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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【魔王生誕祭編】
23/122

13.5 人間界にて②【番外編】

この小説では、僕が読めない漢字にルビを振ってあります。よってルビが振ってあるのを見るたびに僕をバカにするといいさ畜生!

「国王様ー。ハイガーさん連れてきましたー」

 玉座の間の扉を行儀悪く足で開け、堂々と入るアルフ。

「アルフ!? お主が何故ここにいる!」

 国王が慌てて口を開く。周囲の兵士や大臣は、突然の事態に顔を見合わせた。

「いや、国王様がハイガーさん連れて来いって言うから連れてきたんですよ。この人、今怪我しててロクに動けないみたいですから」

 アルフはそう言ってハイガーをそっと降ろす。すると国王が、何やら落ち着かない様子でアルフに言った。

「おぉ、そうか。ご苦労だったな、もう下がってよいぞ」

 しかしアルフは、国王の面前であるというのにもかかわらず、その場にどっしりと胡座(あぐら)をかいた。

「あーよっこいせ。……いやー、ハイガーさんここまで連れてきて疲れちゃいましたよ。暫くここに居させてもらえませんか?」

 そこで、さすがに大臣からやんわりお叱りの言葉を受ける。

「あ、あのアルフ殿。国王様の前でその様な座り方は……」

「おっと申し訳ないです、よっこいせ」

 アルフは胡座から正座に姿勢を変え、居座る意思を確固たるものにした。

 アルフがハイガー以上に頑固な性格である事は周知の事実である。その為、国王もそうそうに折れ、アルフに命じた。

「……そうか……良い、そこに座っておれ……」

「ありがとうございまーす!」

 アルフは両手をハの字のように地につかせ、深々と頭を下げた。


「……して、ハイガーも座るがよい」

「はっ」

 ハイガーはよろよろしながらも片膝をつき、毅然(きぜん)とした態度で国王を見上げる。やがて、国王が要件を切り出した。

「お主をここへ呼んだのは他でもない、勇者についての事だ。知っての通り、お主が勇者と剣を交えてから、勇者の消息が不明となった。……一体、何が起こったのだ?」

 国王の言葉に対してハイガーは少し視線を落とし、歯を食いしばりながら答えた。

「国王様……この度は、勇者めを取り逃がしてしまい、誠に申し訳ございません……!」

 その言葉に、国王だけでなくその場にいた全員が驚きの顔を見せた。辺りがざわつき、騒がしくなる。

「皆のもの、静かにしないか! 国王様の御前(おんまえ)であるぞ!」

 その場を収めるようにそう言ったのは、大臣……ではなく、アルフだった。そのまま、場の空気を読まずヘラヘラ笑いながら大臣に声をかける。

「どう? 大臣のモノマネで言ってみたんだけど、似てた?」

 当の大臣は苦笑いだ。

「貴様……ふざけているのなら、本当に帰れ……!」

 ハイガーが若干怒りながら言う。

「あはは、ゴメンハイガーさん。で、レイドは何処へ行ったの?」

 さらっと話を戻すアルフ。彼のマイペースさについてこられる者は、この玉座の間にはいなかった。

「……ぬ……」

 そこで口を閉ざすハイガーを、国王は急かす。

「どうした、ハイガー。勇者は何処へ行ったのだ?」

 国王の前で嘘をつくワケにもいかない____ハイガーは覚悟を決め、真実を口にした。

「……勇者は、魔界へと……向かって行きました……」

「なぬ、まか(ry

「魔界だって!? マジかよ、ハイガーさん!」

 国王の言葉に被り気味にアルフが叫ぶ。どうやら、その答えは予想していなかったようだ。

「何だってレイドが魔界に行っちまったってんだよ!」

 アルフは正座を崩し、ハイガーに一歩詰め寄る。ハイガーは怒りに満ちた顔で答えた。

「ヤツは……魔物と結託し魔界に寝返ったのだ! それも全て、この人間界を滅ぼす為に……!」

 室内に衝撃が走る。兵士たちがざわつき、口々に叫んだ。

「人間界を滅ぼすって、やべぇよ!」

「でもあの勇者ならやりかねないよ! 魔王を倒したんだから!」

「今人間界で起こってる不可解な事件も全部アイツの仕業なんだろ!? はやく何とかしないと……」

 不安の声が飛び交い、大騒ぎになったその時だった。

「______うるっさいぞ、お前ら!! 静かにしろ!!」

 大勢の騒ぎ声に負けないくらい、鋭く通ったその声。それはついさっきまでヘラヘラ笑っていたアルフの物だった。そのあまりの迫力に、一瞬で静まり返る室内。アルフは立ち上がり、声の大きさを控えめにして続けた。

