64. 天界、襲来②
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「わぁ……! やっぱりウル太郎はすっごくはやいね!」
ベゼルを背に乗せたウル太郎は、住宅街の屋根から屋根を器用に飛び移る。混乱した街の中だが、彼らの行く道を阻むものは何もない。
「あったりまえですよ! スピードで自分に勝てる奴なんかいねーッス!」
いつの間にか4足歩行に走りを変えているウル太郎は、上機嫌で足を動かす。
「もっと速くしますから、振り落とされないようにしっかり掴まって下さいよ、ベル様!」
「うん!」
前方に見えるのはプロスパレスの王宮。
目的地まで、あと少しだ。
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ベゼルたちが王宮を目指してすぐ。
リリたちは、とある人物に出会っていた。
「貴女は……確か以前お会いした……」
リリはそう呟き、その人物を見やる。
小さな女の子を連れた、気品漂う女性。整った顔立ちを一層際立たせる、肩にかかるほどの艶やかな青い髪。女の子も同じ髪色をしているところから、2人は親娘であることがうかがえる。
「あー、メイドさん!」
途端、女の子がパアッと顔を明るくして、立ち上がったリリの膝にしがみついた。
「あ、こら、アルマ!」
女性は慌てて手を前に出して呼び止めるが、女の子はそんなことお構いなしだ。
「ねーねー、ぞんびのおにーちゃんは?」
リリの顔を見上げて、ジト目を見開いて質問する女の子。
「あ、えと……」
ぞんびのおにーちゃん、とはゾン吉の事だろうか。しかしゾン吉は今魔界で留守番中で、人間界には来ていない。リリが返答に困っていた時だった。
「す、すみません! ほらアルマ、こっちに来なさい」
女性は頭を深く下げると、少しばかり強引に女の子を連れ戻す。
「むー」
アルマと呼ばれた女の子は納得いかないというように、ぷくっと頬を膨らませた。
突然出会った、見知らぬ2人。
一部始終をハテナ顔で見ていたエリスが、耐えかねてリリに尋ねる。
「……何この人達。リリ、アナタの知り合い?」
「え、ええ。知り合いというか……この間人間界に来た時にちょっとありまして……」
以前、レイドを探しに人間界を訪れた時。
レイドの所在の手掛かりを得るべく闘技場へ入ったリリたちと偶然出会ったのが、この女性とアルマだ。それが幸いし、結果的にレイドの手掛かりを掴むことが出来たのだが……。詳しくは第7話を参照してほしい。
「あ……そういえば、この間は名前もお伝えしていませんでしたね」
女性は自分の胸に手を当て、言葉を続ける。
「私はロゼと言います。この子は娘のアルマです。先日は色々と失礼なことをしてしまい、すみませんでした」
ロゼと名乗った女性は再び深々と頭を下げる。それをちろちろと見ていたアルマも、真似をしてひょこりとお辞儀をした。
「いえ、そんな……。あの時はむしろ、助かりましたから……」
リリは違うというように手を振り、感謝の意を伝える。
「え……そうなのですか?」
「はい。あ、私の方も自己紹介がまだでしたね。私はリリと申します。此方のメガネの方は、エリスです」
そう言ってエリスを紹介すると、エリスは右手を腰に当てそっぽを向いたまま答えた。
「エリスよ。何だかよく分からないけど、ひとつよろしく」
初めてレイドやアルフと会った時もそうだったが、この無愛想な態度から、恐らくエリスは人間にあまり興味がないのだろう。今もウル太郎と共に王宮へ飛んで行ったベゼルの様子が気になって仕方ない様子だ。
「リリさんに、エリスさん……。こちらこそ、よろしくお願いします。ところで……貴女達2人はこんな路地裏で一体何をしていたのですか?」
ロゼは口元に手を当て、不思議がる。
「ああ、えっと、ちょっと色々とありまして……」
リリは目を泳がせる。別段、事情を説明しても何も問題はないのだが、なるべく『オオカミ』のウル太郎や『魔王』のベゼルの事を伏せておきたい、というところもあったからである。
「はあ……そうなのですか。何があったのかは存じあげませんが、早くここから避難をした方がよろしいかと思いますよ」
ロゼは何か事情があるのかと深くは尋ねず、話を変えて2人に避難を促した。
「その事なんだけれど……何が起こっているの? 上空の赤い球体に、街中のこの慌てよう……。ロゼさん、だったかしら。アナタ、何か知らない?」
頭上を指差し、ロゼに質問するのはエリス。人間ならば何か知っているのではと思った彼女だったが、ロゼは申し訳なさそうに首を横に振った。
「すみませんが、私には何も……。あまりにも突然の出来事で、ひとまず避難をしなければならないということくらいしか……」
「はやくしないと、まっくろこげ?」
事の深刻さを受け止めているのかいないのか分からない、きょとんとした表情のアルマ。そんなアルマの頭を、ロゼは優しく撫でた。
「そう、ですよね……。とにかく、今ここに立ち止まっているのは、あまり得策ではありません」
リリは俯き、左手を右腕に添える。
「なら、私たちも早いところ逃げましょう」
エリスがリリに向かってそう言うと、ロゼは手を軽く叩いて閃いた。
「でしたら、ご一緒に行きませんか? 私はこの国の出身ですから、道もわかりますし。それにこの人混みです……。私でしたら、街の人が知らないようなちょっとした抜け道もご案内できますよ」
リリたち2人にとって、ありがたい申し出だ。抜け道を知っているというのなら、人で溢れている表通りのこの状況にとって、これほど助かるものはない。
「助かります。では、お言葉に甘えて……」
迷わず即答する形で意見はまとまった。
これで、残りの気掛かりなのはベゼルとウル太郎だが……。
「では、こっちです。はぐれずについてきて下さいね」
先導するロゼの後を追いながら、エリスはごく自然に怒気を含めて呟いた。
「とりあえずウル太郎には、戻ってきたら説教ね」
リリも後ろを振り返り、小さく祈る。
「……ベル様。どうかご無事で……」
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一方その頃、ベゼルたちはというと……。
「ほいっと、到着ッス! ……って、なんだァ? この城、人っ子ひとりいねーじゃねぇか!」
無事レイドのいる王宮に到達。だが、まるで人気のないこの王宮に、ただならぬ異常を感じる。
「勇者……」
レイドの身を案じるかのようにベゼルがそう呟くと、入口の門から3つの人影が現れた。
それは時同じくしてアドネーとの激闘を終えた、アルフ、ハイガー、そして意識を失っている国王の3人だった。
「おっと、誰かと思えば魔界の……」
アルフはウル太郎たちに気付き、声をかけた。
「ん? オメー確か、勇者の仲間の奴じゃねぇか。一体どうなってんだよ、これ?」
ウル太郎はそう尋ねながら、傷を負っているハイガーと国王を見て目つきを変える。どうやら、事態の深刻さを察したようだ。
「あぁ、まあ説明すると長くなるんだが……それよりもお前たち、レイドに会わなかったのか?」
アルフから出た意外な言葉。それに一番早く反応したのはベゼルだ。
「アルフ! 勇者はここにいないの!?」
「ん、あぁ……。さっきまで居たんだけどな。お前たちを探しに行くっつって、どっか行っちまったんだよ」
事情を軽く説明するアルフ。それを聞いてウル太郎はベゼルを見た。
「てことは、入れ違いか……。ベル様、どうします?」
「勇者……」
ベゼルの表情に映るのは、これまでに感じた事のない焦りと不安。
一体この少年には何が見えているというのだろうか。やがて、それは明らかになる。




