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75話

 


 ――永新が人形使いと戦い始めた頃、(すめらぎ)龍火(りゅうび)と真宵は、一合の手合わせの後、睨み合いを交わしていた。



「……随分と老い耄れたなぁ、おい」


「……その点お前は、随分と強くなったな」



 三組が十全に戦闘行為を行っても尚も余りある程に広大な連盟本部一階エントランスホールは、最早スポーツ競技すら行えるのではないかと言う広さを誇っており、その一角で真宵と龍火は今の一瞬で行われた戦闘行為について互いに品評し合う。

 それこそ、お互いが妖魔と倶利伽羅として命を削り合っていた日々から変わらない取り組みであり、あれから幾月幾年と時間が経とうとも、やり取りは色褪せない。


 片や、世界最強の倶利伽羅と名高い男。片や、傍若無人の名を恣にする妖魔。

 そんな二人にとって、同じ土俵で語り合う事の出来る相手との時間は青春そのものであり、かけがえのない時間であった。


 しかし、二人の間に流れる時間は平等では無い。

 霊力を補給し続ければ半永久的に活動できる、寿命と言う概念が存在しない妖魔である真宵に対して、寄る年波に現役を退かざるを得なかった龍火は今、全盛期と比べるまでもなく遥かに弱くなっていた。


 その事実は真宵を落胆させるには十分であり、失望に重なる失望に、むしろ怒りすら湧いて来るようだった。



「これ以上お前の醜態を見ているのも腹立たしい。いつまでも無様に生に執着している様を晒すなど、お前も本望ではないはずだ。……オレとお前は似ている。最強であるが故の孤独。それを失ったお前は、弱い。だからこそ、オレは弱くなったお前を、認められない」



 腹立たしそうに、けれども、どこか寂しそうに物語る真宵の言葉に、龍火は静かに顎を引く。

 龍火には真宵の言っている事が理解できるから。同じ最強の地位に身を預けていた者同士、龍火のは多少錆び付いているとは言え、もしもお互いの立場が逆であったら、龍火も同じ言葉を真宵に対して投げかけていたと思う程に理解できてしまう。


 しかし、それでも龍火がここに立っている理由は、たった一つに集約される。



「……教え子に、格好悪いところは見せられんのでな」



 龍火は、徹頭徹尾自分の弱い部分を排除して真宵と対峙しており、自分の人生経験からして真宵には到底敵わない程に力量差が生まれている今、例えこの場で死ぬと分かっていても退けない理由があるのだと笑って指し示す。



「……お前は言ったな。新しい人材をその目で探し、その手で育て上げる事の喜びを。それは、叶ったんだな?」


「最強であるが故の孤独……、そう言ったな。だが、微笑ましい子らに囲まれる孤独とは無縁な世界も……良いものだ。……孤狼よ。燼月は、良く育ったか?」



 龍火の向かう視線の先、人形使いと相見える燼月永新をその目で捉える龍火に対して、真宵は永新を振り返る事無く、不貞腐れたように答える。



「知らん。あいつは、オレの言う事を全く聞かないからな。そのクセ妙に素直で、真っ直ぐな所が腹立たしい。極端に自分に自信が無いのはお前達が押した烙印の所為だろうな。お陰で、自信を一つ持たせるだけでも一苦労だ。このオレが褒めてやらないといけないんだからな。その上、あいつは無茶ばかりする。命に関わる怪我でも無視して突っ込もうとする癖がある。自分を大事にしてやれないのも、全てお前達が付けた傷の所為だぞ。だからいちいち様子を見に行ってやらねぇといけないんだ。それから……」


「……随分と、入れ込んでいるんだな? 最強であるが故の孤独、とはなんだったのか」


「……チッ、嵌めやがったな、老獪が」


「何の事やら。……燼月には、悪い事をしたと思っている。子らに囲まれる孤独とは無縁の世界、それは確かに、私から牙を抜くのに適したぬるま湯だった。そして、その心地の良いぬるま湯に浸かって牙の抜け落ちた私は……最強の肩書きを捨てた私は、権力に溺れた。それは、お前も見ていたから分かるだろう。振り返ってみれば、実に、腑抜けた姿だった」


