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46.油断大敵

 終始無言で森の中を歩いていく。

 村から南に歩いて一時間ちょっとくらいかな?

 その辺りで魔力探知に強力な魔力が引っかかった。


「思ったよりは強そうじゃな?」


 私よりもだいぶ前に気づいていたらしい聖龍が、足を止めずに振り返って言った。

 ふむ。

 あの森、故郷って言っていいのか知らないけど、あそこの動物たちには及ばないまでも、確かにそこらの魔物よりは格上だ。

 まあ、あの動物に及ばないってことは私が負けることはないってことだけど。


「これほどならそこら一帯も主となれるじゃろう。もしや龍やもしれぬな」


 聖龍が楽しそうに肩を揺らす。

 だとしたら私は楽しくないけどな。


 けどそれは無さそうな気がする。

 何というか、上手く言いづらいんだけど気配が龍じゃないというか。

 多分聖龍も龍じゃないのは分かってて言ってるんだと思う。

 なんでそんなことするのかは知らんけど


「ん、魔物の痕跡じゃ。ほれ」


 聖龍が足を止めてて手招きをした。

 誘われるままに隣に立って前を見る。

 そこには直径1mくらいの何かを引きずったような跡が付いていた。

 土の抉れ具合を見るに結構重そう?

 それが長く横切るように続いている。

 あ、これが魔物の跡か?

 よく意識してみれば確かにさっきの魔力と跡が繋がってるような気がしないでもない。


「しかし、この痕跡はなんじゃろうな。ここまで細長く、大きな魔物はおらん。水の中ならおるかもしれんが……」

「蛇?」


 細長いっていったらそれくらいしか思いつかない。

 だが聖龍は首を振った。


「それはあり得んじゃろう。ただの蛇はおるが魔物にはおらん。それにここまで大きくなることはないからの」


 へえー。

 蛇の魔物っていないんだ。

 なんかイメージ的にはいそうなものだけど。

 昔話とかだと多くない?


「まあ見ればわかるじゃろ」


 それもそうだ。

 地面の跡から目を離して、魔力の方を向く。

 こうして話してる間も、魔力源はどんどん離れていく。


「逃げられる」

「そうじゃな。歩いていては追いつけん。先に行くか? わしは後から追いかけるでな」


 ああ、いいの?

 そう言うならそうさせてもらおう。

 気になったままだとなんか気持ち悪いし、さっさと終わらせたい。


「あ、龍になるなら服は脱いでおくんじゃぞ。破かれてはたまらんからの」


 はいはい。

 私もまた手伝えとか言われるのも嫌だしね。

 服を全部脱いで聖龍に投げつける。


「で、その首飾りは良いのか? 邪魔じゃろう」


 ん?

 あ、確かに。

 基本龍の時は牙に巻き付けてるけど、下手したら噛みついた時に一緒に噛み砕きかねない。

 紐ならまだしも飾り部分なんか砕けたら目も当てられない。

 そっちも首から外して聖龍に渡しておこう。


 そして、目を閉じて一瞬ののち、龍になる。

 そんな私の顔に手を当てて、聖龍が忠告してきた。


「油断するでないぞ。いかに実力差があろうとも格上を殺す手段はある。そこらの魔物が持ちうるものではないが……」


 分かった分かった。

 頭を振って当てられた手を払う。

 流石にそんな魔物に負けるほどひ弱じゃないって。

 翼を広げて体を屈め、地面を蹴ると一息で梢を体で弾きつつ飛び上がる。


 さて、魔物はと。

 木に隠れててよく見えないけど、魔力を探知すればそんなもの意味はない。

 こうしてると狩りを思い出すな。

 そういえば相手の魔物はなんなんだろう。

 場合によっては今日の晩御飯になるかもしれない。


 たった二回の羽ばたきで魔力反応の真上に到達し、そこで高度を維持する。

 さて、まずは相手の出方を見ないとね。

 体をぐるりと反転させて急降下する。

 突撃お前が晩ごはん候補!


 その魔力源の進行方向に勢いよく着地して相手を真正面から捉える。


 あれ、こいつ、どう見ても蛇じゃない?

 私みたいな鱗に覆われた細長い、脚のない胴体。

 うん、蛇だ。

 どう見ても蛇。

 聖龍はあり得ないって言ってたけど、なんでだろ。

 まあいいや。

 それは後で考えられること。

 相手にやる気があったら先手を譲ることになるんだし、集中手中。


 蛇は突然現れた私に戸惑ってる様子だったけど、縄張りを荒らす外敵だと判断したのか頭を逸らせると牙を剥いて噛みついてきた。

 はい確定!

