32. いざ決闘……?
「間違いない! これは伝説の剣……『ゼットカリバー』!!」
ベゼルの手にある小さな剣を見て、レイドは汗を垂らして叫ぶ。
失われた聖剣_____『ゼットカリバー』。
破邪の力により、悪しき存在を斬り滅ぼす剣。
レイドが何故そんな大層な剣を一度手放していたのかはさておき、彼にとって願ってもないほどの事態であった。
「ベゼル、お前、コレをどこで……!?」
「えっとね、リリが僕にくれたんだよ!」
そう言ってベゼルはリリの方を向き、「ねっ!」と笑顔で首を傾げる。
「え!? ええ、はい!」
リリは驚きで思考が停止しているのか、ベゼルの言葉にもただこくこくと頷くばかり。それを見て不審に思ったウル太郎が、リリに問いただす。
「リリさん、どうしたんすか? 顔真っ青ですよ。あの剣に何かあるんですか?」
「い、いえ実は、あの剣……。私が適当に拾ってきたもので、伝説の剣なんかではないと思ってたんですよ……」
ウル太郎は片眉を上げる。
「あれって確か、昔ベル様の誕生日にあげたやつですよね? ……ていうことは、もしかして偽物と知っててベル様に渡したって事ですか?」
そこでリリは少し慌てて、
「だっ、だって本物なんて見つかりっこないって思ってたんですから……! でも……」
リリは少し落ち着きを取り戻したのか、声のトーンを下げ、ベゼルの剣を今一度見る。
「……あれが本当に、伝説の剣なのだとしたら……」
「ええ……」
リリとウル太郎は険しい顔をして、ごくりと唾を飲み込む。
しかしやはり、次に彼女たちの口からは、この言葉が出るのだった。
「……なんというか、ショボい、ですね……」
「ええ……」
その伝説の剣の迫力の無さ。
刀身の小ささ、飾り気の無さ。
どれを取っても一級品のようだ。……勿論、悪い意味で、だが。
そんなリリたちの反応とは正反対に、レイドは剣の出現を喜ぶ。
「なんかよくわかんねぇが……とにかくでかした! これさえあれば……」
「うん! がんばって勇者!」
ベゼルが差し出したその剣を、レイドが両手で受け取る。
すると剣は、鼓動を打つように一瞬歪んだかと思うと、次の瞬間にはレイドの丈に見合う立派な光剣へと変貌を遂げた。
「わぁ……!!」
その美しい光景を間近で見ていたベゼルは勿論、
「す、すっげぇ! リリさん今の! 見ましたか!?」
「え、ええ。レイドさんが持った途端、剣が大きく……。それに鞘に納まっているにも関わらず、なんて輝き……」
リリとウル太郎も驚いていた。
どうやら『ゼットカリバー』は、選ばれし者_____即ちレイドにしか扱えず、レイド以外の者が持つと短剣に変化してしまうようだ。
「3年ぶりだな……この剣で闘うのは……」
腰を据え、剣を抜く構えをとるレイド。
緊張の一瞬。
部屋全体が静寂で満ちる。
そしてついに、その鞘から剣が引き抜かれる______
「はああああ……! ……ん?」
引き抜かれる______
「ん? あれ、おかしいな……!」
引き抜かれる______……?
