息を呑んだ。開いた口が塞がらず、高ぶった気持ちからの荒い息遣いが室内に小さく響く。


 「_______落ち着いた?」


 口を開いた零祓の目尻には微かに笑みが浮かんでいた。


 「は・・・・・・はぁ?」


 あまりにも無責任な問いかけに混乱する頭。向かい合った事で体を掴まえていた両腕がいつしか私を包み込んでいた。


 「_______気づかないわけないじゃん?」


 本当は自分が一番、彼女の回答を分かっていた。


 「_______あんなことがあって、普通でいられるわけない。 無理しなくていいんだよ」


 その哀れみの中にある優しさに心が揺らぐ。感情をさらけ出してしまったら、私はもう____強い自分でいられなくなる。


 「_______今だけは、そのままの麗亡を見せてよ」


 零祓の言葉に溢れ出しそうな感情を押さえ____


 しかし、身体は宿主本人(終繭 麗亡)の尊厳を守る事を放棄した。


 _______うっうぅ・・・うぅぅぅ・・・・・・・・・ぅわ・・・わぁぁぁぁ・・・・・・・・・あああぁぁぁぁあぁァァァァァァあぁぁあああぁァァァああああああアアァァァァァアァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァアァァァァァァァァあああああああああああああああああああああああああああああアァァァァァァああああああァァアァァァァァァァァァァァああああアアアァァァァァァああああアァァァァぁぁぁぁぁぁァァあああああああああああああああああああああアアァァァァァァァァァアァァァぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 喉が潰れる程の慟哭どうこくが視覚・聴覚をグチャグチャに崩していく。制御不能になった精神の動向は私自身にも分からなかった。止めどなく溢れ出る感情の濁流だくりゅうに際限は無く、逃げ場のないいきどおりに押し潰され意識が飛びそうになる。

 零祓の胸に顔をうずめ、頭を撫でられながら泣きわめく私を彼女はどう思っていたのだろう?普段、絶対に人には見せない醜態しゅうたいを晒していることに後悔したのは言うまでもない。

 だけど、私にはどうする事も出来なくて____。


 かなりの時間を彼女の胸の中で過ごした。その間も彼女の愛撫は続き、いつしか落ち着きを取りもどしていった。ぐったりとした汗をかいた体は肩で息をしいていた。


 不貞腐れ、涙で台無しになった顔を見られまいと零祓から目を背けた。

 しかし、このままでいいわけでもないと分かっていた。彼女には聞かなければいけないことがある。


 それから、私は夜ノ舞 零祓に事の顛末てんまつを詳細に問うた。話される内容はどれも、現実離れしており、子供に読み聞かせる絵本にしては随分と物騒だと思った。でも、不思議と語られる話に嘘偽りは感じられず、ただ質疑応答への誠実な対応が読み取れた。


 しばらくして、私は事切れた様に意識をゆっくりと手放し____


 「_______よしよし。 ゆっくり、おやすみ 麗亡」


 ささやく様に言い放たれ言葉に何も言えないまま、夢に落ちていった。彼女のその意外な一面に驚くのと同時に大人の余裕っぷりな態度に自分との対比を感じ、軽い苛立ちを覚えていた。


 (これじゃあ、まるで_______)


 _______子供みたいじゃない。


 完全に意識が遠のく少し前、私は零祓の胸でそんな言葉を呟いていた。

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