57. 暗躍の始まり
王都『プロスパレス』。
そこは、人間界で一番賑わう場所。
今日も今日とて人通りの盛んなこの都で、見るもの全てに興味を振りまく少年がいた。
「わぁぁ……!! すごい、すごーい! リリ、みて! 雲が売ってる!」
魔界では滅多に見られない品物の数々に、ベゼルは目をキラキラさせて大はしゃぎだ。
「あれは『わたがし』ですよ、ベル様。あと私はエリスですよ」
そのはしゃぎっぷりは、隣にいるのがリリではなくエリスだという事にも気づかない様子である。
そんな中リリはというと、ベゼルたちの後方で1人、黄昏れていた。
「全く……レイドさん達は一体何をしているのやら……」
というのも、言葉の通り。現在リリたちとレイドたちは別行動をしているのだ。
なぜかと言うと、それは今から約1時間前に遡る_____……。
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「よーし、これで準備完了だ」
「な、何故手錠を……? それにサル様まで……」
人間界に着くや否や、自身の両手に頑丈そうな手錠を巻くレイドとサルタン。
「前に言っただろ、俺は人間から忌み嫌われてるって。それに今は、魔界に寝返ったって事になってるらしいからな。王都に入るなら手錠くらいしとかねーと」
鎖の頑丈さを確かめるように伸ばしながら、レイドは続ける。
「ついでに大魔王も捕まえましたーって事にして、王宮の中に入れてもらう作戦だ」
「ふはは! 手錠なんぞ初めてしたのう!」
サルタンも笑いながら手錠をがちゃがちゃするが、手錠はビクともしない。
「だ、大丈夫なんですか? それで王宮に入って……」
心配するリリに、レイドは能天気に答える。
「まあ大丈夫だろ。……つーわけでここからは別行動だ。俺とアルフと大魔王とハイガーは王宮へ行く。その間、リリたちは好きに王都を見物しててくれ。くれぐれも悪魔だってことバレないようにな」
そう言って、レイドたち一行は王宮へと向かっていくのだった……。
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「もう……ウル太郎さんはウル太郎さんで何処かへ行ってしまいますし……」
ウル太郎はおそらく闘技場に向かったのだろう。という事で、今この場にいるのはリリ、ベゼル、エリスの3人。
着いて早々のこの事態に、リリは少し頭を痛めているようだった。
「リリー、今度はあっち行ってみよーよー!」
しかし、そんな事など露知らず、ベゼルはリリに向かって満面の笑みを浮かべる。それを見たリリは、1人だけ事を難しく考えていたのがバカバカしくなったのか、
「……まあ、この際いいでしょう。私も久し振りの人間界を楽しむとしましょうか」
そう言い残してベゼルの元へ歩いて行った。
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「ほぉ……相変わらずだだっ広い所じゃのう、懐かしいわい」
王宮、城門前。
王宮を囲む円形の城壁を見ながら、サルタンは感心して声を漏らしていた。
「フン……妙な気は起こすなよ、大魔王」
しかし、ハイガーは相変わらずサルタンを信用していない様子。素直に手錠を付けたとはいえ、その敵意は健在だ。
「わかっとるわい。それよりも、儂も王都を見て回りたかったのじゃがのう」
サルタンは顎をしゃくれさせ、ため息を漏らす。だが、それも今は叶わない。
「どちらにせよ貴様はもう、この王宮から出られはせん。ご丁寧に手錠まで付けて、『大魔王』という身分も隠さずにいるのだからな」
ハイガーが城門を睨みつけたまま吐き捨てると、サルタンは笑った。
「……ふはは、そうじゃな」
何が意図があるのか、それとも強がりなのか、この笑いの意味をハイガーは特に考えもしていなかった。
「それよりもさー。城門、開かねーんだけど。どうなってんの?」
城門の前に立って5分くらい経っただろうか。しびれを切らしたアルフが疑問を投げかける。
「……妙だな。見張りの兵士が一人もいないとは。バカ者共め、一体どこで油を……」
どうやら、いつもなら城門の前に兵士がいて門を開けてくれるらしい。だが、肝心の兵士がいないというのだ。
それどころか、王都の賑わいに対して、やけに王宮周辺が静かなのである。まるで、人が1人もいないかのように……。
しかしそんな疑問を感じながらも、ついに城門が開きだした。
「! 扉が開いたぞ」
レイドがいち早くそれに反応する。ひとりでに開く所を見ると、内側から誰かが開けているのだろう。こんな事自体、ハイガーやアルフにとって一度もなかったのだが……。
そして開かれた門から現れたその人物は、レイドたち一行にとって、意外すぎる人物であった。
「ハイガー、ご苦労であったな」
現れたのは、プロスパレスの国王その人。
「こ、国王様……!?」
ハイガーが驚きの声を漏らす。
国王の側には、お付きの者も誰一人としていない。
今王宮で何が起こっているのか_____。
全ては、ここから明らかになる。




