61. 王宮の攻防
「アルフ! ハイガー! 大丈夫か!?」
アドネーが城外へ吹き飛ばされたのとほぼ同じ頃、レイドは2人の元へ駆け寄っていた。
「あぁ、なんとか大丈夫そうだ。……すまねぇな、話は聞こえてたんだが……頭の整理がつかなくてよ」
アルフもハイガーも外傷はないものの、やはりアドネーの正体に戸惑いを隠せない様子だ。
アルフの言葉に、レイドは共感して頷く。
「当たり前だ、そんなの。俺だって、いきなりアイツが『神』だなんだの言ってきて、ワケが分からねぇ」
しかし、それでもやるべき事は決まっている。 アルフは深呼吸をし、覚悟を決めた。
「……だが、アイツは倒さなきゃなんねー相手だってのはなんとか分かったぜ」
「ああ。そんだけ分かれば十分だ。ハイガーは……」
レイドがそう言ってハイガーを見る。アドネーの初撃を身に受けた時は息を切らしていた彼だが、小休憩を挟んだ今は大分ダメージから回復していた。
「……フン。国王様の身体を乗っ取り、人間界を騒がせた不届き者め。神だか何だか知らんが、許してはおけんな」
並大抵のものならば、この時点で臆していることだろう。しかし彼らは、何ひとつ諦めていなかった。
これが人間界でも屈指の実力を誇る者たちなのだ。
「よし。そうと決まったら、行くぞ! アルフ、ハイガー! これ以上アイツに好き勝手させてたまるか!」
「ああ!」
「おう!」
3人は、ひとり闘うサルタンの加勢へと、その足を走らせた。
「ふんぬ!」
城内へ戻ってきたアドネーと交戦するサルタン。
単調なぶん殴りをなんども繰り出すが、アドネーはそれを全て紙一重で受け流し、懐に入って掌底を食らわせる。
「ぬぐっ!」
『はぁっ!」
怯むサルタンに、アドネーは手首を掌底の形のままくるんと捻らせ、顎めがけて追い討ちをかけ_____
その瞬間、サルタンの目にも留まらぬ蹴りの迎撃がアドネーの土手っ腹に命中。両者は互いの衝撃で後方へ吹っ飛んだ。
一瞬の攻防により、2人は後ずさりをして距離を取る。闘いは始まったばかりではあるが、掌底が直撃した腹の辺りを抑えるサルタンに、僅かながらの分の悪さを感じさせる。それに対し、アドネーは今の一撃を受けても何ら涼しい顔をしていた。
『……どうした、大魔王。この1000年で腕が鈍ったか?」
アドネーは首元に手を添え、軽く骨を鳴らす。どうやら今のは、只の準備運動に過ぎなかったようだ。
「ふはは。なあに、それはお互い様じゃろ。『こんな状態』ではな……」
『……! やはり、貴様……」
サルタンの意味深な発言に反応し、アドネーが問いかけようとした時だった。
「おらあああ!!」
サルタンの背後から現れたのは、アルフ。アドネー目掛けて、連打、肘打ち、回し蹴り等等、連続攻撃を怒涛の勢いで放つが、一つとして当たらない。これも全て紙一重で避けられてしまう。
しかし、これで終わりではなかった。
「退け! アルフ!」
アルフはその声を合図にアドネーの遠くへ回避する。声の主、ハイガーは遠方から自慢の風魔法を剣から発動させた。
「『H・S・S』!!」
技名と共に、空を水平に切り裂いて出現したのは風の衝撃波。
『ふん……安直な攻撃だな」
アドネーは手で弾こうとするも、その直前で衝撃波は3つに分かれる。
「フン、甘いわ! 大人しく引き裂かれるがいい!」
ハイガーは衝撃波を自分の意志で操っていた。そしてそれは、3方向からアドネーに襲いかかる。
アドネー、その場に跳んでこれを回避。しかしその背後には、レイドがいた。
「これなら……どうだ!」
『!!」
両手合わせて作った拳が、アドネーの後頭部を直撃。そのまま床に突撃する。
「ほぉ。息ぴったり、ナイスコンビネーションじゃな」
サルタンが顎鬚を触りながら関心する。
「だが……それでもアイツには、てんで応えてねぇみてーだけどな」
その近くにいたアルフが冷や汗を垂らす。自分の攻撃が全て見切られていたことに若干のショックを受けているようで、改めてアドネーの恐ろしさというものを実感していた。
そして言葉の通り、アドネーは何食わぬ顔でその場から立ち上がる。
『この程度か? 君達の力は……」
「……マジかよ。この一撃で大抵の魔物はのしちまうんだがな……」
床に着地したレイドは、吐き捨てるように呟く。
『そんな下等生物と、神である私を同じ括りにしないで貰いたいね」
アドネーは肩や髪に付いた床の瓦礫を手で払いながら、レイドにそう返す。
『いい退屈しのぎになるかと思ったけど、どうやら……そんな事なかったみたいだね」
そして周囲に散らばるレイドたちを一瞥した後で、興味をなくした表情をし、面倒臭そうに続けた。
『じゃあ……もういいかな? 『壊し』ても……」
「…………っ!!」
3人は戦慄する。この瞬間……いや、本当はもっと前から分かっていたのだ。
自分たち人間が、『神』になど遠く及ばないことを_____……
「ふん。あまり、こやつらをなめるでないぞ、アドネー」
そんな中で、サルタンだけがまだアドネーに反論する。アドネーとの距離はあるものの、その威厳と威圧は錆びつかずに健在だ。
それに対してアドネーは小さく失笑し、サルタンを睨みつけた。
『買いかぶりすぎだな、大魔王よ。そして____君自身もだ」
瞬間、アドネーの姿がその場から消え去る。
「!!」
そして、次に姿を現したのはサルタンの眼前。突き出された右の掌は、サルタンの左胸に照準を合わせていた。
『大魔王……君はやっぱり邪魔だから、申し訳ないがこの場から退場してもらおう」
アドネーの右手が白く光る。そして、そこから一直線に放たれたのは_____『レーザー』。
「______っぐ……っ!!」
アドネーの放ったレーザーが、サルタンの身体を貫く。
「……だ、大魔王ーーっ!」
レイドはただ、叫ぶことしか出来なかった。




