58. 遭遇
12話でハイガーがちょろっと言っていた話を、ここに来てようやく回収。
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とある話をしよう。
人間界で起こる、『不可解な事件』の話だ。
人間界では、理解しがたい『不可解な事件』が起こっていた。
それが一番最初に起こったのは、3年前のことだ。
ある親子が公園に遊びに行った時のことだ。
母親と、5歳くらいの男の子。男の子は広い公園をはしゃいで駆け回り、母親はその楽しそうな姿を眺めていた。
だがしかし、母親が一瞬目を離した瞬間、男の子はその場から跡形もなく消え去っていたのだ。
直ちに捜索が開始されたが、3日経っても1週間経っても一向に見つからない。やがて諦めかけたその時だった。
捜索から30日_____男の子は無事、見つかった。
まるで友達の家に遊びに行き、帰って来たかのように「ただいま」と玄関の扉を開けて。
どこに行っていたのか、どこから帰って来たのかもわからず_____
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「国王様……? 一体どうされたのですか、他の兵士たちは……?」
開いた城門の先を見て、ハイガーは戸惑う。そこには普段こんな所で見かけるはずのない、プロスパレス国王がいたからだ。
国王は横一列に並んでいるハイガーたちに対し、確認するように右から左へと視線を送ると、白いヒゲに隠れた口を動かした。
「ふむ。ハイガー、アルフよ。どうやら勇者を連れ戻すことに成功したようじゃな」
そして今一度、サルタンに視線を向けて続ける。
「その者は……?」
サルタンは隠す素振りもなく、さっくりと名乗った。
「儂ゃ大魔王。大魔王サルタンじゃ」
すかさずハイガーはサルタンを咎める。
「貴様! 国王様に無礼な口を……」
だが、国王はハイガーを手で制した。
「いや、よい」
「こ、国王様……!? しかし、この者は……」
国王とサルタンを交互に見やるハイガーをよそに、国王はくるりと振り返り城の中へと引き返していく。
「……立ち話もなんじゃ。ついてくるがよい、皆の者」
そうして、国王はレイドたちを城へと迎え入れた。
誰もいない、薄暗い城の廊下をレイドたちは黙々と進んでいく。
「……どうなってんだ? お前や大魔王を見ても、国王様顔色一つ変えないなんて」
アルフが耐えかねて、レイドに話を振る。
「ああ。やっぱり……俺やお前の思ったとおりかも知れないな……」
「国王様……」
ハイガーも何かしらの話を聞いているのだろう。神妙な面持ちで、前を行く国王の背に視線を向けていた。
「さて。ここで良いじゃろう」
国王がそう言い、立ち止まる。
到着したのは場内の『玉座の間』。誰も人がいない、この部屋を見るのはハイガーもアルフも……もちろん国王も初めてだった。
国王は玉座には座らず、レイドたちと同じ部屋の中心に集まり口を開いた。
「まずはご苦労であった。勇者たちも、ここまで足を運んでくれたこと、感謝するぞ」
その言葉に、レイドは違和感を覚える。
「感謝? どういうことだ。俺はお前たちに疎まれる事はあっても、感謝される覚えなんかねえぞ。大魔王なんかは特にな」
確かに、現在レイドとサルタンはその手に手錠をかけている。それも全て、自分たちが捕まっており、敵意がないことを示すためだ。
「……ああ。そうじゃな」
国王が頷いてから、レイドは続ける。
「……国王。まず初めに言っておくが、俺がここに来たのはただ捕まりに来たからじゃねえ。聞きたいことがあったからだ」
「……勇者!」
再びハイガーが口調を荒くするが、国王は俯いたまま首を横に振った。
「よい、ハイガー。……勇者よ、私に何を聞きたいと申すか?」
国王は顔をレイドに向ける。
「…………。いくつかある。まず、この城に兵士がいないのは何故だ?」
「……分からぬ」
