90. 隊長は天界へ向かう
第14話の伏線をここでやっと回収です!
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アルフたちが天界を目指したその頃。
人間界の王都『プロスパレス』から少し外れた森の中。
小さな民家での出来事である。
「ハイガー! ハイガーは居るか!」
意気盛んにそのドアを開けたのは、人間界の国王その人。配下に兵士を3人従え、ハイガー一家の住む民家に足を運んだのだ。
「……む。国王様。よくぞご無事で……。その様子ですと、王都の方も大丈夫のようですな」
国王たちを出迎えたのは一家の主、ハイガー。
出迎えた、というよりは押しかけられたと言った方が正しいが……。とにかくハイガーは今、テーブルに置かれた肉料理や野菜を頬張りながら、食卓についていた。
その姿はドライとの激闘によりボロボロ。ほぼ全身を包帯に包んだ上での再会となるが、それでも闘いに勝利した事には大きな意味がある。
「それは此方の台詞じゃ……。此度の天使兵の襲撃、見事勇者と……お主のおかげで退く事が出来た。改めて礼を言うぞ、ハイガーよ」
「ありがたきお言葉……。このような家族団欒の食事中のところ申し訳ありませぬが、謹んでお受けいたします」
ハイガーは依然として食う手を進めながら、器用に言葉を返す。
普段礼儀正しい彼からは想像もつかない姿ではあるが……。余程腹が減っているのだろう。もしくは本能的に、栄養と力をつけなければと思っているのかもしれない。実際様々な盛り付けを施された料理の数々を口に運ぶスピードは大したものだった。
そして『家族団欒』というからには、彼1人だけではないということで。
「あらあら、国王様に皆さん。ようこそお越しくださいました」
「とーちゃん、シチューできたー!」
キッチンから嬉々として皿を運んでくるのは、ハイガーの妻ユミナと息子のターク。
出来たてアツアツのシチューの皿を「あちち」と言いながらテーブルに置くと、タークは続けて兵士が抱っこしている彼女の存在に気がついた。
「あっ! アルマだー!」
兵士の1人が抱いていたのは、アルフとロゼの愛娘アルマ。兵士はアルマをそっとおろし、アルマはヨロヨロとバランスを崩しながらタークを指差した。
「おー、タークくん。こんちは」
どうやらこのチビッ子2人は顔見知りの様子。タークの方が幾分とお兄ちゃんではあるが、そんな事はお構い無しと、2人はハイタッチをかましている。
「すみません。お食事中のところにお邪魔してしまって……」
兵士たちがペコリと揃って頭をさげる。息のあったその様子に、ユミナはクスクスと笑って答えた。
「ふふ、構いませんよ。それよりも、良ければ皆さんもどうですか? 大したお構いもできませんが、やっぱりご飯は大勢で食べた方が美味しいですもの」
それを聞いて、3人は一斉に顔を上げる。そこから見えるのは「待ってました」と言わんばかりの表情。
「いぇーい! ユミナさんのお手製シチューだー!」
「元王宮料理人副料理長の料理が食べられるなんて、夢のようです!」
「やはり持つべきものはハイガー隊長ですね!」
それぞれが大袈裟にガッツポーズをかまし、この上ない喜びを体現してみせる。どうやらこの兵士たち『料理』が目当てでここに来たようだ。
「まったく……騒々しい部下たちだ」
ハイガーは無邪気になる兵士たちに小さくため息をつき、フォークを置く。そしてようやく使命感を思い出したのかナフキンで口周りを拭き、立ち上がって国王と向かい合った。
「国王様。それで、勇者たちは……?」
「彼なら王都を救った後、天界へと飛び立っていった。ほかの仲間の者も魔界へと戻って行ったよ」
「天界に……! ということは、あのアドネーとやらと決着をつけに行ったのですね……!」
ハイガーは驚きを表し、左側の壁に立て掛けてある自らの剣へと一歩歩を進めた。
おそらく、いや……ハイガーは向かうつもりだろう。勇者____レイドのもとへ、世界を守るために。
