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THE RED MOON  作者: 紅い布
16/26

宛先:読者様 件名:宛先長すぎたかな

題名と本文は一切の関係がございません(ォィ

◆◆ PM 21:21 ◆◆


晋は自分の唇に触れる、柔らかい感触の正体が何なのか理解するまでにたっぷり数秒はかかった。

自分の左頬に添えられている細く綺麗な右手が、とても儚くみえる。


――なぜ、妹の顔が弩アップで俺の視界を埋め尽くしているのでしょう?


思わぬ事態に脳が対処できず、フリーズしていた。

それに伴い、身体が硬直し、まともに動かすことができない。


周囲の人間からは小さく野次と妬みの声が聞こえてくるが、もちろん右耳から左耳へ抜けていった。


それから数秒か数十秒かあるいは数分か。


晋が観念して目を瞑ってからしばらくして、綾乃の柔らかく整った唇が離れていった。


目を開けると、頬を紅潮させながらも、満面の笑みを咲かせている妹がいる。


――あぁ……敵わないな……。


義理の妹の笑みの前にあえなく撃沈されてしまった晋は、


「公衆の面前で大胆なことをしてくれた礼だ。存分に受け取れ!綾乃ッ!!」


せめてものお返しとばかりに綾乃の頭を滅茶苦茶に撫で回したあと、そのまま両手でガッチリとホールドしたあげく、頭をブンブンと勢いよく回した。


「はわあぁぁぁぁっ!?ゴ、ゴメンナサイ〜〜〜!!」

「よし、許す!」


ピタっと腕を止めた晋は、反省を口にした妹を開放した。

綾乃は上下左右に揺れる視界&フラフラと覚束無い足取りを安定させようと必死に抵抗している姿が笑える。


そのまま回復してもらっては面白くないと感じた晋は、さらに片手で軽く綾乃の頭を揺すった。


「うっ!?ちょっ!?謝罪は受け入れてもらえたんじゃっ!?」

「うむ。でも、まだ俺の頬は熱々なもんでね。ちょっと割りに合わないかなぁ〜と」

「うぅ……酷い……」


綾乃が上目遣い&涙目で訴えるが、晋には全く効果がない。


そんなこんなで何とも微笑ましいホームコメディを展開しているところへ、一人の男が声を掛けてきた。


『君!』

「ん?」


振り返ると、そこには市民Aが。

先ほどと違って鉄パイプなどの武器は所持していないし、殺気立ってもいない。


「先ほどは本当にすまなかった!」

「あ、さっきの……」


開口一番に謝罪を口にする市民Aに戸惑う晋。

それに構わず、市民Aは頭を下げて謝罪した。


「俺達は自分勝手な怒りで、危うくこんな可愛い妹さんの命を奪ってしまうところだったんだな。君が私達を殺してまで護ろうしていた理由がよくわかったよ」

「いえ、もう済んだことですし。別に気にしてない……とはいえませんが、妹もこうして回復してくれましたし、もういいですよ。俺のほうも、暴言の数々、大変失礼しました」

「お互い様さ。本当にすまなかった。どうか妹さんと幸せな家庭を築いてくれ」

「はい、わかりま……え、いや、ちょっと!?」


最後にとんでもないことを言い残して、市民Aは去っていった。しかもニヤニヤと笑みを浮かべながら。


――あれ?俺って謝罪されたんだよな?


危うく頷きかけた晋は、それを呆然と見送ることしかできない。


「何があったの?」

「いや、実はさ――」


事情を理解できていない綾乃が首を傾げる。

晋は、綾乃が医療テントに篭っていたときに起こった出来事を説明した。


そして、一部始終を知った綾乃は、意地悪い笑みを浮かべながら言った。


「お兄ちゃん、幸せな家庭を築こうね。子供は最低三人は欲しいな」

「お前も調子に乗るんじゃありませんッ!」

「とか言いつつ、実はまんざらでもないんでしょ?」

「憎らしい台詞を囀るのはこの口か?」

「ふひゃっ!いひゃいよー!」


晋は綾乃の両頬をつねってこね回す。

綾乃は必死に逃げようともがくが、力で兄に敵うはずもない。


「ほれほれぇ。調子に乗った分のツケは払って――ん?」


しばらく綾乃の頬っぺたを弄り回していた晋は、そのままの姿勢で唐突に固まった。

突然動きを止めた晋を不審に思った綾乃が、兄の手を頬から剥がして後ろを振り返る。


「新井先生?」


医療テントにいるはずの新井がなぜかこちらに向かってきていた。


「あぁ、いたいた!ウィルスの抗体を持つお兄さん!」

「長いなオイ」


駆け寄ってきた新井に、晋は顔を顰める。

別に新井を嫌っているというワケではない。

ただ、もう用は済んだハズの新井が、なぜこちらに声を掛けてくるのか。

どうにも嫌な予感がしたからだ。


「貴方の血を貰い受けにきました!」

「お断りします」

「そ、そんな!?」


晋は綾乃を連れてその場から去ろうとする。

焦った新井は、慌てて晋の肩を掴んで引き止めた。


「お願いします!特効薬を作るのに貴方の血が必要なんです!」

「それならさっき献血したでしょう?今更血を抜き取られるのはゴメンですよ」

「そこをなんとか!せめて前線で命を張って頑張っている自衛官さん達の分だけでも!」

「む……」


そう言われてはさすがの晋も無下にすることはできない。


――俺が血を譲らなかったばかりに、身体を張って市民を護っている自衛隊の隊員がゾンビに噛まれて(以下省略)っていうのはさすがに気分が悪いしな……。


「わかりました……さくっと終わらせてください」

「もちろんです!ささっ、こちらへ!!」


ズルズルと医療テントに引き摺られていった晋は、そこで自衛官の分の特効薬&生き残った警察官の分の特効薬&生き残った市民の分の特効薬を作成するために、必要以上の血を抜き取られた。


「あれ?自衛隊の人たちの分だけしか特効薬を作らないんじゃなかったっけ?」

「え?そんなこと言いましたっけ?」

「なっ!?ちょっ!!ら、らめーーーーー!!!」


晋の絶叫が医療テントを揺るがした。


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