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その三

それからさらに一時間くらいが経過した頃、篤志と思しき人物がビルの出入り口から出て来るのを見つけた。

辺りはまだ明るさが残っており、時間もかなり早い。

とても残業を終えた時間とは思えなかった。

篤志は足早に駅の方へと向かって行った。

美紀は帽子を被り直し、メガネを指でクッと上げて、篤志を見失わないように、篤志の尾行を開始した。


篤志はどこに行くのだろうか。

まさか真っ直ぐに帰宅するわけではないだろう。

足取りはどことなく軽やかのような気もするし。

美紀は尾行をしながらそんなことを考えていた。


篤志は新橋から電車に乗って、家とは反対の方向の品川方面の電車に乗った。

やはり何かありそうだ。

美紀は電車に乗りながら、篤志を注視していた。


篤志が向かった先は、品川にある有名ホテルだった。

篤志はホテルに着くと、真っ直ぐに一階にあるロビーに入り、コーヒーを注文した。

美紀も篤志が見える位置に座り、同じくコーヒーを注文した。

珈琲代、経費で落ちるかしら?

懐が寂しい美紀は篤志よりも珈琲代の方が気になっていた。


どうやら篤志は、ここで待ち合わせをしているらしい。

席についても落ち着きなく、辺りをきょろきょろと見渡している。

美紀はコーヒーを啜りながら、篤志の行動を観察していた。


篤志の服装は、仕事着と思える上下のスーツで一般的なものだ。

仕事用の鞄以外は荷物らしきものもない。

髪の毛は逸りの無造作ヘアで、営業にはちょっとなあ、という感じだが、実際の年よりはかなり若く見える。


ホテルで待ち合わせをしているなんて、やはり浮気なのだろうか。

美紀は思いを巡らせながら、篤志を観察していた。


すると、一人の男性が篤志の近くにやって来た。

二十歳くらいだろうか。

明らかに今どきの青年といった風貌だ。

篤志は男性が近寄ると立ち上がり、顔には満面の笑みが毀れている。

この青年が待ち合わせの相手だったらしい。

二人は二、三言葉を交わすとすぐにロビーを後にしようとした。


美紀は、持っていた隠しカメラで二人のことを激写した。

カメラは手のひらにすっぽりと収まる小型カメラだが、望遠機能や連写機能が装備されている高級品だった。

美紀は二人に気付かれないように、カメラを二人に向けて、写真を撮った。


美紀は、待ち合わせの相手に青年が現れたことに、少し残念がっていた。

てっきり女性がやって来るものと思っていたからだ。

これで浮気の線は消えた。

問題は、この青年がどういった用事で篤志と待ち合わせしたかだ。


ロビーを後にした二人は、ホテルのフロントへと向かっていた。

どうやら部屋を取るようだ。

報告書によれば、篤志は外泊まではしていないようだから、ホテルに泊まるということは考えられない。

泊まらない部屋を取って、男二人ですることとは…。

美紀の頭の中を様々な憶測が飛び交った。

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