61話
「そんな、事は……。だって、俺は……。ッ、でも――」
「おいおい待て待てぃ!! おいルゥ! お前、永新が元とは言え俱利伽羅じゃねぇ、って言いてぇのか? だが、それは残念ながら、疑いようのない事実。永新は確かに倶利伽羅だった過去を持ってんだ。それは他でもねぇ俺様が保証するし、永新が……いや、白麗様が嘘を吐く必要が無ぇし、嘘を吐くはずが無ぇだろ」
――倶利伽羅が妖魔になれるはずが無い。
独自で妖魔の研究をしていると言う自称天才のルゥに言われたその言葉。
永新をソファの隅に追い詰めながら、真実を叩き付けるようにしてアメトリンの瞳を見開いて迫った童女が「天才」の名に相応しいだけの、明らかに只者では無い雰囲気を纏っているお陰で永新は思わず自分の存在を否定された事を受け入れてしまいそうになってしまう。
しかし、ルゥと永新の顔が鼻先が触れ合う程まで接近したところで割って入った羅威竿の手によって永新は我に返り、甘いお菓子の匂いで現実に意識を引き戻す。
「ふふ、これもまた、てんさいじょーく。……でもこれは、じょうだんでもなんでもないよ。くりからがようまになったじれいなんて、そもそもそんざいしないのだから」
永新は今、一瞬だけとは言え、完全に彼女に喰われていた。
アメトリンの瞳に魅入られ、彼女の世界に囚われてしまいそうになっていた。
そんな小説や物語の中だけの、奇妙で特別な、嘘のような経験をしたのは、永新にとっては二度目のものだった。
それは、永新にとってターニングポイントとなっているあの日の白の赤い瞳以来の出来事であって、永新は目の前のルゥを「不思議な子」としか捉えていなかったのが、たった今の一瞬だけで、時間にして僅か数秒の出来事のみで、彼女は「特別な存在」であると認識を改める。
彼女は永新に圧し掛かっていた自分の小さな体を引き剥がして離れると、自分の作り出した空気を換える為に笑顔を振りまいて見せる。しかし、一貫して彼女の眼は笑っておらず、彼女の言葉は決して嘘では無いと理解させられる。それは羅威竿も同じだったようで、それ以上返す言葉が見つからない様子を見せる。それでも、ルゥの発言は認めないと言った表情を浮かべるものだから、ルゥは聞く耳を持ってもらうべく懐から引きずり出したタブレットを操作して一つの動画を再生し始める。
「……なんだ、これは?」
「人? 拷問……?」
永新が覗き込んだ映像には、画素数の荒い数十年も前の映像が流れ始め、とにかく暗く物々しい雰囲気が漂っているのが分かる。
カメラの動きは素人同然で手振れも酷く、お世辞にも「見易い」とは言えないような映像ながらも、永新の目には沢山の人が天井から吊るされた状態で並べられている光景が捉えられた。
吊るされた人物は着の身着のままと言った様子で、特別何かを身に纏っている様子は無く、むしろ身に着けている品々から吊るされている人物の性差であったり、シルエットで年齢を見分けられる程度には映されていた。その中には、永新も見覚えのある霊具が映った事から、吊るされた人たちの中には倶利伽羅も巻き込まれているのが分かる。
人々が大量に吊るされている光景、それは食肉加工に隣接する屠殺場のようで、永新の中に緊張が走った。
「これは、ずいぶんむかしにあんだーうぇぶにとうこうされて、さわがれることもなくけされたひとつのえいぞう。これから、かれらがようまになっていくじっけんのいちぶしじゅうがながれる」
「……ルゥ、これ、お前がやったのか?」
「あたしもずいぶんながいことにんげんしゃかいでいきてきたからね、それなりのりんりかんはもっているつもりだよ。もしもあたしがやったとしたら、しょうこになるようなえいぞうをのこすわけがない。これはじこけんじよくにまみれたばかなとうこうしゃのせいかくがありありとみてとれるね。こいつは、じぶんがここにいることをわざとあぴーるしてる。けど、それをだいだいてきにしらしめることもできないしょうしんもの。ここにたどりつけたつわものだけにきづかれるじぶんをとくべつだとおもいこみたい、そんなあわれなへんじんのまつろだともいえるよ」
