59. 地剣インヴォルフ
『ふむ。知っている事、企んでいる事、そして目的、か……。とてもじゃあないが、多すぎて全部は話しきれないな」
国王の身体を乗っ取った何者かは、玉座に座ったまま足を組む。
「そんなら……力尽くで話してもらうだけだ」
レイドも退く気は無いようで、闘う意志を明らかにする。だが……その手首に付けられているのは、手錠。
『……まさかとは思うが、その手錠をつけたままで私と闘うつもりかい?」
国王はレイドを拘束するその手錠を見て、嘲笑うかのように頬を緩めた。
しかしレイドはそんな事お構いなしに、国王へ向かって走って行き____
「その……まさかだよ!!」
動かない国王目掛けて跳躍し、その右頬へと回し蹴りを繰り出した。
対峙するレイドと国王。
その光景をよそに、アルフは伏せるハイガーを起き上がらせる。
「ハイガーさん、大丈夫か?」
「ああ……」
ハイガーは外傷こそ無いものの、肩で息をしている状態だ。
「国王様が操られてたなんて、俺も驚きだ。それにしても、それならアイツは一体……」
アルフが国王に視線を向けた時には、まさにレイドの蹴りが国王に当たる瞬間だった。そしてそれと同時に____ハイガーの異変にも気がつく。
「……ぐ、はぁ、はぁ……!」
「……ハイガーさん?」
どうにもおかしい。
ハイガーは国の親衛隊隊長だ。当然人間界の中では指折りの実力を誇る。
そんな彼が、ただ一度の攻撃を受けただけでこれ程までに苦しそうにする姿を、アルフは見たことがなかった。
それはつまり_____
「気を、つけろ……ヤツは、只者ではない……」
____今の国王の力は常軌を逸している、という事を示唆している。アルフは瞬時にそれを察知した。
「…………っ____! レイ____」
そして、アルフがそれをレイドに伝えようとした時、闘いの場面は次へと移っていた。
「……っ!?」
国王へ回し蹴りを放ったレイドだが、気付けばハイガーと同じように、『何か』によって吹き飛ばされ、上空を舞っていた。
『……やれやれ。本当の身体じゃあないにしろ……舐められたものだな」
国王がそう呟いて立ち上がり、凍りつくような視線をレイドに送る。
ただしかし先程と違うのは____吹き飛ばされはしたものの、レイドは巨大な剣を盾にして国王の攻撃を防いでいた事だ。
「っと……! 危ねー危ねー……!!」
部屋内の天井付近まで飛ばされたレイドだが、何事もなく華麗に着地。大したダメージはないようだ。
『ふふ。中々やるじゃないか、面白い剣を使う」
国王は初めて見るその剣に興味を示した。
「そりゃどうも。この無類の防御力を誇る『地剣インヴォルフ』に、防げないものは無いんでね」
レイドの身の丈半分ほどある刀身____だが、その横幅が凄まじく、剣の腹を前に構えると身を隠せてしまうほどの、まるで『盾』そのもののような大剣だ。その全体のフォルムも、剣と言うよりは『斧』と言った方が近いかもしれない。レイドはその剣を両手で持つ事で、手錠をした状態でも難なく扱っている。
因みにどうやって出したかと言うと、例によって『シーカー』から、吹き飛ばされる直前に疾風の如き早業で取り出したのである。
『へえ、『地剣インヴォルフ』……。何処かで聞いたような……」
国王は目を閉じて、身体をぐわんぐわんと左右に揺らす。そうしてすぐに目を開けたかと思うと、閃いたという風に手をポンと叩いた。
『ああ、思い出した。『伝説の七剣』の内の1つだったかな」
レイドはその言葉に、少しだけピクリと反応する。
「てめえ、それを何で知ってやがる」
伝説の七剣……少し前に、サルタンから同じような話をレイドは聞いた。自分の知らなかった事実に対する驚きもあったが、それ以上に『何故サルタンがその事を知っているのか?』という疑問がレイドにはあった。
『聞いたからさ」
そして今。目の前にいる国王もその事を知っているとなると、考えられるのは_____
『私の優秀な……同志からね」
考えている内に、レイドの視界から国王が消える。
「!! はや_____」
