63. 天界、襲来①
人間界、プロスパレスの王宮にて。
アドネーに圧倒的な実力の差を突きつけられたレイドたち。そして今、追い打ちをかけるように放たれた巨大な炎の球体が、少しずつ、ゆっくりと、王都に向かって降り立とうとしていた。
「なんだよ、あの球体は……!!」
アルフは王宮の壁の壊れ目から球体を見やる。
街一つなど簡単に飲み込めるであろう、その球体。このままでは確実に王都は崩壊する。
「くそっ、アドネー……!」
アドネーの呪縛から解放されて気絶した国王を抱きかかえるハイガー。
今、一番現実を受け入れ難いのはおそらく彼だろう。
自分の正義だと信じていた国王が実はアドネーによって操られ、『不可解な事件』を起こしていたのだから。
そして炎の球体が王都に迫っている今。その危険は当然、『彼ら』にも及ぶ。
「……! ベゼル……!」
レイドはハッと顔を上げ、王宮の入口へと走り出した。
「レイド! どこ行くんだよ!」
「あいつらが……ベゼルたちが心配だ! 国王は任せた!」
アルフの呼びかけにそう答えると、レイドは王宮の外へと姿を消していった。
「レイド……!」
「……『人間界』ではなく、あの悪魔たちの心配か、勇者……」
ハイガーがポツリと、何かを危惧するように呟く。どうやらレイドには、ベゼルたち悪魔の事しか頭にないようだ。
「……なんにせよ、どうにかしてあの球体を止めねえとな……」
一目散にベゼルたちのもとへ走っていくレイドを不安そうに見送りながらも、アルフは再度球体に視線を戻し、右腕で頰の汗を拭った。
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ところ変わって、王都の中心、出店付近にて。
賑やかな街並みを楽しんでいた者たちは皆、突如として上空に現れた炎の球体に大慌てで避難をしていた。
「うわぁぁ!! なんだよ、あの球体は!?」
「どんどん迫ってくるぞ……!? 一体どうすりゃいいんだ!?」
「逃げろーっ! とにかく国の外まで! このままじゃ焼き殺されちまうぞ!」
パニックになった人混みに揉まれ、ベゼル、リリ、エリスの3人は狭い路地裏に追いやられる。
「ベル様! 大丈夫ですか!?」
リリはベゼルに怪我がないか、心配そうにしゃがんで肩に手を添える。当然、どこか転倒したわけでもなく無事ではあるが、ベゼルは何が起こっているのか分からず、キョトンとしていた。
「うん、大丈夫。でも、なんでみんな慌ててるの?」
その時ベゼルは、空に大きな赤い球体がある事に気がつく。
「…………? あつい……」
初めて見る、グツグツと煮えたぎるその球体。それはまるで、新しい太陽のよう。
「うわぁ、太陽が2つもあるや……」
その時だった。
球体を見上げたその時、ベゼルはトクンと不思議な感覚に包まれる。そして、その小さな頭の中で『何か』を察知した。
「何が起こってるのか分からないけど、とにかく私たちも避難するわよ」
「え、ええ。そうですね」
エリスの言葉に、リリは立ち上がる。そして、ベゼルに手を差し伸べようとしたが……。
「さ、ベル様。行きま……」
「ダメだよ! まだ勇者がお城にいるんだもん! 勇者を迎えにいかないと!」
ついさっきまで大人しくしていたベゼルが、血相を変えて声を荒げた。こんな事、今まで滅多になかった事だ。
リリとエリスも一瞬戸惑うが、一拍おいてからエリスが穏やかにベゼルに促した。
「ベル様……勇者ならきっと無事ですよ。ですから、早く安全な所へ……」
「いやだ!」
しかし、断固としてベゼルはそれを聞き入れようとはしない。
「なんだか、すっごくモヤモヤするんだ。勇者に、なにか嫌なことがおこるって。だから、勇者を助けなくちゃ!」
「ベル様……?」
リリたちは不思議だった。何故ベゼルにそんなことが分かるのか。彼女たちには知り得ないが、ベゼルが先程感じた奇妙な感覚。それがもしかしたら、何かしらの関係があるのかもしれない。
そして、ベゼルのその言葉に賛同する者が一人。