だが、ハイガーのその様子に国王と兵士たちはいい顔をしなかった。国王は首を横に振り、ハイガーに柔く言った。
「……ハイガーよ。後のことは勇者に任せようではないか。彼ならばきっと、この世界を救って_____」
「いいえ。それでは駄目なのです、国王様。勇者1人に任せていては、この王都の未来も全て、『誰か』に頼っていくことになりかねません」
ハイガーは国王の言葉を遮り、続ける。
「『皆』で立ち向かわなければ、この世界を守ると一丸となって闘わなければ、何も変わりはしないではありませんか」
「……そうじゃな。じゃが、アドネーの力は強大すぎる。儂たち『人間』がそれに立ち向かうなど、命を捨てるに等しい行為じゃ」
「国王様……!」
眉を尖らせるハイガーに、国王は目を閉じて答えた。
「分かっとる。我々は、弱い。集まらなければ、何にも出来ない生き物じゃ。それを、勇者の姿から気づかされたよ」
兵士たちは少しだけ俯き、申し訳ないような表情を見せる。
人間がレイドを蔑んだ根本の原因は、アドネーが国王に乗り移り、彼の印象を悪く与えるよう仕向けたからである。いわば、人間たちも一種の被害者といえよう。だからと言って、これまでの行いがゼロになるわけではない。レイド自身からは最終的に許しを得たものの、それでもまだ人間たちには残っているのだ……3年間の『罪の意識』が。
しかしそこから和解した今。人間たちも少しだけ前に進んだのだ。
今しなければならないこと。
何が大切なのかを。
「勇者には勇者にしか成し得ないものが、我々には我々にしか出来ない事がある……。そして儂たちは決意したのじゃ。これより先、何があろうとも、決して下を向かぬ事。挫けても立ち上がる事。そして……絶望を前にしても、諦めぬという事を」
「…………」
ハイガーは口を閉じたまま尚、厳格な表情で佇む。だがそこにはもう、先程までのピリピリとした空気は無くなっているように思える。
国王は目を開けた。
「ハイガーよ。そのボロボロの身体で何が出来る? 勇者を助ける事が出来るのと……そう申すのか?」
ハイガーはゆっくりと右手を額に構え、敬礼のポーズを取る。
「もとより……覚悟の上です」
「そうか……。やはりお主も、どうしようもない『愚か者』、じゃな」
「どうやら、そのようですな」
互いに小さく笑い、意思の疎通を確かめる。
団結することを学んだ人間たちは、これからもっと文化を発展させていくだろう。
その発端は全て勇者から始まり……そして、勇者のお陰で築かれていくのかもしれない。
それはまだ、遠い遠い先の話。
もしかしたらそう遠くない未来の話。
今はただ平和を取り戻すため、皆で力を合わせる時だ。
「さて。勇者を助けると言うのならば……コレを持っていくがよい」
国王は懐からゴソゴソと神秘的な液体の入った小瓶を幾つか取り出し、ハイガーに手渡した。
「コレは……?」
「王宮に代々伝わる秘伝の薬、その名も『エリクシル』じゃ。飲めばたちまち、その身のキズを癒してくれよう。先程、王宮の宝物庫に寄ってきて取ってきたのじゃ」
「そんな薬が……」
ハイガーは国宝級の秘薬を大事そうに両手で受け取り、その輝きに目を奪われていた。
「今、ここに5本ある。ひとつはここで飲んで行きなさい。そして残りは、ここぞという時に使うのじゃ」
「……有難うございます」
早速ボロボロの身体を癒そうと、ハイガーは小瓶の栓を抜いて一気飲みをする。すると刹那、彼の全身は光り輝いてみるみるうちにそのキズを無かったものにした。
「なんと、これは……確かに、想像を絶する効き目ですな。これで勇者の元へ……」
メリメリと力が溢れてくるのを感じながら、ハイガーは剣を取る。そして残り4つの小瓶を懐にしまい、後は天界に向かうだけなのだが……。
ここでひとつドデカイ問題が発生している事に、兵士の1人が気がついた。
「……あれ? そういえば、天界に行くには『異界の結晶』が必要なんじゃないですか?」
国王はそれを聞き、真っ先に「しまった顔」を見せる。
