表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/77

48.私三枚おろし

ちょっと人によってはグロイ描写あるかもです

 とりあえずさっきの石は翼腕で持ち、蛇は咥え直して飛び上がる。

 まずは聖龍の巣穴に蛇置いてこようかな。

 邪魔だし。

 そう考えて巣穴に向かい、近くの邪魔にならないところに蛇を置く。


 この石はどうしよう。

 持って行って聞いてみるか。

 そしてまた川へ。

 そしたら聖龍が暇そうに待っていた。


「随分かかったの。そう時間のかかる距離じゃなかろう? どこを寄り道しておったんじゃ?」


 謎男と会ってました。

 なんて言ったら不機嫌になりそうなので言わないでおく。

 代わりに石を差し出して聞いてみた。


『これなに?』

「なんじゃこれ」

『蛇の中にあった』

「ふむ。胃石かなんかじゃろうな。たまに動物が石を飲むことがある。普通の蛇がやる事ではないが、まああの大きさじゃしな」


 あれか、恐竜がやってたってやつ。

 なんかテレビで観たことある気がする。


『価値は?』

「それなりにはあるかもしれん。見た目が綺麗じゃからな。じゃが、そもそもこんな山奥に買い取るものなどおらんじゃろう。商人も現金を持ち歩いたりはせなんだ」


 そっかー。

 まあちょっとしたものと交換できればいいし、そもそも使うかどうかも分からないから、多少可能性があるって分かっただけよしとしよう。


「始めてもよいか? 暗くなる前に終わらせたいんじゃが」


 あ、はい。

 てかどうやって治すつもりなんだ?

 なんか鍋で棒が煮られてるんだけど。

 気でも狂ったか?


「その前に人になれ。鱗があっては魔法も効きづらい」


 鱗?

 関係あるの?

 とりあえず人になって聞いてみる。


「鱗?」

「お主、人とやり合ったことがあるのじゃろ? 体に近づくと不自然に魔法が消滅することはなかったか?」


 あった。

 イケおじを襲撃しに行ったときに、冒険者の放った魔法が消えていったことがある。

 あれって鱗のせいだったのか。

 てことは、岩龍に魔法を撃った時に減衰してたのはそれが原因?

 チンピラ緑龍がそうでもなかったのは鱗が少なかったからとか?


「龍殺しの盾にも昔殺した龍の鱗が使われておったはずじゃ。もともとの鱗の質に、更に面倒な手を加えて魔法に対する対策はほぼ完璧な具合じゃな。あれを貫通するのはわしでも苦労する」


 なーるほどなあ……。

 そんなからくりがあったのか……。

 初対面の時に聖龍が腕に鱗を出して私の魔法を殴ったのも、そういう理由だったのか。


「それはいいんじゃ。さっさとと治療を始めるぞ。気の進まん事は早く終わらせるに限る」


 そう言って聖龍は鍋に突っ込まれていた棒を手に取った。

 てかあれただの棒じゃない。

 ナイフだ。

 しかも刃渡りが私の肘から手首くらいある大振りな。


 そしてそれを手に持ったまま近づいてくる。

 思わず身を引いて身構えてしまった。


「なんのつもり?」

「お主、自分で自分に回復魔法をかけたことはあるじゃろ?」


 ある。

 その時はなにも起こらなかった。


「何も起こらなかったじゃろ。お主の体は今の状態を完治したものとしておるからの。当然、治っているものをそれ以上治すことはできん。じゃが、その状態が異常なのだと体に気付かせてやれば、魔法は正しく作用し腕を元通りにすることができる。じゃから今から腕の先に切り込みを入れ、それを弄って治す。絶たれた腕があればもっと簡単なんじゃがの」


 言ってることは分からんでもない気がする。

 なんか屁理屈臭くはあるけど、まあ魔法なんてファンタジーなものなんだからそういうこともあるだろう。


「あ、変な風に伸びたらその分斬り落とすから覚悟するんじゃぞ」


 はい?