「今更後悔してんのか? それなら、謝る相手はオレじゃねぇだろ……!」


「お前が人の為に、ましてや燼月の為に、怒れるか。それならば私も、最後まで敵役を担うべきだったか?」



 悟りを開いたような、どこか掴み所の無い様子で物語る龍火に対して、真宵は苛立ちを募らせていく。

 煙に巻くような口振りも、真宵を翻弄するような態度も、真宵にとってみれば全てが気に食わない。


 だが、それ以上に、「燼月永新」と言う子供を自死にまで追い込む事を黙認していたこの男が、どうしても真宵は許せなかった。


 かつては世界最強と呼ばれた実力の持ち主。かつては同じ土俵で高みを目指して競い合った者同士。

 そんな誇り高き存在であったこの男が、長いもの巻かれ、助けを求める弱き者を見捨てた事に、何よりも憤慨しているのであった。



「……お前だけは、違うと思っていた。お前に誘われて、倶利伽羅の後進を、次なる強者を育てる機関に入ってすぐ、あの場所がお前の言うような場所ではない事には気付いていた。倶利伽羅と言う長い歴史を背負うが余り、人として守るべき尊厳すらも踏み躙るような連中の集まりだと言う事はな。多くの人間がそれを見て見ぬ振りをして泣き寝入りしていく中で、同じ高みを目指したお前だけは、違うと信じていた。……いや、お前が見ている景色と言うものを見る為に、あの頃と同じ感覚を思い出す為に、お前を信じようと思い込んでいた。だが、それは間違いだった」


「そうだな。私はもう、その頃には、お前が知っている私ではなくなっていたからだ。最前線から退き、それまで見たくなかったものまで見させられた私は、すっかり変わってしまった。……変わらなければ、生きて行けなかった。ただがむしゃらに戦い続けていれば良かった頃とは違って、後方では何よりもまず、家柄が重視される。実績なんて二の次だ。歪み、汚れた倶利伽羅の世界では、適応しなければ生きていけないと、自分で自分を肯定したかったのかもしれない。お前を我が道に誘ったのも、私の生きざまが間違っていないと思い込みたかっただけなのかもしれない。……だからこそ私は、燼月永新と言う異物を、容認できなかったのかもしれない」



 その点、四家の面々は、文字通り全てを手にしていた。


 倶利伽羅の世界で生き抜くための、全てを。


 その反面、燼月永新は何も持ち得ていなかった。


 故に、全てを持ち得る彼らにとって、何も持ち得ない燼月永新と言う存在は異物であり、理解し難い存在となっていた。


 しからば、四家と言う倶利伽羅の未来を背負う子供達と、偶然その世界に足を踏み入れてしまっただけの一般人。どちらを選ぶかなど、俱利伽羅の世界に染まった龍火は考えるまでも無かった。


 龍火が選んだのは、四家。


 それからは、四家と言う特別な子供達の、抑圧された感情の吐き出す先として燼月永新が標的になろうとも、龍火は見て見ぬ振りをした。四家の子供達があの手この手で教師としての自分からその現場を隠そうとしても、子供の手では限度がある。指の切れ間から覗き見えるそれも、龍火は気付かぬ振りをして、見過ごしてきた。


 しかし、その行為が表立つ事が不味いのは龍火も理解しているが故に、子供達の前では努めて平等に接するよう心掛けていた。


 その行為が、燼月永新が教師である龍火を味方だと思い込んだのは、誤算だった。


 ――今はまだ出来なくても、いつか僕も、強くなれますか。


 そんな事を、聞かれた事があった。

 その目は、自分が虐げられていても尚、希望の光を宿していて、長い事「希望」と言うものに縁が無かった龍火にとって、それは自分の身を焦がす程に眩しい、太陽のような光だった。


 ――だから私は、それを遠ざけ、雲に隠した。


 幼き日の、最強を目指したあの日の自分の姿と重なるからこそ、龍火は永新を遠ざけた。

 直接の指導すらも忌避し続けた結果、いつしか彼が虐められている光景すらも目に映らなくなった。



「……オレが、初めて燼月を見た日だ。あいつは、側頭部を火傷して、血塗れになったのにも関わらず、自分じゃなくて別の誰かを思い遣ってた。オレは、そんな人間を見た事が無かった。ただでさえ自己愛の強い連中に長い事囲まれて来た中でオレは、はっきり言って、衝撃を受けたんだ。妖魔のオレでさえそう思ったんだ。って言うのに、それを見てお前はなんて言ったか覚えているか?」