「あっ! 言われてみればその通りじゃ! ……ぬぬぬ、アレは創るのに一月はかかってしまうぞ……」
「結晶を持っている勇者と悪魔たち……。どちらも、もう人間界には居ませんからね……。ど、どうしましょう?」
それぞれが腕を組んだり下顎に触れたりと、頭を抱える。
人間界から別世界へ行くには、『異界の結晶』が必要……。それが無ければ、世界を渡ることは出来ないのだ。
さて、一体どうしたものか……。
「アルマー。どうだ、母さんのシチュー。美味いだろ!」
大人たちの会話など露知らず、無邪気にご飯を食べているタークとアルマ。
「うまー」
ぷはぁと口の周りをシチューまみれにしながら味わうアルマと、ニコニコと嬉しそうに2人の光景を眺めるユミナ。
アルマが自分の背丈よりも大きな椅子に座って、足をパタパタさせていると、ふと彼女のポケットから「コロン」と音を立てて何かが床に落ちた。
「あれ? なんかポケットから落ちたぞ」
椅子からシュタッと降りて、ささーっと音の方へ向かうターク。アルマから落ちた「それ」を拾い上げると、不思議そうにまじまじと見つめた。
「なんだこりゃー。キラキラしてんぞ、キレイだなぁ」
光り輝く菱形の結晶……。珍しい石か何かだろうか。タークがそんな風に考えていると、兵士が声を大にして反応した。
「あ……!! それ、え!? 『異界の結晶』!?」
兵士の言葉に、ハイガーたち全員が遅れて反応する。
「え!?」
ハイガーがタークに駆け寄り、手に持ったそれに視線を向けた。
「た、ターク……。お前、それを一体何処で……?」
「え、いや、アルマのポケットに入ってたんだよ。なぁ、アルマ?」
何か悪いことでもしたのかと、少しばかり慌てた様子のターク。そしてアルマはもくもくとシチューを食べながら答えた。
「うん。こないだゾンビのおにーちゃんに貰ったの」
ゾンビのおにーちゃん……。ハイガーたちはピンと来ないかもしれないが、恐らくはゾン吉の事だろう。
ゾン吉とアルマが会ったのは、あの時。
レイドを探しにリリ、ウル太郎と共に人間界を訪れた時だ。
闘技場で出会ったアルマに、ゾン吉は変装用のソフト帽子をプレゼントした。そしてそれが原因で色々あって、闘技場が大騒動になるのだが……詳しくは『第7話を見てネ☆』と言いたい所だ。
その時ゾン吉たちがその対応に慌てた時。
リリは不意に落としたのだ。
ポーチに入れて管理しておいた『異界の結晶』を。
……今となってはその事実を確認する手立てはないが、この結晶はその時のもので間違いないだろう。
とにかく信じられない偶然が重なって、結晶は今ここにあるわけだ。
「?? よ、よく分からんが、とにかくこれで……」
ハイガーはタークから結晶を受け取り、喜びの感情を表す。
「えぇ、天界へ行けますよ!」
兵士たちも予期せぬ奇跡的な偶然に大喜びだ。
「いいのかー? アルマ、お前の物とられちったぞ」
「んー。いいよ、シチューくれたし」
タークが口を尖らせて大人の横暴さに抗議するが、アルマはあっさりと了承するのだった。
「アルマちゃん。君のお陰でおじさんたち助かったよ。ありがとう」
ハイガーからは想像もできないような言葉遣い。兵士の2人ほど、そのギャップからくる笑いを堪えている。
「んー」
アルマは我関せずと、取り憑かれたようにシチューを貪り続ける。
なんにせよ、これで問題は解決だ。
「よし。それでは国王様、善は急げです。これより勇者の助太刀に行って参ります」
「うむ。……たのんだぞ、ハイガー」
ハイガーは1人、剣を取り敬礼する。そして振り返り、妻と息子を見た。
「ユミナ、ターク。また留守にするが、すまないな」
「えぇ。早く帰ってきてくださいね」
「とーちゃん、おれ遊園地行きたい!」
まるでいつもの仕事に行く時と同じように、一家の大黒柱を送り出す2人。ハイガーはその日常が堪らなく好きだった。
「はは。分かった。世界が平和になったらな」
タークの頭を撫で、ハイガーはもう一度振り返る。そして顔つきを新たに、勇ましくドアを開けた。
「では……行ってくる!」