「庭木の剪定と同じじゃ。変なところに関節が出来ては堪らんからな。こう、ズバッと」


 聖龍がナイフをピッと横に振った。

 白い軌跡が目に残る。

 切り落とす。

 ズバッと。


 ……ッスゥー……よし、覚悟しよう。

 死にはしないんだ。

 死ぬほど痛いだけで、それだけで腕が生えると考えれば儲けものだろう。


「覚悟はできたようじゃな。これを飲め。多少は痛みも抑えられる」


 そしてコップを渡される。

 中には少し紅っぽい液体が入ってた。


「これは?」

「薬草と茶を混ぜたものじゃ。気休め程度にはなる」


 有難い。

 それを一気飲みする。

 安っぽい紅茶みたいな味の後に、少し痺れるような味がした。


 うへぇと思いつつ飲み込んで、しばらく経ったら意識が朦朧としてきた。

 なんというか、頭がほわほわするというか、風邪のときの気怠さに近いかもしれない。


「よし、始めるぞ。舌を噛み切らんようにわしの服でも噛め」


 ぼうっとする頭で言われた通りに聖龍の服を噛む。

 それから聖龍は緊張した面持ちで唇を舐めると、私の腕にナイフの刃先をあてがった。

 ほんのりあったかい感覚が伝わってくる。


「一気にいくのがよいか、ゆっくりがよいか」

「どっちでも……」


 ぼんやりとそう答える。


「暴れるでないぞ」


 そして一気に聖龍がナイフを突き刺す。


 瞬間、意識が覚醒した。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い信じられないくらい痛い!

 悲鳴を上げかけて、けどギリギリ意地を張って噛み殺す。

 ずぶずぶとナイフの刃先が私の腕の先を切り開いていく。

 その度に尋常じゃない痛みに襲われる。


 聖龍が直前に言った忠告も忘れ、痛みから逃げようと腕を引くが、しかし強く腕を引っ張られてそれは叶わない。


「動くでない! 余計に痛むぞ!」


 そう霞む頭で聞こえた気がして、歯を食いしばって耐える。

 体が震える。

 視界が霞む。

 平衡感覚がぐうにゃぐにゃとうねって、今自分がどうなっているのかも分からない。


 あり得ない。

 ここまでの痛みは魔力を吸収した時以来だ。

 刃先が少し動くだけで頭の中に火花が散ったような気がする。


 永遠とも思える時間をなんとか耐え、ナイフが肉の中から抜かれる。

 私は目じりに涙を浮かべながら、なんとか声を絞り出した。


「終わった……?」

「まだじゃ。あと一本線を入れて骨から剥がさねばならん」


 そして、またナイフを突き刺される。

 私は声にならない悲鳴を上げた。




 ────────────────────────




「はっ……はっ……」


 全て終わって聖龍が傷を治した時、私は息も絶え絶えで座るのもやっとという有様だった。

 傷は聖龍が治したからもうないはずだけど、それでもまだ鋭い痛みの余韻が残っている。

 そんな私を、ナイフを鍋に放り込んだ聖龍が優しく胸に抱いて落ち着かせるように髪を撫でる。


「よしよし、よく頑張ったな。もう終わったぞ。大きく息を吸って……吐いて……そうじゃ。つつがなく終わったからな。落ち着け。よしよし。よいぞ。よい仔じゃ」


 後頭部をゆっくり上下する聖龍の手を感じながら、ゆっくりと息を整える。


 そうしてどれくらいか、多分5分かそこらくらいだと思いたい。

 ようやく動悸が収まってきた。

 けど、落ち着いてからもしばらくは聖龍に髪を撫でられる感覚に身を任せていた。


 こんなに痛いとか予想外だ。

 腕を切り落とされてこともあるし、腹に穴を空けられたこともあるけど、体感だとそれ以上に痛かった。

 これは、多分アドレナリンの問題なんだろうな。

 極度に興奮してる人って銃で撃たれても止まらないって言うし、戦ってる間はアドレナリンの分泌量が上がってるからそこまで痛みを感じないだけなんだろう。

 だから酷い傷を負っても痛みを気にせずに動き回れる。

 けど今はそうじゃないから、痛みをダイレクトに感じてこんなことになってると。


 はあ。

 何もしてないはずなのにすごい疲れた。

 最後に聖龍の胸元で涙を拭ってから、腹を押して離れる。

 あー今酷い顔してるだろうなー。


「落ち着いたか」


 聖龍が私の顔を見てそういう。

 それが何となく恥ずかしくて、誤魔化すようにあたりに目を向けてみたら、まあ酷いことになっていた。

 私の腕から流れた血で一面血塗れだ。

 河原を赤に染め上げている。

 そしてふと気になって聖龍に目を向けたら、聖龍も私の血で真っ赤になっていた。

 服にもだいぶ血が付いていて、洗っても落ちそうにない。

 なんというか、ちょっと申し訳なくなるな……。


「……ごめん」

「なに、お主は耐えた方じゃ。むかし同じように治療したことがあってな? 暴れるわ吐くわ、一度中断して縛って猿轡を噛ませてやり直したこともあるわ。じゃからお主の治療はやりやすかった。よく耐えたの」


