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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第三章  『迷宮区内乱編』

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第49話  世界最強と呼ばれる男



 「おら、着いたぞ」


 「……意外とここも変わったもんだな」


 馬車を降りて俺達の目に映し出される光景は以前とはかなり変わっていた。恐らく、あの襲撃事件のせいで殆ど作り直しになったのだろう。

 見慣れた家は既に無くなり、新たな家に。

 いつもやっていた屋台は消え、瓦礫の物置に。

 人々は前よりかは活気があるが、それでも一定数暗い影を持つ者はいた。神聖国家とは大違いだ。

 まぁ、あっちはそこまでの死傷者は出なかったからな。


 俺達は兄貴に続き、足を進めていった。


 「ここだっけか?」


 兄貴の腑抜けた声と共に俺達の前に現れた建物は、それは壮観だった。

 この街一番のデカさを持つ家と言っても過言では無いくらい、でかいのだ。 

 家の後ろの方に見える庭はとても広く、何やら人の声も聞こえる。

 さっすが世界最強クラン。金持ってんなぁー。


 「おーい、()()! さっさと出てこいよー!」


 「アル……?」


 「あぁ、アルバートの事だよ。昔からそう呼んでんだ」


 メルダはともかく、兄貴はアルバートさんとも知り合いなのかよ。人脈広すぎじゃないかとも思ったが、腐っても最上位冒険者。交流が多いのだろう。

 『天頂の円卓』には劣るが、世間では世界二位のクランと呼ばれている『猛火の花びら』や、三位と呼ばれている『青龍団』とも知り合いなのだろうか?


 ここ迷宮区に存在するクラン達は他所とは大違いな程強い。

 例えば神聖国家がランク9の冒険者を一人抱えているのに対して、迷宮国(迷宮区)には四人もいるのだ。

 まあ、迷宮(ダンジョン)という絶好の修行場所があるからというのもあるだろうが。

 

 「? アルー? いねぇの─────」


 声がするのに留守? 不思議だなと思った次の瞬間、兄貴の目の前に一本の槍が飛んでくる。それをいつの間にか抜刀していた兄貴が一瞬で横に逸らした。


 「よぉ! カール! ひっさびさだなぁ?!」


 「はぁ……、ルーク、てめぇ、毎回毎回襲いかかってくんじゃねぇよ……」


 槍と共に扉から勢いよく出てきたのは『天頂の円卓』第一部隊。ルーク・ゴリアスさんだった。彼は部隊ではタンクとして活動しているらしく、二つ名は『鉄壁』。()()迷宮区一の硬さとも言われている。

 彼はとても目を輝かせながら兄貴を見つめていた。


 「だって前会ったのいつだよ? もう、覚えてないぞ? ていうか、まだランク8なんだなぁ?! 俺ランク9! お、れ、は! ランク、9!!!」


 「……てめぇ、ここでぶった斬ってやろうか? ……いちいちクエストなんてする暇無かったんだよ。ずっとこいつを探してたからな」


 そう言って兄貴は俺の頭を殴った。痛い。

 ランクはクエストを何個もこなしていったり、前の襲撃事件のときのような犯罪者達を撃破すると上げてくれる事が多い。

 前回、兄貴がユルンと共闘してヴェルを倒したが、兄貴とあいつは同等程度と判断されたため、上げてくれなかったらしい。

 本人はどうでもいいらしいけど。


 「ん? そいつは確か……、ああ! あれか! メルダがイレギュラーのミノタウロスから救った人間か! 二年前だったか? 時間が流れるのって早いよな」


 「……」


 やはり、彼等の認識はそうなんだろうと再度実感してしまった。

 あれは不運な事故として、ギルドでも処理されている。兄貴とユルンを除く俺達の心境は複雑で言い表せなかった。


 「とりあえず入れよ、話は聞いてるから」



 そう言って俺達は案内され、豪華な家の中へと入っていくのだった。






◇◆◇






 「カイン!! 久しぶり! 会えて嬉しい!!!」


 「メルダか! 久しぶりだな!」


 「……チッ」


 顔を赤らめて扉の先にいたのはメルダ。丁度玄関を通りかかったらしい。

 ……あれ? メルダって『絶対観測』があるからすぐに気づけるはずじゃ……? その考えは横でずっとイライラしているユルンのせいですぐに消えてしまった。


 「ユルン? どうした? 体調でも悪いのか?」


 「……久しぶり、泥棒女」


 「っ……、ふふっ、久しぶり! 女狐さん?」 


 なんかすぐに喧嘩が始まりそうな雰囲気なのだが……ナンデ?

 この空気の中、俺達は気まずそうに彼女達の横を通過して、ルークさんに部屋へと案内してもらった。

 

 「それで? アルは?」


 「ん? あいつなら外でメルテスの相手してんぞ? ケリオスは迷宮(ダンジョン)。ベーラと、メギアはまた引きこもってるよ」


 メルテスさん、ケリオスさん、ベーラさん、メギアさん…………今出た名前は全てランク8の冒険者。

 『天頂の円卓』の第一部隊は全員が最上位冒険者というイカれたパーティになっている。本来最上位冒険者っていうのは1パーティに一人なんだが……まぁ、ここはおかしいよね。


 「んじゃ、俺とこいつでちょっくら挨拶してくるわ。お前はこいつらに色々と深層について教えといてやってくれ」 


 「りょーかい。……後で久々の試合しようぜ?」


 「あぁ、今回も俺が勝つがな」


 「言ってろ」


 兄貴はルークさんと軽口を交わして、俺を連れて家の外へと出た。

 裏に回ってみると、大勢のクランメンバーが模擬戦をしており、その一人一人が卓越した技術だと見て取れた。

 その中でも一際激しい戦闘を繰り広げている者達が二人。

 他の人達もチラッと偶にそちらの方を見ている。


 そこにいたのは細身だが、しっかりと筋肉がついていて、長剣を握り締める背の高い男性────アルバート・ヘリオンさん。それと、肩幅が広く、大剣を振り回す褐色の女性────メルテス・キラミー。後者は恐らく鬼人だろう。なぜかって? 立派な角が二本生えているからだ! 