「否定はしないんだ……」
「ひつようにかられれば、あたしもやるよ、ってはなし。そのときは、なかまどおし、いちれんたくしょう、だよ」
「アホか、誰が手を貸すかよンな事に」
にや、と笑うルゥの目が一ミリも笑っていない事に、彼女は本当に必要とあらば手を出すのだろうと思わざるを得ない。
そんな中でもノーカットの映像は進んで行き、たくさんの管と鎖に繋がれた人々は暴れる事も逃げる事も許されずに、ルゥの言った妖魔になる瞬間をただひたすらに受け入れざるを得ない。今この瞬間で次の時を今か今かと待ち侘びているのは間違いなくこのカメラを回す投稿者のみであり、彼らの目に恐怖や絶望が宿っているのは確認せずとも分かるような沈黙の一瞬であった。
そんな中、突如としてタブレットの中の映像に変化が起こった。
「のうこうなれいりょくをとかしこんだてんてきをうちつづけて、ぎじてきなれいりょくたまりをつくりだす。これがあたまのくるったとうこうしゃのかんがえたじんこうてきにようまをふやすほうほう。えいしんはさっき、れいりょくたまりをたまごだってたとえたよね。いうなればそう、これはひとのからだにようまというたいじをきょうせいてきにはらませるしゅほうといえる。でもちがうのは、だんじょとわずみごもらせることがかのうで、ようまはまたのあいだからでてきたりしないてん。やどぬしのはらをくいやぶるか、もしくはからだをのっとってせかいにうぶごえをあげる。それがようまとしてのありかただから、ひとをようまにうまれかわらせるしゅほうとしてはじつにこうりつてきなほうほうといえるのさ。でも……」
「おいおい、えげつねぇな……」
「――でも、拒否反応を、示してる」
「たいないにれいりょくをもつくりからがいちばんにようまがやどるのはひをみるよりもあきらかだったけれども、くりからのからだはそれにきょひはんのうをしめした。ようまがしぬしゅんかんとおなじ、いきたこんせきものこせず、ちりとなってきえていく。そら、ほかのくりからもおなじだ」
ルゥが示したように、実験体とされた倶利伽羅に最初に反応が見られたかと思えば、すぐに自壊していく。次に霊力に適性があったのか、只人が妖魔を宿した反応が見られたものの、彼もまたすぐに拒否反応が起こって自壊していく。故に、結果はどれも同じかと思えた次の瞬間には、只人が妖魔としての生を歩み出す瞬間が映像に収められ、投稿者の声と思しき歓喜の声が、響き渡る悲鳴に混じって聞こえて来た。
「やどったようまはすべてやどぬしをのっとりにかかった。これはとうこうしゃにとってもうれしいごさんだったのはまちがいない。そして、けっかてきにじんこうてきなようまのせいせいにせいこうしたれいはおよそじゅうぶんのいち。これはきょういのすうじともいえるのにたいして、くりからのせいこうれいはゼロ。ぜったいてきにさんぷるすうがすくないとはいえ、これはあきらかになんらかのじょうけんがふよされているとかんがえてもおかしくない」
そう言って見るのを止めたルゥの横で、永新の目には建物が崩壊する瞬間と映像が途切れる瞬間が同時に映る。霊力を嗅ぎ付けた妖魔によって食い荒らされたのだと言うルゥの言葉に、永新はしばらく黙り込んで真っ暗になったタブレットに視線を落とすのだった。
「おいおいおい、待て待て待てよ。今のはつまり、只人が妖魔化するってのが証明されちまったじゃねぇかよ!!? それって、相当不味いんじゃねぇのか!?」
「まずいよ。そうとうにまずい。だからこそそのじょうほうはひとくされている。それに、いまはくりからのようまかのはなしだからそこまでかんけいはないんだけどね」