「……」


「ボケた振りか? お前は、『どうもしない』、そう言ったんだ」


「そうだったな」


「そこで、オレは白麗(びゃくれい)様に直談判しに行った。面白い人間がいる、って言ってな。白麗様なら、アイツを、燼月を救ってやれると思ったからだ。だが、その時点で、もう既に燼月が白麗様の御手付きだったことを知るんだがな」


「……そうか、その時点で、既に妖魔の王は復活していたのだな」


「白麗様から言われたのは、手出し無用とだけ。その後も、オレが燼月を見かける度、あいつの怪我は増えていた。肉体的な傷だけじゃない、あの時点で、燼月の心は壊れかけていた。そして最後の一押しを、お前達倶利伽羅が、押した」



 真宵は、常に永新の事を見守っていた。

 あそこまで傷付いていながら、他人に優しさを向けられる人間が珍しくて。


 だが、それが「自分に優しさを向ける事を知らない」と言う事に気が付いたのは、燼月が妖魔に堕ちてからの事だった。



「燼月が妖魔堕ちしたんじゃない。倶利伽羅が、お前達が燼月を妖魔に堕としたんだ。それを、自覚しろ。……自覚しないのなら、オレは、お前達が燼月に謝る事すら、許さない」


「……燼月の面倒を見ているのも、それが理由か」


「そうだ。これは、オレの『贖罪』だ。白麗様の命令を横に、オレは燼月にもっと救いの手を差し伸べるべきだった。そうすれば、燼月は過酷な道では無く、幸福な人生を歩めたはずだからな」



 端的にそう言い放った真宵に、龍火は嬉しそうに、けれど表情に影が差した様子で笑って見せる。



「……妖魔が、人の生を語るか。本当に、燼月は末恐ろしい。私に出来なかった事を、易々と……」



 そう言って、「私は間違っていたのか」と繰り返す龍火は瞼を下ろし、暫くの間頭上を見上げた後、ゆっくりと顎を引いて、瞼を持ち上げる。



「フン。目だけは、若返ったな」



 それに呼応するようにライダースジャケットを脱ぎ捨てる真宵は、圧倒的なまでの霊力を放出し、龍火の前に立ちはだかる。


 龍火にとって、真宵の相手をすると言うのは実に数十年振りの事。

 老化が進んだ龍火からすれば敗色は濃厚、どころか、勝ち目など一切ない。それでも、彼は彼自身のけじめをつける為に、この地に足を運んできたのであって、逃げる為にやってきた訳では無いのであった。



「回顧はもう済んだ。始めよう、私とお前の、最後の戦いを……!」


「早々に潰れてくれるなよ?」



 音もなく、ただの意識の切り替えのみで纏炎を発動させ、老体とは思えぬほどの出で立ちを見せる龍火。

 その手に握られたのは新型霊具……ではなく、使い古されながらも適切なメンテナンスが施された、洗練された刀の旧式霊具。四家より新型霊具を授かる事が可能な立場でありながらも固辞するように手に馴染んだ得物を構える様は、まるで十や二十、若返ったかのよう。


 例え勝ち目が無くとも、敗北だけが待つ未来であったとしても、人生最後の大勝負――。




 ――悔い無き背中を、見せるのみ。




 ニィッ、と子供のような笑みを浮かべた龍火に対して、真宵は軽装を翻したかと思えば、挑発するようにクイクイ、と人差し指を動かし誘う。



「格好つけるんだろ? 来いよ」


「叩ッ斬る……!!!! ――紅蓮一刀流、奥伝・紅炎乱舞(こうえんらんぶ)!!!!!!!」



 最強の名は伊達ではないと言う証明か、チラリと横目で戦う生徒達を視認した後、龍火は金色の炎を刀に宿し、真宵に向かって駆け出す。


 同時に、懐かしい炎を見て体を疼かせた真宵は、その想いの向くまま、衝動が赴くままに駆け出し、瞬歩で彼我の距離を詰める。


 瞬間、刀同士が衝突し合うような音を鳴らして二人の最強はぶつかり合う。



「化け、物め……!!」


「誉め言葉だ……なァッ!!?」



 衝突は一度のみならず、龍火が振るう刀の数だけ、真宵の手がそれを防ぐ。

 普通、奥伝もの霊技であれば、上級妖魔の肌を損傷させるには十分。それは同じ技を用いて上級妖魔である凍吉の体を傷付けた炎導ササラの前例がある以上間違いないのだが、真宵は文字通り別格の存在であった。


