第60話 白の極光
「ッ─ ─。フフッ……! 面白い、やはり面白いですねぇ?!」
「────」
緑の剣閃がアイリスへと襲いかかるが、その全てが彼の間合いに入る以前に消失し、肉薄することを叶わない。
「『覇閃』─ ─でしたっけ? 『覇断』を斬撃として飛ばす技術。これは誰から教わったんですかぁ?!」
「─ ─うるさい口だな」
「ッ──!」
ここぞとばかりに挑発するが、アルバートが彼へと向かって跳び、その長剣をアイリスの細剣とぶつけ合う。
両者の実力は拮抗─ ─否、若干アルバートが上回り、激しい火花が緑の園へと弾けた。
「あぁ、やはり強い。こんなことは最初から分かっていました」
「────」
「いくら身体能力が拮抗していても、貴方はその馬鹿げた技量が存在している。それは何者にも打ち砕けない」
敵ながら褒め称える姿にアルバートは感心する─ ─わけもなく、ただ単に憎悪の双眸を向けていた。
それを簡単に流し、アイリスの細剣に僅かばかりの雷が迸る。
「─ ─出来れば、この後の連戦に備えておきたかったですが……まぁ、『炎帝』達は無事にやってくれるでしょう。少々、侮ってしまい、ここに謝罪しますよ」
「─ ─ッ!!」
明らかにアルバートに激情を渦巻かせるような声音を奏でながらバチバチ、と音を鳴らした細剣が妖しく煌めく。
「─ ─『魔剣』……!」
「おぉ?! よく知ってますね! この剣の名は─ ─『紫電』。これからワタクシの二つ名がついたんですよ!」
魔剣は魔人達が使う剣で、魔に適合していない人─ ─つまり、人間を殺すためだけに創られた剣だ。
「そんなもんをどこから─ ─」
「さぁ? 貴方にそれを知る権利は無いです」
─ ─刹那、類を見ない速さでアイリスがアルバートに連続して突きを繰り出す。どれも的確に長剣で抑えていくが、防一戦状態と化してしまう。それはどんどんと加速していった。
「────」
「声も出せませんか?! まぁ、貴方に不利な地形で戦って多少の罪悪感は残りますが─ ─ワタクシの愉悦には勝らない!!」
恍惚とした嗤い顔を浮かべながら、舐め回すような目でアルバートを見つめる。それはなんとも気色悪くて、吐き気を催すものだ。
「ッ─ ─!」
「ハハハハハッ!!! 今代ならワタクシ達でも勝てそうですねぇ?!」
『天頂の円卓』の先代はまさに最強を冠していた。第一部隊以外でも、ランク9がゴロゴロと存在しており、勝ち目など無かった。
寧ろランク10がいないことが不思議なくらいだ。
「そろそろ死んでくださいッ!!」
「なっ─ ─!?」
長剣と細剣が再度、相対した瞬間、アルバートは自分の中に電撃が迸る感覚に陥った。
剣を握る手が緩んで、視界が歪み、意識が少しずつ薄れる感覚へと促される。
─ ─でも、
─ ─この、憎悪だけは、間違いなく暗く輝いていた。
「─ ─『女神の擬螺旋』」
「がっ?!?!」
堕ちる寸前に、アルバートは瞳を大きく開いて剣を握り直し、技をアイリスへとぶつけた。
その渦巻く緑の螺旋はアイリスを捻り、斬り裂く。
「っ……、本当に規格外ですねぇ。この技で『剣豪』は一撃だったのに……」
「……カールは生きてるのか?」
その絶対零度の声音はアイリスを震え上がらせた。
しかし、彼は笑みを崩さずに口を開く。
「さぁ? どうでしょう? 少なくとも、カインさんは殺しましたよ」
「ッ─ ─!!!」
「私の技に加えて、心臓を一突き。助かる道理がありません」
アルバートの憎悪はどんどんと増幅していく。
自分の仲間が愛している人を、目の前の屑は殺したのだ。怒りは上限を軽くとっぱらい、濃く渦巻いていた。
「─ ─お前は世の中の為にも今すぐ死ぬべきだ」
「自分の為、ではなくてぇ?!」
「─ ─!」
憤怒が宿る『覇閃』がいとも簡単に飛ばされ、その全てをアイリスはナニかで容易く撃ち落とす。
「最初に比べてキレが無いですねぇ? そろそろ異力が切れるんですか?」
「────」
アルバートはその問いに何も応えないが、僅かに顔を顰め、動揺を見せてしまう。それを見逃すアイリスではなく、顔が歪んだ嗤い顔へと化していく。
「もう、一歩。ってとこですかねぇ?」
「─ ─お前もさっきのをまともに喰らって、無事な筈がないが?」
「確かに、あれは痛恨でしたね。ですが、貴方は戦闘続きで疲れ切っている身。元々の体力が違います」
アルバートは今さっきこの階層─ ─第84階層に降りてきた身だ。
疲れはどれ程のものか、想像がつかない。
「いきますよぉッ?!」
「……チッ」
猛攻、その細身からはありえない膂力で突きを幾度も幾度も繰り出していく。
アルバートは残り僅かな異力を効率良く使って防いでいくが、それでも防ぎきれず、身につけている服に鮮血が付着していった。
「─ ─『異力封殺』ッ!」
「なっ?! まだ異力がそんなに……?!」
アルバートは苦肉の策で自らのスキルを発動し、攻撃が当たる瞬間、その一点のみに障壁を張ることでアイリスの『紫電』を無効化していた。もちろん、単純な切り傷はできるが。
「っ……、そろそろ死んで欲しいんですが!」
「─ ─お前の魂を地獄へと堕としてやるよ」
猛攻が緩んだその瞬間、アルバートは一気に体勢を立て直して剣をアイリスへと振るった。その一振は怒気と殺気と共に振り下ろされる─ ─
「─ ─『女神の擬神威』」
「────!?!?」
その剣は緑色に染まっている筈なのに、アイリスには白の極光に見えた。
◇◆◇
「─ ─ゴブッ……。まずいですねぇ……完全に致命傷です」
「じゃあな、外道。あの世で悔やんで逝け─ ─」
「【アンロック】」
「っ─ ─?!」
アルバートがアイリスの首に剣を振るおうとした瞬間、地震が発生した。一瞬の隙を見せたアルバートは倒れていたアイリスを逃がしてしまう。
「さぁ! 死なば諸共ですよぉ!!」
「何を言って─ ─」
ゾクリ、とアルバートは背筋が震えた。
圧倒的な悪寒、圧、殺気。そのどれもが恐ろしい。
「っ?! なっ?!」
地震は地割れへと変化し、彼等の地面が裂けた。
二人は同時に下へと落下していく。
「っ……、来たくなかったな……」
アルバートの目の前に広がるは洞窟。第81階層にも酷似している場所だ。魔灯石が薄暗く辺りを照らし、アルバートは剣を構える。
彼の先にはアイリスが座り込んでおり、何やら諦めたような瞳をしていた。
「ははっ……ワタクシは貴方さえ殺せればそれでいい」
「……お前にそんな余力はないだろ」
「そうですねぇ……ですが、これならどうですか?」
ガシャン、と岩が崩れる音が背後から聞こえた。
そして、おぞましいナニかが背後にいるのも感じ取れた。
アルバートは、それがナニか知っていた。
よぉーく、知っていた。
『─ ─ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「紅、龍─ ─」
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