 頭を撫でられる。

 払いのける気にはならなかった。


「さ、お互い血塗れじゃからな。洗わねばならん。立てるか?」


 聖龍が立ち上がって言った。

 私も立とうとして、けど足に力が入らずまた座り込む。


「まあ仕方ないか。血も足りんじゃろう。ほれ」


 差し出された手を取ったら、ぐいっと引かれて肩を支えられた。

 聖龍に肩を支えられたままよろよろと歩いて、川の中に腰を下ろす。


 なんか腕上げるのすら怠いな。

 なのでばしゃっと仰向けに倒れて、水の流れに任せて体を洗う。

 まあこれじゃ洗うってか、ただ流されてるだけなんだけど。

 はー、体が重い。


「流木の真似をするのもよいが、わしらとてこの時期に長時間水に浸かれば体を壊すんじゃからな」


 見かねた聖龍がそう言って服を脱いで川の中に入ってくる。

 そして水に浮いている私の体を洗い始めた。


 いつもなら飛びずさって睨みつけるところだけど、今の私にそんな元気は無い。

 丸洗いされる野菜になった気分。

 根菜かな。

 今晩は鍋なんてどうでしょう。

 寒いし。

 突撃私が晩ごはん。

 やだー食べられたくないー。


 あ、そうだ。


「服」

「ん? ああ、あれはどのみちそろそろ捨てようと思ってたんじゃ。着替えも持ってきておる。気にするでない」


 あい。

 聖龍が川でやるぞって言ってたのは、こうなるのを見越してだったんだろうなー。

 確かに水場じゃないと血で酷いことになりそうだ。


「それにしても酷い憔悴具合じゃな。次からは合間を長く取るか? 毎日欠かさず続けてはお主の体力が持たんじゃろう」


 んー?

 まあ確かに。


「前に施した時は週に一度で半年かけて治した。お主は急いでいるようじゃったから二か月と言ったが、思ったよりも負担になっているように見える」

「……いい。明日もお願い」


 聖龍の言ってることはもっともだろう。

 思ったより腕を生やすってのは辛い。

 できるなら二度としたくないとも思う。

 でも、やらないとだめだ。

 二ヶ月というロスでも私にとっては大きいのに、更に時間をかけてはいけない。

 片腕で殺せるほど、私が殺したい奴は弱くない。


「お主が何を急いでおるのかは聞きはせん。聞かずとも大方の予想はつくからの。じゃが、それは本当にそうまで急ぐ必要があるのか? 己の身を削るような真似までして?」

「当然」


 私にとっては何よりも大事なこと。

 それこそ命よりも。

 たとえ私が死のうとも、その時にお母さんを殺した奴らが全員死んでいればそれでいい。


「……早死にするぞ」


 500年もあるんだ。

 もともと人間だった私には長すぎるくらいにある。


 じっと聖龍の目を見る。

 お前が何を言っても曲げるつもりはないという意思を込めて。

 そしたら、聖龍が天を仰いで大きなため息をついた。


「分かった分かった。変なところで頑固なのは母親譲りか」


 そりゃあお母さんの子供ですから。


 聖龍が折れたので、また水流に身を任せてゆらゆらと揺れる。

 もうすっかり夜だ。

 寒いせいか、心なしか他の場所で見たよりも月が綺麗に見える。

 しばらくしたら、聖龍が立ち上がった。


「そろそろ帰るとするか。立てるか?」


 どうだろう。

 川の底に足をついてゆっくり立ち上がってみる。

 お、立てる立てる。

 と思って調子乗ったら危うく転びかけた。

 聖龍に咄嗟に支えられなかったら盛大に転んでたと思う。


「まだふらつくか。巣穴に戻ったら肉を食え。血が足りておらぬのじゃろう」

「……食欲がない」

「食わねば治らん。一口でも食えば腹も空くわ」


 むう……。

 そこまで言うなら……。


「ほれ、歩けぬなら負ぶってやる」

「いい」

「遠慮するでない。ほれほれ」


 断ったのに聖龍は強引に背負おうとしてくる。

 人外な聖龍の力に今の私が敵うはずもなく、いつの間にか着替えた聖龍に乾かされて背負われてしまった。


「弱みを見せたくないのは分かるが、もう手遅れじゃろう。こういう時は素直に甘えるんじゃな」


 うっ。

 まあ……立つだけならまだしも巣穴まで歩くのがまだきついのは確かだけども。

 しょうがない、大人しく従っておくか。


「そうじゃ。昔じゃな、こうして光龍を負ぶって歩いたことがある。まだほんの仔の時分で、大抵遊び疲れた帰りじゃったからよく眠っておった」


 ふーん……。


「こうして歩いておるとその時のことを思い出すわ。子守り歌など歌ってやってな」


 そして聖龍は歌を歌い出した。

 ゆったりしたリズムで、聖龍が歩く揺れと合わさって眠気を誘う。

 気が付けば私は、聖龍の背で深い眠りに落ちていた。

もし、そこのお方。よければブクマやら感想やらptなど入れてくれるととても助かるんじゃがのう……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