「レイドはそんな事絶対にしない。今起こっている不可解な事件も、レイドのせいじゃない。魔王を倒して世界を平和に導いた男だぞ。……忘れたのか」

 アルフの言葉に反論する者はいなかった。何故なら、その後でこう付け加えたからだ。

「次ふざけた事を言ったヤツ、殴るからな。顔面が八角形になるまで」

 ズーンと重苦しい空気が漂い、室内は沈黙に包まれる。アルフがその場にいる事の圧迫感は相当なものだった。

「んで、国王様。これからどうするんだ?」

 そんな空気の中、最初に口を開いたのは勿論アルフ。国王に対する無礼なタメ口を、最早大臣は見て見ぬふりをしていた。

「……ふむ、勇者には何としてでも人間界に帰って来て欲しい所だ。いや人間界が滅ぶとかそういうの一切関係なく」

 後半部分を強調する国王。アルフもそれに頷いた。

「そうだよな。じゃあ誰かが魔界に行ってレイドを連れ帰って来なけりゃならないワケだが……」

「! その任務、私に任せては貰えませぬか!?」

 突如立ち上がり、国王に申し出るハイガー。しかし立ち上がった激痛でバランスを崩した。

「……ぬ、くそ……!」

「大丈夫か、ハイガーさん」

 ハイガーの肩を支えるアルフ。見たとおり、大怪我の彼にはとてもじゃないが出来る仕事ではなかった。

「ハイガーさんはまず、傷を治さなきゃ……」

 さすがのアルフも心配するが、それでもハイガーは引かなかった。

「……頼む、行かせてくれ……! 勇者に、もう一度闘いを……!」

 ハイガーの必死な姿を見た国王が、目をつぶって呟く。

「……魔界へ行く為の石、『異界の結晶』は、今この国には存在しない。今から創り上げるには、およそひと月はかかるだろう」

 国王は目を開け、ハイガーに提案をした。

「ハイガーよ。お主がもしそれまでに傷を完治させる事が出来たなら、その時は魔界へ行く命を与える。それで良いか?」

 国王の言葉を聞き、ハイガーに喜びの感情が沸き立つ。が、それよりも疑問に思った事があった。

「…………お咎めは、無いのですか……?私が勇者を取り逃がした事による、お咎めは……」

「ふむ、お咎めか……それならば……」

 国王は玉座から立ち上がり、右手に持った杖をハイガーに向けた。

「ハイガーよ。お主にはこれよりひと月の間、親衛隊の訓練の指導及び参加を禁ずる!」

 杖を下げ、国王は微笑んだ。

「……暫くは傷を癒す事に専念しなさい。再び勇者と、万全の状態で闘えるようにな。……今日は呼び出して済まなかったな」

「国王様……!」

 国王のお心遣いに、ハイガーは思わず目頭が熱くなる。ハイガーだけではない。兵士たちや大臣もだった。

「良かったな、ハイガーさん。じゃあ宿舎まで戻ろうか」

 そんなハイガーたちの感動などお構いなしに、アルフはヒョイっとハイガーを持ち上げた。

「おい、貴様! 空気を読まんか、そしてこの運び方はやめろ!」

 ハイガーの言葉に聞く耳持たず、アルフは扉に向けて歩き出す。途中で振り返り、国王に挨拶した。

「国王様、ありがとうございました! 魔界へは俺も行くんで、その時は宜しくお願いします!」

 その言葉に一番反応したのはハイガー。

「何だと!? 貴様も来るのか、聞いてないぞ!」

「はいはい、あんまり動くと骨が折れて死んじゃいますわよー」

「話を聞けぇーーーっ!!」

 アルフはそのまま扉に向き直り、玉座の間を後にした……。ちなみに国王たちは、それから1分間の間某然としてたという……。



「おいっ、どういうつもりだ、アルフ! 魔界へ行くのは、私1人で充分だ!」

 城の通路をツカツカ歩くアルフと、担がれるハイガー。はたから見れば、それは奇妙な光景だった。

「なぁ、ハイガーさん。レイドが魔界へ行く時、何か言い残していかなかったか?」

 アルフは相変わらずマイペースでハイガーに質問する。しかしハイガーには思い当たる節があったようで、ヒゲを触りながら答えた。

「言い残した事……? そういえば、お前たちに宜しくと言っていたな」

 それを聞いて笑みを浮かべるアルフ。

「……ふーん、そう。あのヤロー、ふざけやがって……」

 アルフは次第に声を大きくした。

「待ってろよ、レイド。ぜってー魔界に行って事情を聞き出してやるからな!」




________


 アルフたちが玉座の間を後にしてから暫くした後、何処かの場所にて。

 誰かも分からない何者かが、1人で何かを呟いた。

『ハイガーだけでなく、アルフも魔界へ行くのか……」

『レイドが魔界へ行った時はどうしようかと思ったけど、結果オーライみたいだ」

『早く、何としてでもレイドを人間界に連れ戻さないと。レイドは人間界に居なきゃダメなんだ……」


_________



 魔界を目指すアルフたち。

 影で動き出す『何か』。その正体が分かるのは、まだ先のお話______

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