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第9話 魔王と謁見

ラヴァルさんの後をついて行って城の奥へと歩き続けること十分程。ついにただならぬ雰囲気を放っている扉の前に来た。


 とにかく装飾も凄い扉だ。半分に分けた黒い宝石が扉の中央に埋め込まれていて、それを囲うように男の腕と女性の腕が彫られてる。扉の左右には上半身裸の男と、露出度の高い女性の像。男の人の方は分からないけど、女性の方は誘惑的な衣装を着ているし、ハート型の尻尾先を見るに淫魔の系統なのは確かだ。像の下には見たことも無い文字で名前らしきものが刻まれているけど、僕には読めそうも無い。


「こ……この先に……魔王様がいるんですよね」

「おうさー!」


 ラヴァルさんからは微塵も緊張を感じない。魔王様と話す機会が多いからなのかな?

 僕は息が詰まりそうだ……。


「じゃ、行くぞー!」

「うわぁ待って! 待って下さい! まだ心の準備が――!!」


 僕の言葉虚しく、ラヴァルさんの片手は勢いよく突き出されて、扉を突き飛ばすように開かれた。無礼極まりそうな激しい音と共に。


 扉を開いた先は幅の広い通路と、真っ直ぐに奥へと敷かれた赤色絨毯。

 豪華な装飾や部屋の造りをじっくり見る――余裕も無く、気付けば僕は下を向いてしまった。


「あ、あれ――」


 おかしいな? なんで下を向いてるんだ僕は?

 ラヴァルさんの足音が遠くなっていくのが聞こえる。

 緊張のせいかな? 歩こうとしても歩けなくて、僕の身体は完全に硬直する。


 息が苦しい。汗が噴き出す。身体が、震えだした。

 体調不良なんかじゃない。違う、これは緊張というよりも、もっと恐ろしい――。


「ふざけるのもいい加減にして欲しいわね。兵力が少しでも欲しい時だというのに、“それ”は何?」


 部屋の奥から聞こえる大人の女性の、不機嫌な声。

 この違和感の正体はきっとその人だ。声を発せられただけで、膝が笑い出した。


「あっはっは! 相変わらず怖いなクリムー!」


 ラヴァルさんの豪快な笑い声が響いてから。


「その口、二度と開かなくするぞー」


 あのラヴァルさんとは思えない、低く、重い声が発せられた。

 鬼人族という言葉が脳裏に浮かんで、あの人も剣を振るえば恐ろしい人なのだと理解する。


「――はぁ」


 緊迫したこの状況の中、聞こえたのは軽い溜息。

 ラヴァルさんでもなければ、話している相手でも無い。女性であることに変わりはないけど、幼さを感じる声だ。


「クリム、さっきから失礼よ。彼がどんな人であろうと、私の客人なんだから」


 そう続ける声の主。

 すると僕の身体の強張りは解れて、手足が思い通りに動く様になってきた。

 あれは、そう、殺気だ。僕は逃げ場を失った小さな獣の様に震えていたんだ。


 顔を上げて改めて部屋の奥を見ると、そこに見えるのは机で頬杖をついた金色の髪色をした少女と、その側で腕を組んで立っている深紅色の髪色をした女剣士。

 少女は身軽そうなローブを着ていて、肩から伸びる黒くて大きなマントは支配者の様な物々しさを感じる。

 女剣士の方は黒色と赤色で纏められた革製の衣服を着ていて、真っ先に目についたのはその背中に固定されている深紅色の剣。刃は炎の様に波打っていて、不規則。刃の大きい刀とも違うし、剣というよりも大剣の様な……とにかく普通じゃなかった。


 少女は重ねた手の甲の上に顎を置いて、僕に顔を向けて。


「ごめんなさいね。今はちょっとピリピリしてて」


 何を言われるかと身構えたけど、申し訳無さそうにしながら謝罪する少女。


「い、いいえ! 驚いただけです!」


 外見に寄らず大人びた雰囲気と、発する言葉一つ一つから伝わるこの迫力。

 まさか、この人が。


「初めまして。私は魔界ネルディアの十三代目魔王、ネイルよ」


 ニコりと優しく微笑む、自らを魔王と名乗る少女。

 この人が、魔界の頂点に立っている魔王様なのか……!


 いつまでもこんな遠くで立っている訳にはいかない。

 ラヴァルさんの隣まで駆け足で寄って、出来るだけ失礼の無いように深く一礼してから。


「お会いできて光栄です魔王様! 僕はセト・アルヴェリアと申します!」

「あら、礼儀正しいのね」


 魔王様のくすくすと笑う声が聞こえて。


「その名前……。確かに貴方はテテュスの弟で間違い無さそうね」

「テテュスの弟?」


 魔王様の言葉に真っ先に反応したのは、その隣に立っていたクリムと呼ばれていた女剣士。

 そのクリムさんが僕へ視線を向けると、信じられないものを見たような顔で。


「冗談でしょ。それにしては弱すぎるもの」


 クリムさんの冷たい言葉がぐさりと胸に刺さる。

 弱いかどうかは見て分かるものなんだろうかと、悔しい気持ちが湧く。けど僕は言い返せる立場にも無いし、自分が強いと思ってる訳でもないので口は固く閉ざしておく。


「誰だって最初は大体そうだぞー。焦りすぎじゃないかー?」


 ラヴァルさんは僕を庇って目の前に立った。


「あの大戦でどれだけの死者が出たと思っているの? これは遊びじゃないのよラヴァル」


 クリムさんは痺れを切らした様子を見せて、僕達に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。


「貴方、推薦状を持っているのよね?」

「は、はい! 此処に」


 その足取りに恐怖を感じながら急いで取り出して、紐解いて羊皮紙の中身を見せようと開く、が。

 突然、目の前に立っていたラヴァルさんが、視界横に力強く引っ張られる様に消えていく。


「なっ!?」

「え――」


――そして僕の手に握られていた推薦状は、真っ二つになっていた。

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