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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第三章  『迷宮区グラン』

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第60話  白の極光



 「ッ─ ─。フフッ……! 面白い、やはり面白いですねぇ?!」


 「────」


 緑の剣閃がアイリスへと襲いかかるが、その全てが彼の間合いに入る以前に消失し、肉薄することを叶わない。

 

 「『覇閃(はせん)』─ ─でしたっけ? 『覇断』を斬撃として飛(・)ば(・)す(・)技術。これは誰から教わったんですかぁ?!」


 「─ ─うるさい口だな」


 「ッ──!」


 ここぞとばかりに挑発するが、アルバートが彼へと向かって跳び、その長剣をアイリスの細剣とぶつけ合う。


 両者の実力は拮抗─ ─否、若干アルバートが上回り、激しい火花が緑の園へと弾けた。


 「あぁ、やはり強い。こんなことは最初から分かっていました」


 「────」


 「いくら身体能力が拮抗していても、貴方はその馬鹿げた技量が存在している。それは何者にも打ち砕けない」


 敵ながら褒め称える姿にアルバートは感心する─ ─わけもなく、ただ単に憎悪の双眸を向けていた。

 それを簡単に流し、アイリスの細剣に僅かばかりの雷(いかずち)が迸る。


 「─ ─出来れば、この後の連戦に備えておきたかったですが……まぁ、『炎帝』達は無事にやってくれるでしょう。少々、侮ってしまい、ここに謝罪しますよ」


 「─ ─ッ!!」


 明らかにアルバートに激情を渦巻かせるような声音を奏でながらバチバチ、と音を鳴らした細剣(レイピア)が妖(あや)しく煌めく。


 「─ ─『魔剣』……!」


 「おぉ?! よく知ってますね! この剣の名は─ ─『紫電』。これからワタクシの二つ名がついたんですよ!」


 魔剣は魔人達が使う剣で、魔に適合していない人─ ─つまり、人間を殺すためだけに創られた剣だ。


 「そんなもんをどこから─ ─」


 「さぁ? 貴方にそれを知る権利は無いです」


 ─ ─刹那、類を見ない速さでアイリスがアルバートに連続して突きを繰り出す。どれも的確に長剣で抑えていくが、防一戦状態と化してしまう。それはどんどんと加速していった。