 龍火の刀に纏う金色の炎は真宵の体に触れたとて、霊力の密度が高い真宵の体には傷一つ付けられない。

 これは術者の能力次第の問題であり、いかに奥伝と言えども、最早老化の絶えない龍火の体では真宵に手すら届かない。


 ――圧倒的な実力差。


 それを前にして、龍火は絶望する訳でも無く、ただひたすらに、楽しそうに笑って見せる。



「ハハッ……!! そうだ……っ、忘れていた、この感覚。血沸き肉躍る、戦地こそ、私の死すべき場所だ……!! そうだろう、弧狼よ!!!!」


「……」



 たった二本の腕では再現できないような刀の乱舞は、例え老いていたとしても倶利伽羅の中では超絶技巧として語り継がれるもの。それを、真宵は涼しい顔をして片腕一本で全てを弾き、ましてや押し返す。


 ギィン、と到底刀と素手が触れ合って出せるような音ではない音を鳴り響かせながら距離を取った龍火は、楽しそうに笑いながら次の技を構える。



「紅蓮一刀流、秘伝・破流伽羅(ハルカラ)



 真宵も初めて見る霊技を前に、微かに眉根を動かした、直後。

 精神統一を図っていた龍火の姿が真宵の眼前から忽然と消え去り、次の瞬間には背後から殺意が降り注ぐ。



「っ、チッ……。なんだァ、コイツぁ……?」


「お前の得意技から体得した技だ。お前にはこの刃すら、止められん――」



 真宵はその場で振り向いたまでは良かった。

 真宵の反応速度だからこそ目に留めて反応できたは良いものの、龍火が振り下ろす刀は真宵の防御をすり抜けて、真宵の頬に傷を付ける。


 たった薄皮一枚を斬り付けたとは言え、龍火からすればそれは非常に価値ある成果で、防いだと思ったのに切り付けられたと言う、理解不能な事態に直面した真宵へと追撃を図る。


 しかし、真宵もただ待っているだけではない。



「――ハッ、オレと瞬間移動で張り合うってか? 良い度胸してるじゃねぇか。喧嘩売った事、後悔させてやるよ。……それと、オレは同じ技は二度も喰らわねぇ」


「――ッ!?!」



 瞬間、得意げに語っていた龍火の背後に真宵の姿が出現し、その横に激しい衝撃が襲う。

 しかし龍火もただで受けるはずもなく、刀でそれを防いだのも束の間、エントランスホールの床を滑るようにして受け身を取ったその場所に、再び真宵が現れ、岩をも砕く蹴撃が龍火の脳を揺らした。


 老体を派手に転がして、突如として襲われる脳震盪から解放されながら受け身を取った龍火であったが、そのままゆっくりとしていられる暇などなく、前方の確認も束の間、一呼吸挟んだ後に「秘伝」を発動させた次の瞬間、龍火が立っていた床が易々と踏み砕かれる。


 その隙を狙って、真宵の頭上より出現した龍火が、脳天を貫かんとばかりに刀を突き立てるのだが、龍火に見えていた真宵の姿は、陽炎。

 落ちた龍火を狙って再びの襲撃。しかしそれは龍火にも見えておらず、長年の経験からもたらされる勘が働いた結果、龍火は再度の瞬間移動。そうして龍火が居た場所を襲うのは、真宵の拳。それが空を切ったのを見るや否や、攻撃後の隙を狙った真宵の、そのまた更に攻撃後の隙を突く一撃を放つ。




