67. 天界、襲来⑤
「おねがい、ウル太郎! 僕を勇者のところに連れてって!」
ベゼルはウル太郎に願い出る。
危険なのは百も承知のはず。それはあの隕石のように巨大な球体を見れば明らかだ。
「いや、ベル様……。いくら何でもそれはちょっと危険ですよ?」
「だって、このままじゃ勇者が!」
だが、それでも一歩も退かないベゼルに、ウル太郎も困った表情を浮かべた。
それを見兼ねたのか、アルフがベゼルに一言告げる。
「安心しなって、ベゼル君。レイドはあんな玉っコロにやられるようなやつじゃないさ」
「うん」
やけにあっさりとした返答。アルフは一瞬よろけそうになりながらも、体制を立て直して突っ込んだ。
「『うん』って……。じゃあ、レイドの所に行く必要なんてないんじゃあないか?」
「そうだけど……。でも、なんだかすごく嫌な予感がするんだ……。勇者に、なにか危ないことが起こるんじゃないかって……」
アルフは首をかしげる。
ベゼルの言っていることは支離滅裂だが、どこか真に迫るものがある。彼にそう感じさせるのは、以前起きた『ある一件』が要因だった。
「うーん、俺としてはあの球体を勇者が破壊できんのかって方が心配なんスけど……。それでも、リリさんの言いつけっス。ベル様を危険な目に遭わせる訳にはいきませんよ」
ウル太郎は腕を組み、頑としてベゼルの意向に首を振る。
「でも……」
俯くベゼルに、先程とは一転してアルフが口を開いた。
「…………まぁ、確かに心配だよな。んじゃ、俺と一緒に行くか?」
ニッと笑い、ベゼルを見下ろすアルフ。
「んなっ!」
「アルフ、ほんと?」
「ああ」
ベゼルは顔を上げ、アルフを見上げた。
ウル太郎も驚きの声を上げていたが、そんなことはお構いなしに、アルフはハイガーへ振り返って話を進めていく。
「ハイガーさん。国王のこと、頼んでいいかい?」
肩に担いでいた国王をパスしようとするアルフに、ハイガーは一言添える。
「構わんが……お前、一体何を考えているんだ?」
「……魔界でハイガーさんとレイドが闘ったあの時、最後の局面であの子は『なにか』を察知してアンタを止めようとしただろ? もしあれが無かったら、今頃アンタはこの場所に立っていられなかったかもしれない」
3日前の激闘。
互いに戦闘モードに入っていたレイドとハイガーを止めたのは、他でもないベゼルだ。
あの時確かに、ベゼルだけには『なにか』が見えていた。だからこそ、ハイガーに斬りかかるレイドを止めることが出来たのだ。
「……それで、今回もそれを信じると?」
ハイガーは少し考えた後、ゆっくりと口を開く。それに合わせて、アルフもコクリと頷いた。
「あの子にはきっと、何かがある。大魔王の息子だからそりゃ当然かもしれないけど……俺はそれを見極めたいんだ」
「……ふん。好きにしろ」
ハイガーの同意を得たことで、話はまとまる。
彼がそう返答したのは、彼もアルフと同じく、ベゼルの中にある『可能性』を感じていたからなのだろう。
「へへっ、ありがとな、ハイガーさん」
アルフは礼を告げ、国王を手渡しベゼルへと向き直った。
「んなわけで、早いとこレイドに合流するか。準備はいいかい?」
「うん!」
だが、ここで前言を撤回させてもらう。
話はまとまったと言ったが、実際には納得していない人物がひとり。
「だ、ちょ、ちょっと待て。ベル様を危ない場所に連れて行ったらだなぁ……」
ウル太郎は慌てて、アルフを止めようとする。しかしそこにはいつもの彼らしい迫力がなく、どこかウズウズしている様子さえ感じられた。
「だーいじょうぶだよ、オオカミ君。球体にはあんまり近づかないように気をつけるからさ」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
頭を掻くウル太郎を横目に、ベゼルはアルフに質問する。
「アルフ、でもどうやって勇者のところまで行くの?」
「そりゃあ勿論、俺の『魔法』でさ」
アルフはニヤリと、自信満々に答えた。
「アルフの魔法! みたことない!」
ベゼルはテンションを上げて喜ぶ。
「楽しみにしてな。あっという間にレイドのとこまで行けるからな」
楽しげな2人の様子を見て、ウル太郎は歯ぎしりを鳴らした。
「ぬぬぬ…………」
「そんじゃ、チャチャッと行くとしますか。ベゼル君、俺におぶさりな」
「うん!」
ベゼルを背におぶせ、準備は万端。アルフが魔法を発動しようとしたその時だった。
「よーし、じゃあ出発……」
「ちょっと待てーーー!!」
しびれを切らしたウル太郎が、唸るようにそう叫ぶ。
しかし、2人を止めようとするのではなく、叫んだのは全く別の理由だった。
「だぁー、くそ! 俺も行くから! ベル様は俺に任せろ!」
そう。
先程からウズウズしてたのは、自分も行きたくてしょうがなかったからなのである。
アルフとベゼルがその気ならと、ウル太郎はリリの言いつけを忘れて、彼の背からベゼルをひっぺがした。
「なんでぇ、オオカミ君も行きたくて仕方なかったんじゃねーか」
アルフは腰に手を当て、口を『3』のようにして突っかかる。
だが恐らくアルフは、ウル太郎が『こういう性格』だということに気づいていたのだろう。だからこそ、あえてウル太郎を軽くあしらっていたのかもしれない。
「う、うるせぇな……。ほら、ベル様。とにかく自分に乗ってください。こんな奴にゃ任してらんねッス」
声を若干ごもらせ、ウル太郎は四足歩行になる。
「わぁ、やっぱりウル太郎も来てくれるんだね」
「えぇ、当然ッス。しっかり掴まってて下さいよ」
よいしょと跨るベゼルにそう促し、ウル太郎はキッとレイドが向かう球体を睨みつけた。
「いざ、勇者の所へ! 出発進行ッス!」