「そう言う問題かぁ……? まぁ、百歩譲ってそうだとしても、この映像ではたまたま倶利伽羅が軒並み失敗しただけだって話かもしれねぇだろ……」
「ほかにもくりからがじこやこいでようまかしたけっか、おなじけつまつをたどったっていうしょうこをにぎっているけど、いまのえいぞうがいちばんわかりやすかったんだ。くりからのでーたさーばーにはそんなじょうほうがごろごろころがっているよ」
「なんだよそれ……。って事は、倶利伽羅はその血にそう言った呪いを術式で……いや、一家相伝ならまだしも全ての倶利伽羅に刻まれているとか、余りにも現実的じゃねぇよな……それなら、白麗様なら、その縛りも無視して妖魔化させられるんじゃねぇのか!?」
「びゃくれいさまでも、むずかしいはなしだね。かのじょがえいしんにほどこしたじゅつしきはたしかにとくべつなもの。でもそれは、もとをただせばさきのえいぞうとしゅほうはおなじものなんだ。こんかんがかわらないいじょう、びゃくれいさまだからとくべつ、というのはすじがとおらないんだよ」
「変わらず、倶利伽羅は妖魔になると同時に自壊する、っつう条件を潜り抜けられねぇって話か……。となると――」
「――もし」
「「えいしん?」」
二人の会話が進めば進むほど、永新が倶利伽羅の身の上で妖魔に身を堕としている事が嘘のように思えてくる。そんな中で、映像の中の倶利伽羅が妖魔と化して自壊していく様が脳裏に焼き付いて離れない永新は沈黙を貫き続けていた。――否、目の前の現実を受け入れられずに、目を背けようとしていた。
しかし、あの日から「変わるんだ」と決めた永新はここで逃げる選択をすることは「変わっていない」と言う事実から目を背けるのと変わらないのだと、背中を押してくれた羅威竿の期待を裏切る事になるのだと意を決し、永新は震える声で二人の会話に割って入って行く。
その目は下を向いたまま。手指を交差させた手は震えていて、最悪が過る頭の中は言葉の整理もついていない。
それでも、永新は自分が抱える恐怖を、羅威竿が言わんとしている答えを、自分の口で言葉にするのだった。
「……もし、僕が俱利伽羅じゃなくて、ただの人だったら、僕が妖魔になった事は、証明されるって言う事で、合ってる、ルゥ?」
「あってる」
「そっ、か……ぁ。それじゃあ、僕が、倶利伽羅として生きて来た時間は全部、無駄……だったかも、知れないって事、だよね……」
「そ、そんな事!! ……ねぇって。永新がどう生きて来たかは、俺様達が知っているし、認めてる!! 全部が全部、無駄だった訳じゃ――」
「そのかのうせいをふくめて、くりからのせかいからようまのせかいにふみいれたゆいいつのそんざいであるえいしんのからだを、あたしにしらべさせてほしい。あたまのてっぺんからあしのつまさきまで、あたしがえいしんのぜんぶをまるはだかにしてあげる。……そのうえで、えいしんがほんとうのことをしりたいというのならおしえてあげるし、うそもついてあげる」
「お前っ、もう少し言い方ってのをよォ……」
「……自分が何者なのか、俺は、知りたい。だから、ルゥ。お願いしても、いいかな」
そこでようやく頭を上げた永新は、まだ真実を知るのが恐ろしい、と言う感情を目に宿して瞳を震わせながらも、決して目を逸らすことなくルゥに向き合うのであった。
そんな永新を前にしながらも、ルゥは変わらぬ様子で半開きの瞳で永新を見ながら、ぐっ、と親指を立てた指を前に突き出す。
「もちろん。むしろ、あたしのほうからおねがいしてるんだから、こっちがたのむがわ。……ただ、ひとつだけ。えいしんはおもいちがいをしているところがある」
「思い、違い……?」
「じぶんがなにものであるか、なんていうのはたにんにいわれてきめることじゃない。えいしんがなにになりたいのか、なにをやりたいのか。それはえいしんじしんがきめなくちゃいけないこと。だから、たとえけっかがどうであろうとも、それまでにえいしんはじぶんがどうなりたいかをかんがえておくといい。そこのらいかんをみならって、ね」