「あれ!? 何だコレ、抜けねぇぞ!?」
引き抜かれず……レイドは全く予期せぬ事態に、剣とガチャガチャ戯れていた。
するとリリが思い出したようにつぶやく。
「あぁ、そういえば。ベル様のおもちゃとしては鞘が取れたら危ないので、特製の接着剤で鞘と刀身をくっつけちゃいましたよ」
……………………
「なにぃーーーーーーッ!!?」
レイドがここ最近一番の驚愕の声を上げる。ゼットカリバーを見つけた時のそれよりも遥かに驚いているのは、内緒の話。
「ふははははは!」
唐突に笑い出す大魔王。それを尻目にレイドはリリを指差して文句を垂れる。
「おまえっ……! なんて事してくれたんだよー! これじゃ唯のナマクラじゃねーか!!」
「そんな事言ったって……おもちゃの剣だと思ったんですから、しょうがないじゃないですかー!」
「ふははははは!」
「えっ……リリ、あの剣、おもちゃだったの……?」
「あ! いえ、違います、ベル様! 物の例えで……」
「早いとこコレ取ってくれよ! 俺の力でも取れねぇ!」
「ふははははは!」
「そんなの無理ですよ! ベル様の物に乱暴しないでください!」
「ふははははは!」
「いや、元は俺のだろーが! 堂々と泥棒しといて何言ってんだ!」
「ふははははは!」
「ふははははは!」
「ふははははは!」
ここでレイドの血管がすこし浮き出る。
「さっきからうるせぇな! なんで笑ってんだよ!」
レイドの怒号で大魔王の笑いは徐々に止まっていく。
「ふはは、すまん。癖だ」
「癖なの!? なんなんだよ、お前ら……」
ふと言葉を止め、レイドは気がつく。大魔王たち悪魔のペースにいつの間にか乗せられているということに。
「…………」
そして思わず沈黙する。ゼットカリバーが使えない今、どうするべきかを考えながら。
「どうした? 勇者よ。その抜けぬ剣でワシに挑むか?」
大魔王がレイドの頭を見透かすように問いかける。
「…………!」
その言葉にレイドは動揺こそするが、決して顔には出さず大魔王を見据えた。
レイドに残された選択肢は2つ。
1つは、このまま大魔王と闘う事。
しかしこれは得策ではないだろう。
大魔王の実力は未知。両者ともに本気で闘えば、おそらく魔王城が崩壊してしまう。レイドは先程大魔王と手合わせした時、それを感じた。
ならば、残された道は只一つ。
「……いや、今は止めておく。ゼットカリバーもこんな調子じゃあな」
「ふはは、そうか。それも良いだろう」
両者は、取り敢えずの一時休戦をする。だが……
「だが忘れるなよ。俺がこの城にいる限り、いつでもお前の首を狙えるんだからな」
振り向きざまにそう吐き捨てるレイドに、大魔王はまたも笑う。
「ふははは、そうか。楽しみにしているぞ」
大魔王に背を向け、玉座の間の出入口へと向かう。その途中で、
「リリ。あとで話があるんだが、いいか?」
「え? ええ。大丈夫ですけど……」
リリを呼びつけると、そのまま玉座の間を後にしていった。
「なんすかね、勇者の奴。リリさんに告白でもするんすかね」
ウル太郎がリリを茶化す。
「そっ! そんな訳ありませんよ! 恐らくあの剣についてでしょう……。あぁ、やっぱり断れば良かった……」
リリが気を落とし、出てもいない涙をハンカチで拭う。するとベゼルが、心配そうな声でリリを見上げた。
「リリ……。あの剣って、勇者から泥棒してきたものなの?」
「あ……ベル様……。えと、その……」
ベゼルの潤んだ瞳。さすがのリリも、その瞳の前には嘘をつけない様子だ。
「……申し訳ありません。泥棒というか、その……。道端に落ちていた剣を拾ってきたのです。まさか本物の伝説の剣だとは思わず……」
これでベゼルに真実が伝わってしまう。
そうなるときっと、泣き出してしまうだろう。
リリはそんな事を思っていた。が……
「ごめんね、リリ! 僕が無茶な事を言ったばっかりに……」
「え……?」
普段このような状況になった時、まず初めに泣き出してしまうベゼル。しかし今回は泣き出さずに謝ってきた事に、リリは目を丸くした。
「僕、勇者に謝ってくる! 剣もちゃんと直さないと!」
そう言ってレイドのもとへ向かおうとする。だが、
「待つのじゃ、ベゼル!」
大魔王の言葉に、ベゼルは足を止めた。振り返れば大魔王が玉座から立ち、その巨体を動かしてベゼルの目の前まで歩いてくる。
「どうしたの、パパ?」
「勇者にはワシから謝っておこう。お前は待っておれ」
そのまましゃがみ、目の前の小さな息子の頭を撫でる。
「いつもはすぐ泣きべそをかいていたお前が……。少し成長したのだな、ベゼルよ」
頭をゆさゆさ揺らされ、3年振りに感じる父の温もり。その暖かさと褒められた事に、自然と顔もにやける。
「……えへへ」
大魔王も少し微笑み、また立ち上がる。玉座の間の出入口で立ち止まると、
「……お主達には苦労をかけるな。これからもよろしく頼むぞ」
背を向けたまま、リリたちにそう言葉をかけた。
「はい! お任せください、サル様!」
「まぁ、メンドクセーですけど頑張りますよ」
彼女たちの言葉を背で受け、大魔王も玉座の間を後にするのだった。
ここまで読んでくださった方、ブックマークや評価をしてくださった方。
ありがとうございます! もう、本当に! ありがとうございます!
もし良ければ、感想等も書いて頂けると嬉しいです。
正座しながらお待ちしています。