「さんせーっス! ベル様!」
路地裏の屋根の上から颯爽と降り立って来たのはウル太郎。
「う、ウル太郎さん!?」
「アナタ、一体今まで何処に……ていうか何処から来たのよ」
ウル太郎はなぜかやたら上機嫌に、頭を掻いて答える。
「いやぁ、闘技場行ってたんスけど、なんか中止になっちまって。そんで上を見上げたら何かスゲーのあんじゃないスか。こりゃあビックリっスね!」
ざっくりとした説明に、エリスは頰に汗を垂らした。
「そんなバカな喋り方だったかしら? アナタ」
「なーんかワクワクしちゃって! てなわけでベル様! 勇者の所に行くんでしょう? そんなら、俺もご一緒しますよ!」
自分の胸をドンと叩き、意気揚々とするウル太郎。だが、大通りは人で混雑し、民衆はパニック状態。ウル太郎が一緒とはいえ、ベゼルに別行動をさせる訳にはいかない。
「だ、ダメですよウル太郎さん! 危険です!」
「大丈夫ですって! ベル様には怪我一つさせませんから!」
どこからその自信が来るのだろうか。リリが首を横に振るも、ウル太郎は全く聞こうとしない。そしてそのまま、ベゼルはウル太郎におぶさった。
「お願い、ウル太郎。勇者のところまで!」
「がってん!」
ベゼルをしっかりホールドした事を確認し、ウル太郎はオオカミらしい遠吠えを上げる。
「途中で振り落とされないでくださいよ、ベル様!」
「リリ、ごめんね。あとでたっくさん怒っていいから。それじゃあ……いってきます」
そしてベゼルを乗せたウル太郎はピョンっと大きく跳躍。
「ヒャッホーーウ!!」
住宅の屋根から屋根へと猛スピードで走り抜け、王宮へと向かっていった。
「ベル様、待って……あっ!」
リリはその後を追おうと路地裏から大通りへ出ようとするが、人混みにぶつかり足を崩してしまう。
「きゃあっ!」
「ご、ごめんなさい! お怪我はありませんか……?」
リリとぶつかったその人は、そう言って足を止めてリリに手を差し出した。
リリは手を差し伸べられ、その人物の顔を見上げる。
「ええ、大丈夫です……」
だが、ここで予想外の出来事が起きる。
「あ……貴女は……」
「あら……」
そこでぶつかった人物……それは、リリにとって、意外な人物であった。
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人間界の遥か上空、『天界』。
その何処かに、創造神アドネーはいた。
「ドライ。ドライはいるか?」
神秘的な宮殿のような場所。その最奥に位置する玉座に座り、アドネーは誰かを呼んだ。
「はいはい! なんでしょアドネー様!」
それに呼応して瞬時に姿を現したのは、小さな道化師のような男。背中に白い翼を生やし、片膝をついてアドネーを見上げる。
「天使兵を集めろ。これより……人間界を襲撃する」
アドネーが頬杖をついてその道化師……『ドライ』に命令をすると、ドライはキビっと立ち上がり軍隊のような了解のポーズをとった。
「わっかりました! アドネー様も直々に人間界に行かれるんですか?」
「いや。指揮は君に任せるよ。思う存分暴れてくるといい」
その命令を聞いた途端、ニヤニヤと愛想よく笑っていたドライの顔は、企みを含めた悪どい表情に変わる。
「……へっへ、了解でっす!」
そして上機嫌のまま、ドライは一礼をして宮殿を後にした。
「さて……ゆっくり高みの見物といこうじゃないか。暇つぶしにでもね」
アドネーはひとり、笑う。
そして静かに目を閉じるのだった。
本日ですね、ジャンルをコメディーからファンタジーに変更しようかと思います。
それに伴い、第11話の内容を一部変更します。
どこを変更するかは読み返して貰えればすぐに分かると思いますので……(笑)
今後とも、本小説を宜しくお願いいたします。
※追記
2015/10/18をもちまして、本小説のジャンルをコメディーからファンタジーに変更いたしました。
今後とも、本小説を宜しくお願いいたします。