「あ? おう!」
「自分が何者であるかじゃなくて、自分の、なりたいもの……」
「そう。それじゃあはやいけど、あしたからよろしくね」
「……うん? 今日からじゃ、ないの?」
話は終わりだ、とばかりにソファに横になってお菓子に手を伸ばし始めたルゥを見て、永新は「早速って一体……」と唖然としていると、ルゥは先程までの小さな体を小さいと感じさせないような威厳を溢れさせていた雰囲気を霧散させて、飲み干したマグカップを永新に突き付けてお代わりを催促し始める。
「きょうは、しゃべり、すぎて……つかれた。あしたから、がんばる」
そう言って完全にダウンしたルゥを見て、羅威竿は肩を竦ませて呆れながらもルゥ同様にお茶のお代わりを催促してくる始末。
なんだこの先輩二人は、と思いながらも、それが後輩の仕事かと受け入れてお茶のお代わりを運んでくると、ルゥが「あぁそうだ」と思い出したかのように情報を口にする。
「ふたりがくるまえにまよいがかおだしてきて、でんごんたのまれたんだった」
「あいつ、確か倶利伽羅に潜入中だったろ? 油売りに来ていいのか?」
「まじめくんがなんとかしてくれるでしょ。でんごんっていうのが『まだ少し掛かりそうだからもう暫く時間潰しといてくれ』だってさ。あ、えいしんにね。あぁつかれた」
「……何、今の」
「俺様に聞くな。ルゥの事は不思議ちゃんとでも思っておけ」
突如として腹から声を出し始めたかと思えば、ルゥの喉から真宵の声が聞こえてきて驚きふためく永新は思わず羅威竿の方を見てしまった。
増々ルゥの事が分からなくなるような要素を見せつけられ、永新が困惑する横で、羅威竿が思い出したかのように「そんじゃあ!」と勢い良く立ち上がる。
「先にお嬢様ンとこ行こうぜ永新!! 解決金を貰いに行こうぜぇ~!!」
「いや、せめて明日にしようよ」
「それもそうか。んじゃ、晩飯の買い出しにでも行こうぜ」
「わかった。でも先に着替えを――」
「おじょうさま……あぁあのこのことか。……あ、えいしん、まって。らいかんはさきにいってて」
「あ? おう! 永新、早く来いよ! お前が来ねぇと意味ねぇんだからよ」
お代わりを用意したばかりの湯気が立つお茶を一気に飲み干したかと思えば、明日の事だと言うのに羅威竿はいつになくニッコニコの笑顔を湛えて、スキップまでしてしまいそうな程に軽い足取りで先に事務所を出て行く。
そうして呼び止められた永新と、元気を使い果たした様子のルゥだけが残された事務所の中で、永新はルゥが手を招くまま近付いて行くと、ルゥは突然永新の首に抱き着き、思わず立ち上がった永新の首から、その小さくて軽い体がぶら下がる形になる。
苦しい程に強くしがみつくルゥに困惑する永新であったが、耳元で囁かれた言葉に、一瞬にして目を瞠る羽目になるのであった。
「――せいいちろうには、きをつけて」
「それって、どう言う――」
「いってらっしゃい。おみやげはついかのおかしでいいよ」
「えっ、ちょっ……」
すとん、とソファの上に降り立ったルゥはその言葉を最後にすっかり背を向けて寝息を立て始め、それ以上について語る様子は見受けられず、永新はその忠告の意味を一頻り逡巡してみるも、これと言った怪しい点は見受けられなかった。
故に、その言葉を頭の片隅に置いて、羅威竿が待つ事務所の外へと踏み出していく。
その忠告を、大したものだと捉える事が無いまま――。
恒例のルゥ語翻訳。
必要の無い場合は読み飛ばして構いません。
「ふふ、これもまた、天才ジョーク。……でもこれは、冗談でもなんでもないよ。倶利伽羅が妖魔になった事例なんて、そもそも存在しないのだから」
「これは、随分昔にアンダーウェブに投稿されて、騒がれる事も無く消された一つの映像。これから、彼らが妖魔になっていく実験の一部始終が流れる」
