陽光を呑む影
黒龍が去った巣穴の中。
光龍の絶世の美貌と瓜二つの面貌を持つ少女の背中を見つめながら、聖龍は少女に聞こえぬよう静かに呟いた。
「本当は、あやつ自身も何故卵ができたかは分かっておらんかったんじゃがな」
聖龍は光龍が卵を抱えるまでに至った経緯を全て聞いていた。
光龍は卵を望んだ訳ではなかったのだという。
であれば雄の子種が必要となるのだが、それも全く心当たりがないと言うのだ。
これがただの人であれば薬を盛られその間に、という事もあろうが、最古の龍の一頭たる光龍が気付かぬ間に身体を許すなど、如何なる手段を用いたとしても起こり得る事ではない。
それを聞かされた時、聖龍は気味の悪い卵を砕くよう強く言いつけた。
何があるか分からない、もしかしたらなにかこの世ならざる異形が孵るのかもしれないと。
しかし光龍は「この子が産まれたがっているから」の一点張りで聞く耳を持たなかった。
産まれようとしているのに砕くなど考えられない、もしそれが異形だったのならこの手で始末すると。
一触即発の空気の中何度も説得を試みたものの、光龍の意思は固く、結局聖龍が折れるしかなかった。
故に光龍の翼と魔力を持ちながらも陽光に煌めく虹の鱗ではなく、影すら恐れるような黒鱗を持つ龍を目にした時、結局やつは情に絆され見逃したのか、殺さねばならぬと思ったのだ。
しかしその推測は外れた。
名を聞くなり襲いかかってきたその龍を治療と言いくるめ監視下においたが、どう見ても歳の割には賢いだけの、怪我をしては叱られしゅんと落ち込むただの仔としか思えなかった。
そうであれば光龍を我が仔同然に思っていた聖龍にとっては孫のようなもの。
母親が与えるはずだった愛情を目いっぱい与えようとしたのだが、これまた難儀な点があった。
この仔は母への愛が強すぎるきらいがあったのだ。
甲斐甲斐しく世話をされ、挙句理不尽に奪われたのだからおかしくはないのだが、それにしても度が過ぎていた。
それとなく矯正しようと試みたが、母親譲りの頑固さで全て突っぱねられ、それどころか強烈な殺意まで向けられてしまう始末。
聖龍としてももうお手上げだった。
「このままじゃと人間の脅威にはなり得るかもしれぬな」
元々龍と人とは相容れぬもの。
入れ込んでしまった光龍や聖龍が異常といえば異常なのだが。
いや、それすらも人の業か。
「ま、王国が存続するならばどちらに転んでも構わんか」
その時が来れば如何に孫のようであっても容赦はない。
聖龍は呑気に鼻歌を歌いながら調理器具を持って黒龍の後を追うのだった。




