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 生きた心地がしなかった。今日バレるんじゃない。明日バレるんじゃないか。怯えながら日々を過ごした。


 田口雅也。俺が轢いた人間の名前だ。ひき逃げを起こした後日、事故現場近辺で何か事件が報道されていないかをネットで調べた所、彼の名前が出てきた。

 全身が冷え切っていく。まずい。俺の事故はちゃんと事件として扱われていた。

 まずい、まずい、まずい。人生終了のカウントダウンが頭の中で鳴り響き始めた。


 しかし予想に反して一週間経っても、二週間経っても警察が話を聞きにきたりする事はなかった。そして一ヵ月が経ち、二・三ヵ月が経った頃にはほぼほぼいつも通りの精神状態で日常を過ごすようになっていた。


 ――バレていないのか?


 日本の警察は優秀だ。逃げ切れるケースもあるだろうが、ほとんどの場合そうはいかない。もちろんあの日以降同じ場所は走らないようにしていた。というよりドライブそのものを控えるようにしていた。でもこんな程度の目くらましなど通用しないと思っていた。


 何故、バレていない。

 時間が経てば経つほど、むしろ捕まる恐怖より捕まらない事への疑問の方が強くなっていった。

 何にしてもバレていないならそれでいい。そして結局その程度の人間だったんだと、何も知らないはずの自分が轢き殺したあの若い男の事を思った。

そして心に余裕が出始めると、また俺はドライブを再開した。完全にあの日の出来事は過去でしかなくなった。

 

 快適なドライブ。やはりこれだ。控えていた分爽快さはひとしおだった。

 そうして俺はまた元の日常に戻って行った。




 ――嘘だろ?



 なのに、俺はまた轢いた。

 三十二歳。二度目のひき逃げ。今度は女だった。また若い、軽そうな女だった。


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