14【ex】 続 冒険者トーマス
「ねえ、セシル。トーマスさんの件で、少し気になったのだけど」
ライザが長期依頼の報告を終えてギルドを去った直後、ベアトリスが声を掛けて来た。
「そう言えば大地龍の件、聞きそびれたね」
「それはだいたい答えが出たから、次の時に確かめて、お礼を伝えます」
彼女が『龍の庭』を越えられた理由。大地龍を倒したのは、トーマスなのだろう。人間が龍種を討伐することは不可能、とされているけれど、彼は命を奪ってはいないから……。
「じゃあトーマス君の長刃剣の件? 私は何もしていないけど……」
ただ、ライザの斧と同じ、たくさんの祈りが込められた剣であることは感じ取れた。そして彼は治癒の祈りを使える。つまり祈りを現象化できる。ならば自力で剣に祝福を付与することも、できるかも知れない。
しかしベアトリスの眉を寄せた表情は、どうやらその件でもないらしい。
「台帳の冒険者登録証を見たのだけれど、彼の出身は南の辺境の村だった。十年前ぐらいに流行り病が猛威を振るって、あの辺りの十歳以下の子供は、ひとりの例外もなく助からなかったはず。あのころ、何もできなくてただただ悲しかったことを覚えています」
彼女とトーマスは同郷、北の隣国の出身だ。自分と同年代の子供たちを襲った悲劇のことを、彼女は胸に刻み込んでいた。
「──だとしたら、彼は生き返ったのかも知れない」
私があっさりと答えたから、ベアトリスは目を丸くする。
「死者蘇生は不可能でしょう?」
「ええ。でもひとつだけ、方法はある。教会からは禁じられているけれど」
私の言葉に彼女は少し考えてから、「まさか」と眉をひそめた。
「──死者転聖のことですか。死者の魂を女神様に捧げて、使命の付与と引き換えに再生させる儀式。あれは、迷信でしょう?」
「一般的には、そうね。だから普通は、試そうとするひともいない」
辺境の村ほど魔法の普及は遅れていて、そのぶん女神様への信仰が根強い。愛する子供達を喪った絶望のなかで、一縷の望みをそこに託すことは十分あり得る。
「だけどもしその祈りが、どうしようもなく切実で、純粋で、強いものならば。そして世界が求める使命と魂の性質が噛み合えば──」
私は静かに、言葉を続けた。
「──女神様は、応えてしまうかも知れない」
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