「分からぬ……って、んなこたないでしょ、国王様。あんたずっとこの城にいたんでしょ?」
アルフが一歩前に出て問う。それに対し国王は頭を両手で押さえて、唸るように声を振り絞った。
「本当に分からぬのじゃ……。突然、城中の全ての者が消えてしまったのじゃ……!」
その返答にすぐにピンときたのは、アルフとハイガーだ。
「消えた、って……」
「まさか……例の『不可解な事件』ですか……!?」
レイドも深刻な表情で何かを考えている。
ただ、この場で1人、キョトンとした顔で話を聞いている人物がいた。
「不可解な事件? なんじゃ、それは」
そう、サルタンは人間界の事情を知らない。呆けた表情の彼に、アルフは簡潔に答えた。
「人間界で起こってる事件さ。ある日突然、神隠しにでもあったみたいに人間が消えちまうんだ。もっとも、数日したら何事もなかったかのように戻ってくるんだけどな」
「ほう、そんな事件が……。ふむ、そりゃ確かに不可解じゃのう」
ここで話は戻り、国王が口を開く。
「城の者たちが消えたのは、今日の朝じゃ。儂が眠りから目を覚ました時にはもう、すでに誰もおらんかった」
「……と、いうことは……まさか、国王様……」
ハイガーが顔を強張らせ、一筋の汗を頬に垂らす。それと同時にアルフの調子も一変し、ハイガーと国王に向けて声を荒げた。
「だぁーから! 言ったろ、国王様にもハイガーさんにも! レイドは何にも悪くないってこと!」
「アルフ……」
レイドはじっと、アルフを見やる。そして再び、話についていけていないサルタンが質問をした。
「ふうむ。今度は一体、どういうことじゃ?」
これにもまたアルフが答える。
「……レイドはここ3年間、人間たちに蔑まれていた。それも全て、『不可解な事件』がレイドの手によって起されているという疑いをかけられていたからだ」
続けて、申し訳なさそうに国王は話を繋げる。
「実際、勇者が魔界に行ってから『不可解な事件』はぱったりと止んだ。じゃが……今日の朝になって、『不可解な事件』は再び表に姿を現しおったのじゃ」
視線を合わせられないのか、俯く国王。アルフはハイガーへと詰め寄る。
「なぁ、ハイガーさん。今日の朝、レイドがどこにいて何をしていたのか、わかるよな?」
「……く……!」
「レイドは犯人じゃないって、そう言えるよな!?」
アルフの必死の供述。
レイドは今朝、魔界にいた。とても人間界の王宮の人間を消すことなどできるはずがない。
「……認めよう。確かに勇者……貴様に今回の犯行が出来るとは思えん……」
ハイガーは声を振り絞り、そう答える。しかしアルフは感情に身を任せているのか、止まらない。
「今回どころじゃねぇ、全部そうだっての! だいたい……」
「もういい、アルフ。俺の疑いが少しでも晴れたんなら、それで」
だが、当のレイドの言葉を聞いて、少し冷静さを取り戻した。
「レイド……」
自分の右肩に置かれた手を見たあと、レイドの顔を見るアルフ。その顔は城の暗がりでよく確認できないが、どこか嬉しそうに見えた。
「それで、国王。さっきの『感謝』するっつったのはつまり、俺に『不可解な事件』の謎を暴いて欲しいから、って事か?」
レイドは続けて、国王に話を振る。
「……うむ」
だが、コクリと頷く国王を見た途端、
「…………っ」
レイドは小さく舌打ちをして態度を変えた。
「よくもまあそんな事を言えたもんだな」
突然のレイドの変貌に国王は困惑する。
「……な、なんの話じゃ?」
「考えても見ろよ。城にいた奴らは全員、今朝になって姿を消した。けどよ、なんでアンタだけは消えずにここにいるんだ?」
途端、国王は血の気の引いた顔色になり、一歩後ずさりをした。
「……あ……」
「国王様……」
ハイガーの呟き。だが今のは、国王を真に心配して出た呟きではない。
彼自身、知りたいのだ。ここ数年人間界に騒ぎを起こしている人物が……誰なのかを。
「…………」
「…………」
