その四
フロントから部屋の鍵らしきものを受け取ると、篤志と男性は、二人揃ってエレベーターへと乗り込んでいった。
さすがにホテルの部屋までは尾行できない美紀は、ホテルのロビーで二人が出て来るのを待つことにした。
篤志は外泊をしないという、報告書を信用してのものだった。
ホテルのロビーには、様々な人が行き交っていた。
客を待っているのだろうか、煙草をふかしながらカクテルを飲んでいるホステス風の女、仕事の商談をしているらしきスーツ姿の男性組、カフェを楽しんでいる観光客らしき外人のグループ。
女一人でロビーにいても然程の違和感もなくいることが出来た。
それからちょうど二時間後、篤志と一緒だった男性が一人、エレベータホールに姿を現した。
どうやらひとりきりらしい。男性はロビーを抜けて出口へと進んでいく。
美紀は、一瞬どうしようかと迷った。
篤志はまだホテルの部屋にいると思われる。
この男性を尾行するか、篤志を尾行するかどちらかを選択しなければならない。
迷った挙句、美紀は男性を尾行することに決めた。
この男性の素性が分かれば、篤志と部屋で何をしていたのかも分かると踏んだからだ。
美紀は急いで男性の後を追いかけた。
男性は真っ直ぐに品川駅に向かうようだった。
そして、品川駅から電車に乗り、新宿駅で降りた。
美紀は男性を見失わないように、注意深く尾行した。
男性は新宿駅で降りた後、新宿二丁目方面に向かっていった。
もしかして、この男性って…。
美紀の頭にある考えが浮かんでいた。
美紀の予感通り、男性は新宿二丁目にあるビルの中へと消えていった。
そこは男性の出張サービスを行う店だった。
この男性は男娼、すなわち売り専だったのだ。
まさか、篤志の浮気相手が男性だったなんて…。
しかも男娼が相手なんて…。
美紀は思わず絶句してしまった。
美紀は手にしていたカメラで店の写真を撮ると、その場を後にした。
事務所に戻り秀雄に報告しなければならない。
美紀は多少の混乱の中、事務所へと戻った。