 戦闘開始!


 顔に向かってきたそれを躱し、逆に首、ってかどこまでが首でどこからが体か分からないけど、とにかく首のあたりに噛みつく。

 蛇の薄い鱗を貫いて一瞬で肉まで牙が届いた。

 はい、これで詰み。

 あとは首を噛み千切れば終わりだ。

 ぐっと顎に力を込めるとさらに私の牙が深く肉を抉る。


 痛みに耐えかねた蛇は、体をくねらせて抵抗してきた。

 だが、それではさらに肉を抉るだけ。

 無駄な抵抗は止めて大人しく……あれ?

 私の下にあった蛇の体がいつの間にか、いつの間にか外に出ていた。

 いや、でもその程度じゃ……そこで、前世で見た蛇の捕食シーンを思い出した。

 蛇は、獲物を食う前に、その体で締め上げてから丸呑みにする。


 あ、まずい気がする。

 嫌な予感がしたその刹那、私が反応する前に蛇の体が巻き付いてきた。

 頭から体にかけて思いっきり絡みつかれる

 ぐえっ。


「ギィヤァッ!」


 驚きに思わず噛みついた牙を離してしまった。

 その隙に牙の届かないところまで逃げられる。

 そして、自由になった蛇は私の体をさらに強く締め上げてきた。

 今や翼まで絡みついて押さえられている。

 こうなっては引き剥がすのは不可能。

 私の脚はそんな器用にできてないんだよ!


 マズイどうにかして引き剥がさないとこのまま窒息する!

 慌てて頭を振るが当然その程度で剥がせるはずがない。

 むしろ引き剥がされまいとより強く締め上げてきた。

 あばばばばばば。


 狂ったように頭を振り回してやたらめったら叩きつける。

 私の力で、思いっきりだ。

 私にも少なくない衝撃が入るけど、それを直接受けてる蛇には私以上のダメージが入っているはず。

 それに耐えかねた蛇の締め付けが少し緩んだ。

 その隙を逃さず、翼腕で掴んで引っ張る。

 そうなれば力比べで負けるはずがない。

 徐々に蛇が引き剥がされていく。

 そして、ついに完全に剥がれた。

 よーし、そうなったら私の勝ちだ。

 まだ牙を剥く蛇を掴んだまま、もう片方の翼腕でも掴んで横に引っ張る。


 今度は油断しない。

 引っ張ったまま持ち上げ、その中心に喰らいつく。

 牙が鱗を貫き、肉を裂き、骨に到達する。

 それでも止めない。

 最後の抵抗とばかりに蛇が牙を剥いて噛みついてきた。

 けどそんな苦し紛れの反撃、避けるまでもない。

 私の鱗に傷をつけることすら無く上滑りする。


 じゃあ、もう終わり。

 一層力を込めて顎を閉じ切る。

 骨が砕ける嫌な音がして、蛇の体が真っ二つに両断された。


 よし、勝った!

 蛇の死骸を離して捨てる。


 ふー。

 ちょっと焦った。

 よくよく考えてみたら、そりゃ体自由にしたまま噛みついたら巻き付かれるよね。

 完全に油断してた。


「終わったようじゃな」


 そう言って木の陰から聖龍が出てきた。

 終わった終わった。

 終わってみれば大したことない相手だった。

 まあそりゃ、ちょっと大きいだけのただの蛇だったしそんなものか。


「まあひとまず人に戻れ。洗うにしろそのままじゃと大きすぎて手間じゃ」


 すっと人に戻って地面に立つ。

 にしても、蛇ってことはないんじゃなかったの?

 そう聞こうと思って蛇の死骸を指さしながら振り返ったら、その前に額を指で突かれた。


 あいた!?

 なに!?


「油断したじゃろ、阿呆」


 うっ。


「じゃから言ったんじゃ。お主はどうも考えが甘い所があったからの。そんな気はしておったんじゃ」


 分かった分かった。

 分かったから、あれがなんなのか教えて。

 蛇って線はないんじゃなかったの?


「あれは?」

「蛇じゃな。それは間違いない。じゃが魔物でもない。よく調べんことには分からんが……変異? いや、途上と言うべきか……」

「途上?」

「気にせんことじゃ。あまり快いものでもない」


 ふーん?