 「────」


 「声も出せませんか?! まぁ、貴方に不利な地形で戦って多少の罪悪感は残りますが─ ─ワタクシの愉悦(ゆえつ)には勝(まさ)らない!!」


 恍惚とした嗤い顔を浮かべながら、舐め回すような目でアルバートを見つめる。それはなんとも気色悪くて、吐き気を催すものだ。


 「ッ─ ─!」


 「ハハハハハッ!!! 今代ならワタクシ達でも勝てそうですねぇ?!」


 『天頂の円卓』の先代はまさに最強を冠していた。第一部隊以外でも、ランク9がゴロゴロと存在しており、勝ち目など無かった。

 寧ろランク10がいないことが不思議なくらいだ。


 「そろそろ死んでくださいッ!!」


 「なっ─ ─!?」


 長剣と細剣が再度、相対した瞬間、アルバートは自分の中に電撃が迸る感覚に陥った。


 剣を握る手が緩んで、視界が歪み、意識が少しずつ薄れる感覚へと促される。


 ─ ─でも、


 ─ ─この、憎悪だけは、間違いなく暗く輝いていた。



 「─ ─『女神(セルフィナ)の擬螺旋(らせん)』」


 「がっ?!?!」


 堕ちる寸前に、アルバートは瞳を大きく開いて剣を握り直し、技をアイリスへとぶつけた。

 その渦巻く緑の螺旋はアイリスを捻り、斬り裂く。


 「っ……、本当に規格外ですねぇ。この技で『剣豪』は一撃だったのに……」


 「……カールは生きてるのか?」


 その絶対零度の声音はアイリスを震え上がらせた。

 しかし、彼は笑みを崩さずに口を開く。


 「さぁ? どうでしょう? 少なくとも、カインさんは殺しましたよ」


 「ッ─ ─!!!」


 「私の技に加えて、心臓を一突き。助かる道理がありません」


 アルバートの憎悪はどんどんと増幅していく。

 自分の仲間(メルダ)が愛している人を、目の前の屑は殺したのだ。怒りは上限を軽くとっぱらい、濃く渦巻いていた。


 「─ ─お前は世の中の為にも今すぐ死ぬべきだ」


 「自分の為、ではなくてぇ?!」


 「─ ─!」


 憤怒が宿る『覇閃』がいとも簡単に飛ばされ、その全てをアイリスはナニかで容易く撃ち落とす。


 「最初に比べてキレが無いですねぇ? そろそろ異力が切れるんですか?」


 「────」


 アルバートはその問いに何も応えないが、僅かに顔を顰(しか)め、動揺を見せてしまう。それを見逃すアイリスではなく、顔が歪んだ嗤い顔へと化していく。


 「もう、一歩。ってとこですかねぇ?」


 「─ ─お前もさっきのをまともに喰らって、無事な筈がないが?」


 「確かに、あれは痛恨でしたね。ですが、貴方は戦闘続きで疲れ切っている身。元々の体力が違います」


 アルバートは今さっきこの階層─ ─第84階層に降りてきた身だ。

 疲れはどれ程のものか、想像がつかない。


 「いきますよぉッ?!」


 「……チッ」


 猛攻、その細身からはありえない膂力(りょりょく)で突きを幾度も幾度も繰り出していく。

 

 アルバートは残り僅かな異力を効率良く使って防いでいくが、それでも防ぎきれず、身につけている服に鮮血が付着していった。


 「─ ─『異力封殺』ッ!」


 「なっ?! まだ異力がそんなに……?!」


 アルバートは苦肉の策で自らのスキルを発動し、攻撃が当たる瞬間、その一点のみに障壁(スキル)を張ることでアイリスの『紫電』を無効化していた。もちろん、単純な切り傷はできるが。


 「っ……、そろそろ死んで欲しいんですが!」


 「─ ─お前の魂を地獄へと堕としてやるよ」


 猛攻が緩んだその瞬間、アルバートは一気に体勢を立て直して剣をアイリスへと振るった。その一振は怒気と殺気と共に振り下ろされる─ ─


 「─ ─『女神(セルフィナ)の擬神威(しんい)』」


 「────!?!?」


 その剣は緑色に染まっている筈なのに、アイリスには白の極光に見えた。






◇◆◇






 「─ ─ゴブッ……。まずいですねぇ……完全に致命傷です」


 「じゃあな、外道。あの世で悔やんで逝け─ ─」


 「【アンロック】」


 「っ─ ─?!」


 アルバートがアイリスの首に剣を振るおうとした瞬間、地震が発生した。一瞬の隙を見せたアルバートは倒れていたアイリスを逃がしてしまう。


 「さぁ! 死なば諸共ですよぉ!!」


 「何を言って─ ─」


 ゾクリ、とアルバートは背筋が震えた。

 圧倒的な悪寒、圧、殺気。そのどれもが恐ろしい。


 「っ?! なっ?!」


 地震は地割れへと変化し、彼等の地面が裂けた。

 二人は同時に下(・)へ(・)と(・)落下していく。



 「っ……、来たくなかったな……」


 アルバートの目の前に広がるは洞窟。第81階層にも酷似している場所だ。魔灯石が薄暗く辺りを照らし、アルバートは剣を構える。

 彼の先にはアイリスが座り込んでおり、何やら諦めたような瞳をしていた。


 「ははっ……ワタクシは貴方さえ殺せればそれでいい」


 「……お前にそんな余力はないだろ」


 「そうですねぇ……ですが、これならどうですか?」


 ガシャン、と岩が崩れる音が背後から聞こえた。

 そして、おぞましいナニかが背後にいるのも感じ取れた。

 アルバートは、それがナニか知っていた。

 よぉーく、知っていた。



 『─ ─ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』



 「紅、龍─ ─」



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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