『後ろだよ」
瞬時にレイドの左後方に回り込んだ国王は、脇腹に手刀の一撃を食らわせた。
「ぐっ……!!」
『いくらその剣が堅くとも、使い手が反応できないんじゃあ意味がないな」
レイドは一瞬よろけながらもなんとか持ち堪え、振り向いて攻撃に転じようとする。が、自分より小柄な国王の身体から放たれる手刀の動きを、完全に捉えることが出来ない。
『ほら、どんどんいくよ!」
ましてや、こちらは手錠付き。そのまさかとは言ったものの、『地の剣』でガードするのがやっと。徐々に押され始める。
「くそっ……!!」
息もつかせぬ国王の連続攻撃に、レイドは防戦一方。
手刀一発一発が重く、為す術がない。
『邪魔だね、その剣!」
国王がそのまま剣の柄を蹴り上げると、『地の剣』はスポーンとレイドの手から離脱、宙を舞う。
「しまった……!」
『さて、これでおしまいだ」
丸腰になったレイドへと振り下ろされる、国王の手刀。これが直撃すれば、レイドでもひとたまりもない。が____
「……なんつって!」
しかしレイドは一瞬の判断で手刀を手錠の鎖で受け、なんと鎖を断ち切らせる。
『おっと……」
手錠が壊れ、レイドはニタリと笑う。まるで企みが現実のものとなったかのように。
まさか、剣を弾き飛ばしたのは_____
「____ワザとに決まってんだろ」
一連の攻防全ては、『拘束』を外すため____……そして、それは見事に成功したようだ。
レイドはすかさず手刀を空振りした腕を掴み、逆方向へ背負い投げ。
吹き飛ばされて壁に叩きつけられた国王の数センチ左に、先程弾き飛ばされた『地の剣』が轟音を立てて突き刺さる。
『_____……」
「ありがとよ、手錠外してくれて。確かにお前相手じゃ大きすぎるハンデみてーだ」
レイドはそれぞれの腕をぐるぐる回して、自由になった事を噛みしめる。
国王は一瞬歯をギリっと鳴らして顔を強張らせたかと思うと、またすぐに元の余裕そうな表情に戻して『地の剣』を壁から引き抜き、床に着地した。
『ふうん、これが『伝説の七剣』……扱いづらそうだ」
国王は引き抜いた剣をじっくりと観察し、レイドの元へ放り投げる。
『ほら、剣は返すよ。これで少しはまともに闘えるだろう?」
レイドはその言葉から、国王は____いや、この謎の人物は全く本気を出していないということを読み取る。
「……インヴォルフは元々、両手剣だ。手錠が外れたからって、そんな変わんねーよ」
『そうか。それは残念だ」
先程も少しボヤいていたが、『本当の身体』ではないということは、『ある程度の実力までしか出せない』と考えていいだろう。
しかしそれだけに、レイドはある事を感じ取っていた。
_____こいつ、明らかに俺よりも_____
レイドが黙りこくっている間も、国王はペラペラと言葉を続ける。
『ならば他の剣でかかってくるがいい。持っているんだろう? 伝説の七剣を」
「…………」
『出し惜しみしても無意味だよ。知っているからね、私は」
「……どこまで知ってんだ、てめえは」
ここでようやく、レイドは会話を再開させた。
『ふふ、さあね。知りたいのなら……そうだな、こうしよう。私に一撃でも攻撃を与えられたら、その度にひとつ知りたい事を教えてあげようじゃないか」
国王は口元に手を当てクスクスと笑う。それはまるで、『まあそんな事出来るわけないと思うけど』とでも言いたそうな口ぶりだ。
だがレイドはそれに対し、剣先を国王へ向けて反論する。
「あ! そんなら、さっきの背負い投げ! あん時攻撃しようと思えば出来たぞ、俺! だからひとつ教えろ!」
国王は冷静に言葉を返した。
『……案外、がめついんだね……。まあいいや。いいよ、特別に教えてあげる。その為にはまず……」
そこでチラリと視線を別方向へと向ける。その方向にいたのは、ダルそうに佇むサルタンだった。
『君との関係から語らなければね、魔王サルタン」
国王は不気味な笑みを浮かべる。するとサルタンもまた、神妙な面持ちで言葉を発するのだった。
「……やはり貴様じゃったか……アドネー」