 ちなみにルークさんも鬼人だという。ただ、障害で角が生えていないらしい。そのせいで鬼人本来の馬鹿力を発揮できないんだとか。


 「うーん、もう少し正確さを加えようか」


 「了解だ! 大将!!」


 「……だからさ、その『大将』って言い方やめようよ。集まりの時に周りの視線が痛くて痛くて……」


 「あぁ?! 悪ぃな! 声が聞こえねぇや!!」


 「……もういいよ」


 ギリギリ目で追えるレベルの速度で彼等は戦闘を繰り広げており、何度も何度も金属の甲高い音が響く。

 

 数十分その戦闘を見届けると、アルバートさんが終わりを告げ、両者剣を鞘へ収めた。

 メルテスさんはアルバートさんへと軽く礼を告げて俺達の方へと歩いてくる。


 「よぉ、メルテス。久しぶり」


 「おぉ! カールか!! デカくなったな!!」


 「デカくなったって……俺はまだ25だぞ? 最後に会ったのは23のときだ」


 「ふむ、そうか! いやー『じかん』というものが苦手でな! ん? 横にいるのはもしや……」


 メルテスさんは兄貴から視線をズラして俺の方を向いた。

 俺も目線を合わせようとしたが、彼女の姿を見て、そうはいられなくなってしまった。


 なぜなら彼女が身につけている服(戦闘用)は露出が非常に高く、胸部が全く隠しきれていなかったのだ。

 それにとても引き締まった腹と、太腿。エッ…………カッコよすぎる。うん、そうだ。カッコイイから見てしまうんだ。


 だから誰かは知らないが、この極寒の冷気を止めてくれ。凍え死ぬ。向き的に家の方からだと思うが。


 目線を必死に彼女の目へと釘付けにして、挨拶をする。


 「こ、こんちは。カイン・ディペンダーです」


 「ん? お主がカールが言ってた弟か! ほっそいなぁ?! 男ならもっと鍛えろ!!」


 「は、はい……」


 以外と筋肉あると思うんだけどな……と心の中で嘆息しておく。

 でも確かに兄貴は普段は服で隠しているが、中はごっつい筋肉だった。どうやってそこまで鍛え上げたのか聞いたら「気合い」と返された。


 「ちなみにこいつランク7な」


 「本当か?! ランク8にいてもおかしくないレベルじゃないか?!」


 「まー、経験はともかく、最近はクエストなんて全然やってねぇしな」


 「そうか……。ま、ウチは『らんく』などそこまで気にしてないしな! 頑張れよ! 坊主!」


 「は、はい」


 メルテスさんは俺の背を叩いて、家へと向かっていった。

 その様子を見ていたアルバートさんが、俺達の元へと近寄ってくる。


 「まーた、強くなったな? カール」


 「お前こそ。勝てる気がしねぇよ」


 二人は笑いながら話していた。とても仲が良さそうにも見える。


 「んで、君が噂のカイン君か。よろしくね」


 「……こちらこそ、よろしく」


 一緒に共闘した事を忘れられて、少し悲しくなるが、その気持ちを押し殺して彼と握手を交わす。


 「さて、カールが色々君について話しててね。興味が湧いたんだ」


 「……ん?」


 俺が兄貴に目線を飛ばすと、彼はすぐに俺から顔を背けた。

 ……まてまて、嫌な予感がするぞ?


 「ちょっとだけでいいから、お手合わせ願えないかな?」


 「……、─────」


 断ろうとしたが、彼の覇気(笑顔)によって口を封じられた。


 世界最強と呼ばれる男───アルバート・ヘリオン。巷ではランク10に最も近いとも言われている。

 最初、見ただけでわかった。彼は別格だと。

 兄貴や、メルダ、ラウルよりも格が違うような雰囲気がした。

 それは本能の警鐘でもあり、身体が戦闘を全力で拒否していた。


 でも、俺の心は違う。


 世界最強に挑んでみたい。


 今の俺がどの程度の実力か試してみたい。


 そんな気持ちを理解したのか、無意識に身体が長剣(ファトゥム)を引き抜いていた。白銀は光を増し、俺に僅かな力を分け与えてくれる。


 「カール! 審判を頼むよ」


 「あぁ…………やり過ぎんなよ?」


 「それは保証できないね」


 俺と、アルバートさんは周りから離れた場所で相対した。

 周囲ではクランメンバーが模擬戦を中断して、夢中でこちらを向いていた。

 ルークさんや、メルテスさん。窓からはベーラさんと、メギアさんもこちらを向いていた。


 ザイン達もいつの間にか外におり、ユルン達と共に俺を見つめていた。ちなみにユルンとメルダの間には未だに火花が散っていた。


 目の前のバケモノ(アルバートさん)は長剣を鞘から引き抜いた。鞘と剣が擦れる音が耳を激しく襲うような気がした。


 「準備できたかー?」


 「あぁ、よろしくね、カイン君!」


 「はい。胸を借りますよ! アルバートさん!!」


 二人はカールが鳴らした合図と共に目の前の相手へと斬り掛かるのであった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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