サルタンもアルフも黙りながら、そこにいる国王に視線を向けている。ただ1人、レイドだけが国王に向かって核心の言葉を放った。
「今この場にいる俺たちからしたら、城の奴らを消す事が出来たのはアンタしかいない。そうだろ?」
この場の誰もが思っていた事実……それを突きつけられた国王は、当然ながら声を荒げた。
「ち、違う……! 私は何もしておらんぞ! 何も知らん!」
手をブンブン振り、国王は顔から汗をじわりと出す。
まるで自分と事件は無関係というようなその反応に、アルフもカチンときたのか言葉を発する。
「おいおい、この期に及んでまだシラを……」
「アルフ」
だがレイドは、アルフの言葉を途切れさせ、手で制す。
「レイド……?」
疑問を浮かべるアルフを横目に、レイドはゆっくりと国王へと歩を進めていく。
「いい加減、姿を現したらどうだ……? こっちは全部、お見通しなんだよ……!」
歩きながら、徐々に言葉に圧をかけていくレイド。そして、うろたえる国王の前で立ち止まったかと思うと_____
「へ……? 一体なんのこと……」
___その顔面に、左足で鋭い蹴りをかました。
「じゃがぶっっ!!」
蹴りをモロに受けた国王は衝撃で吹っ飛び、後方の玉座まで一直線に突撃。鈍い音を周囲に散らせ、部屋内が一瞬振動で揺れた。
「こ、こく……!!」
「レイド……!? お前……!」
「ふはは、良い蹴りじゃ」
当然これにはハイガーもアルフも驚きである。……サルタンは笑っているが。
「どうだ? これでもまだ正体を現さない気か?」
レイドは、玉座にすっぽりはまった国王へ向かって再び歩いていく。
「…………」
だが、国王は無反応。気絶でもしているのかピクリとも動かない。
「勇者、貴様! 国王様になんて事を……!!」
見かねたハイガーが怒鳴り上げようとしたその時だった。
どこからか、声が聞こえだした。
『……ふふ、やはりこうも露骨だと流石に怪しいか……」
それは、聞いたこともない謎の声。
しかしその声は確かに____……玉座の、国王から聞こえていた。
「_____! 国王様! ご無事ですか!?」
ハイガーはその声を聞き、国王の元へと駆け寄る。彼もその声の違和感には気づいてはいたが____それよりも先に国王の身を案じて、足が動いていたのだ。
当の国王は玉座に座り直し、肘掛けに腕を置いて頬杖をつく。顔は蹴りによって汚れてはいるものの、そこからは先ほどのうろたえた様子はどこにもなく_____それどころか妙な余裕さえ感じられる。
そして駆け寄ってくるハイガーを一瞥し、凍りつくような眼差しで言い放った。
『……うるさい」
「……っ!?」
その言葉と共にハイガーは『何か』によって吹き飛ばされ、床に打ち付けられる。
「ごぁっ!?」
「ハイガーさん!」
ハイガーの身を心配したアルフが叫ぶ。
「く……」
見えない何かに吹き飛ばされたハイガーだが、外傷はなく無事なようだ。
国王はそんなハイガーたちなどものともせず、座ったままレイドを見据える。
『……しかし私の存在にまで気づいていたとは、少しだけ驚いたよ。何故わかった?」
「なんとなくな。……で、お前は一体何者だ? 国王を操って『不可解な事件』まで起こして、その目的はなんだ?」
レイドの言葉に、ハイガーは驚愕した。
「な、に……国王様が、操られて……!?」
これまで国王を、信頼していた彼からしたらショックだろう。自分の信じてきたものが、今世間を騒がせている犯人に操られていたのだから。
『……ふふ、目的か。それが先ほど言っていた『聞きたいこと』か?」
ハイガーの反応にも構わず、国王の身体を乗っ取った何者かは続ける。
「まあな。他にもいろいろあるが……」
レイドはその気迫に臆することなく、手錠をかけたまま構えを取ると、
「取り敢えず……知ってる事、企んでる事。全部話してもらうぜ。力尽くでもな」
何者かと闘う意志を見せ、ニヤリと笑った。