「あたしも随分長い事人間社会で生きて来たからね、それなりの倫理観は持っているつもりだよ。もしもあたしがやったとしたら、証拠になるような映像を残す訳が無い。これは自己顕示欲に塗れた馬鹿な投稿者の性格がありありと見て取れるね。こいつは、自分がここに居る事をわざとアピールしてる。けど、それを大々的に知らしめることも出来ない小心者。ここに辿り着けたつわものだけに気付かれる自分を特別だと思い込みたい、そんな憐れな変人の末路だとも言えるよ」
「必要に駆られれば、あたしもやるよ、って話。その時は、仲間通し、一蓮托生、だよ」
「濃厚な霊力を溶かし込んだ点滴を打ち続けて、疑似的な霊力溜まりを作り出す。これが頭の狂った投稿者の考えた人工的に妖魔を増やす方法。永新はさっき、霊力溜まりを卵だって例えたよね。言うなればそう、これは人の体に妖魔と言う大時を強制的に孕ませる手法と言える。でも違うのは、男身籠らせる事が可能事が可能で、妖魔は股の間から出てきたりしない点。宿主の腹を喰い破るか、もしくは体を乗っ取って世界に産声を上げる。それが妖魔としての在り方だから、人を妖魔に生まれ変わらせる手法としては実に効率的な方法と言えるのさ。でも……」
「体内に霊力を持つ倶利伽羅が一番に妖魔が宿るのは火を見るよりも明らかだったけれども、倶利伽羅の体はそれに拒否反応を示した。妖魔が死ぬ瞬間と同じ、生きた痕跡も残せず、塵となって消えていく。そら、他の倶利伽羅も同じだ」
「宿った妖魔は全て宿主を乗っ取りにかかった。これは投稿者にとっても嬉しい誤算だったのは間違いない。そして、結果的に人工的な妖魔の生成に成功した例はおよそ十分の一。これは脅威の数字とも言えるのに対して、倶利伽羅の成功例はゼロ。絶対的にサンプル数が少ないとは言え、これは明らかに何らかの条件が付与されていると考えてもおかしくない」
「不味いよ。相当に不味い。情報は秘匿されている秘匿されている。それに、今は倶利伽羅の妖魔化の話だからそこまで関係は無いんだけどね」
「他にも倶利伽羅が事故や故意で妖魔化した結果、同じ結末を辿ったって言う証拠を握っているけど、今の映像が一番分かりやすかったんだ。倶利伽羅のデータサーバーにはそんな情報がごろごろ転がっているよ」
「白麗様でも、難しい話だね。彼女が永新に施した術式は確かに特別なもの。でもそれは元を正せば先の映像と手法は同じものなんだ。根幹が変わらない以上、白麗様だから特別、と言うのは筋が通らないんだよ」
「あってる」
「その可能性を含めて、倶利伽羅の世界から妖魔の世界に踏み入れた唯一の存在である永新の体を、あたしに調べさせてほしい。あたまの天辺から足の爪先まで、あたしが永新の全部を丸裸にしてあげる。……その上で、永新が本当の事を知りたいと言うのなら教えてあげるし、嘘も吐いてあげる」
「もちろん。むしろ、あたしの方からお願いしてるんだから、こっちが頼む側。……ただ、ひとつだけ。永新は思い違いをしているところがある」
「自分が何者であるか、なんて言うのは他人に言われて決める事じゃない。永新が何になりたいのか、何をやりたいのか。それは永新自身が決めなくちゃいけない事。だから、たとえ結果がどうであろうとも、それまでに永新は自分がどうなりたいかを考えておくと良い。そこの羅威竿を見習って、ね」
「そう。それじゃあ早いけど、明日からよろしくね」
「今日は、喋り、過ぎて……つかれた。明日から、がんばる」
「二人が来る前に真宵が顔出して来て、伝言頼まれたんだった」
「真面目君がなんとかしてくれるでしょ。伝言って言うのが『まだ少し掛かりそうだからもう暫く時間潰しといてくれ』だってさ。あ、永新にね。あぁつかれた」
「お嬢様……あぁあの子のことか。……あ、永新、待って。羅威竿は先に行ってて」
「――誠一郎には、気を付けて」
「行ってらっしゃい。お土産は追加のお菓子でいいよ」