 ――しかし、それもまた、陽炎。




 経験則の裏を突かれた龍火が次の攻撃に備えようとした刹那、龍火の腹部に刺さる鋭い蹴り。

 バキボキ、と人体を破壊する音を鳴り響かせながら後方に転がされた龍火は、辛うじて受け身を取れたものの、膝を付いて激しく血を撒き散らすのであった。



「カハッ……!!!」


「お、当たったか。鬼ごっこは、オレの勝ちみたいだな」


「フッ……、たった二回連続の瞬間移動、それだけで霊力が持たなくなるとはな……。老いとは、酷く恐ろしく、虚しいものだな……」



 真宵にとって、龍火の瞬間移動による防御不可の斬撃は、脅威でもなんでもない。

 瞬間移動のその先、常に瞬間移動を繰り返し、相手の動きが止まるまで攻撃をするだけ、と言う極めて攻撃一辺倒な作戦。策略の「さ」の字も無い脳筋プレイではあるが、それを机上の空論ではなく実際に実現可能とさせるのが、宿無真宵と言う妖魔として異次元の格を得た妖魔なのであった。



「悲しいかな、次で、最後だ……。私の――俺の、人生で最後に放つ技だ。受けてくれよ? 弧狼」


「もう終いか。……いいだろう、お前の最期の頼みくらいは聞いてやろう。……その前に、燼月に言う事は無いか」


「…………俺がした事は、許されるべきではない。だが、だからこそ、済まなかったと、そう伝えてくれ」


「――嫌だね。オレは言う事は無いか、と聞いただけで、伝えておいてやる、とは言ってない。お前自身の口で、伝えるべきだったな」


「そうか……、そうだな。フッ、死ねない理由が、出来てしまった訳だが、どうしてくれる?」


「知らん。オレに聞くな」


「……ゆくぞ」



 口端から血を滴らせながら、龍火は微笑む。

 瞼を閉じれば、自分の一生を振り返る事が出来るくらい、今この瞬間は充実していた。


 故にこそ、人生の集大成として、今ココでけじめを付けねばならなかった。



「――見ていろ、子らよ。これが俺の集大成、俺が付けるべき、けじめである」






 ――紅蓮一刀流、絶天・黒燈鬼璃(クロヒキリ)






 霞の構えをした龍火の刀に、炎が宿る。

 それは、この場を死地と決めた男の覚悟を糧に、霊力を燃やして熱を上げる。


 そうして宿るは、()()()



「……死ぬ直前まで、倶利伽羅としての本懐は果たせぬ、か」


「それが、お前の命の灯火か」



 フッ、と自虐的に笑ったのも束の間、全身に走る鈍痛も、体の重みすらも忘れて腰を落とした龍火は、構えも捨てて真宵に向かって、斬り込んでいく――。



「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 皇龍火の、倶利伽羅として生きて来た人生の全てを注いだ、正しく命を懸けた一撃。

 そこに込められたのは、霊力だけではなく、皇龍火の一生。


 霊力が強い想いに応えるのだとしたら、人生の全てを懸けた時、それはどれだけの力を生み出すのか――。


 それが証明される――次の瞬間。






「……………………ハッ。最早、手など、届かぬか――」






 皇龍火は真宵の後方に取り残され――否、蒼い炎を宿した刀を真宵が刃の部分を鷲掴みにして皇龍火の手から奪い、皇龍火の後方に立っているのであった。



「いいや、オレに火傷を負わせるくらいは、届いたものだ」


「……それならば、俺の生涯に意味を持たせられそうだ」


「皇龍火。お前の出番は、ここで終いだ――」



 龍火の刀を掴んだ掌。

 真宵が見せた掌は焼け焦げており、それだけの負傷をしたのも真宵にとってみれば久しいもの。


 しかし、全てを出し尽くした皇龍火は、真宵に背を向けたまま立ち尽くしており、真宵の言葉と共にその背に、刀が突き立てられる。



「……燼月も、終わった頃か?」



 心臓に刀を打たれ、それ以上の苦痛も無く逝った皇龍火に対して、大した感傷を抱く事の無い真宵は、その亡骸を置いて、去っていく。



 ――世界最強の倶利伽羅、皇龍火はこの日、最強の妖魔との戦闘の果てに、命を落としたのであった。











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