 なんか含みがありそうだね。

 途上、途上かあ……ちょっと気になるな。


「まあそれはよいじゃろ。ほれほれさっさと丸洗いするぞ。頭から血を被ったんじゃからな」


 ぶわっぷ。

 聖龍が水魔法で生み出した魔法をぶつけてきた。


「しゃがめしゃがめ。お主の方が背が高いんじゃから洗いづらいじゃろ」


 聖龍が私の肩を掴んでしゃがませようとしてくる。

 やめろやめろ頭触ろうとするなぞわぞわして嫌いなんだよ!

 自分で洗うから!

 あとでその辺の川にでも行ってくるから!


 手を払ってちょっと距離を置く。

 じゃないと押し切られそうだ。

 手を払われた聖龍は行き場を失った手をひらひらさせた。


「先に村に行かねばならぬじゃろう。血塗れで行くつもりか? そちらの方が大騒ぎになるぞ」

「先に帰ってる」

「なんと、足が無くなる」


 また乗る気だったのか!

 なんとなくそんな気はしてたけども!

 次は咥えすらしないからな!


 距離を取ったまま睨みつけてやったら、聖龍はふっと息を吐いて呆れたような、けどちょっと優しい笑みを浮かべた。


「魔物を仕留め、村を助けたのはお主じゃ。素直に礼を言われてこい」


 ん……む……。

 その笑い方はずるいって。

 私そういうのに弱いんだからさ。


「……水」

「うむ」


 聖龍がそれだけ言って、私の近くに大きな水球を浮かべた。

 それに近づいて髪とか顔とか、特に返り血が酷い所を擦って洗う。

 まあ返り血っていうかほぼ浴びるみたいにかかったんだけど。

 なんせ持ち上げて噛み千切ったからなあ。

 よし終わり。

 じゃあさっさと村に伝えて終わらせよう。


「背中に残っておるぞ」


 ピエッ。

 急に触るなっての!

 口で言え口で!

 何のために口が付いてるか分かりますか!?

 食べる為と言葉を発する為ですよ!!


 ちなみに私は食べるためだけに付いてます。

 はい。


「乾かすから動くなよ」


 え、乾かす?

 どうやって?

 私の疑問に答えるように聖龍が指を回した。

 それに釣られるように私の体表に付いていた水滴が渦を巻くようにして一つにまとめられ、私の体から離れて地面に落ちた。

 え、なにこれ凄い。

 これ、よく分からないけどかなり繊細な魔法なんじゃない?

 ただ出すだけじゃなくて、すでにある水にも干渉できるの?

 しかも体に付いてるのだけとか、そんな細かく指定して?


「ほれ、服と首飾りじゃ」


 どうも。

 受け取って服を着る。

 靴も、手間取りつつもなんとか一人で履くことができた。


 あ、そうだ。


「食べれる?」

「蛇をか?」


 頷く。

 突撃お前が晩ごはんとか言っちゃったし、食べられるなら狩りの手間が省けて丁度いい。

 あとちゃんと狩ったことを証明するのにも、なんか証拠はあった方がいいと思うし。

 牙とか鱗とか。


「ただの蛇なら食えるじゃろうが……あれはなにか様子がおかしいからの。あまりすすめはせん」


 食べれないことはないのね?

 じゃあやってみよう。

 蛇の死骸に近づいて、噛み千切ったあたりの肉をつまむ。

 ふむ。

 特に臭みとかはないな。

 あれ、こいつ毒あるのかな?

 噛まれなかったからわからん。

 まあ牙のあたりにさえ気をつければ大丈夫か。


 つまんだ肉の根本あたりを魔法でカットし、口に含んでみる。

 ふむ。

 ふむふむ。

 なるほど、悪くない。

 どころか結構美味しい。

 これいいかも。


「人の姿で生肉を食うな。人間が見たら悪魔憑きの類かと思われて追いかけまわされるぞ」


 そうなったら皆殺しだから別にいいけども。

 てか今とそんな変わらんし。


 それはいいとして、用が済んだら取りにこようかな。

 流石に全部は持って帰れないだろうけど、今夜の分に十分な量は持って帰れると思う。


「まったく、綺麗にしたそばから汚しおって。聞き分けのない仔のようじゃな」


 聖龍が水にぬらした手で私の口元を拭う。

 冷たっ。


「ほれ、さっさと村の長らに伝えにゆくぞ。安心させてやらねばな」


 そう言うなり聖龍はパパっと鱗と牙を回収して歩き出した。

 私もその後ろに続く。


「ああ、そうじゃ。洞穴に戻ったら治療を始めるぞ。遅れればそれだけ完治が遠のくからの」


 はーい。

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