第3話
「ふぇっくしょーん!!」
「ふっ、ふっ、ふぇっくしょーん!!」
アランは風邪をひいてしまったようだ。
丁度アランは宿のプランを食事つきに変えたところで
今日は宿で食事をとれるのでクエストはやらずに大人しく休む事にした。
「アーラーンー?ちゃんと栄養あるもの食べないと、こーなるんだよ?」
部屋の外からケイトが話しかけている。
「その通りですね・・・ふぇっくしょーん!」
「じゃあゆっくり休みなよー。ボクは1人でクエストやってくるね!」
「いってらっさ・・・ふぃっくしゅーん!」
ケイトの今日の朝ごはんは宿の食事だったので
ごはん、味噌汁、目玉焼き、ソーセージ、トマトサラダ、ヨーグルトだった。
それからクエスト掲示板に行く前に商人広場に寄り道をし
わらび餅を食べている。
「ふん♪ふーん♪」
鼻歌を歌いながら掲示板にたどり着いた。
クエスト掲示板の設置場所も商人広場ほどではないものの
それなりに混雑していて、いろんな人の会話が聞こえてくる。
「バタフラーを一緒に退治してくれる人はいませんか?
4人集まったら出発でーす。」
「それ行きます!混ぜて下さいな!」
「鉱石探知出来る人いません?いたら鉄掘り手伝って下さい!」
「オレでよければ!」
「キンイロスナトカゲ捕獲しにいきます!8人集まり次第行きますよ~」
「はいっ」
「ほいっ」
「へいっ」
ケイトはキョロキョロ辺りを見渡した。
1人でクエストをやっても良いが、やはり誰かいたほうが楽しそうじゃないか。
そこでわりと初心者っぽい装備をしている人物を探す。
おそろいのかごバックを持った2人組を見つけた。
「紫の田園のクエストで報酬がそれなりにあるけれど
1回が終わるのに15匹ですって。どうしましょう?」
「1人で7~8匹倒して・・・。」
「こんにちは!」
ケイトは2人組に声をかけた。
「ね、そのクエストボクも一緒にやらせてもらえないかな?」
「・・・1匹にどれくらいかかるのかしら?」
「もう少しやりやすいクエストにしたほうが良いかしら。」
「ねー!聞いてよ!ボクも混ぜてもらえないかな!」
「・・・・・・。」
2人組は、ようやく振り向いた。
あまり良い感じがしない。
なんかボク睨まれてる気がする。
「あんたさ、蛇の子か蛙の子かしらないけどさ、うるさいよ。」
向かって右に立ってるポニーテールの女の子が言った。
「ちょ、お姉様。魔族と口聞いたら呪いかけられるってお母様が・・・。」
左に立ってるツインテールの子が言った。
「呪い?ボク呪文は1つも使えないよ?」
「ふんっ・・・行こう。」
ポニーテールの子が別の掲示板へとスタスタ歩いていった。
「まってお姉様!」
ツインテールの子も後を追いかけて行ってしまった。
「・・・・・・。」
耳が垂れているケイト。
ケイトの家は19人兄弟である。
1番上がケイト。弟や妹の世話に母親はつきっきりで、いつも寂しかった。
でもケイトは家族が大好きだ。魔族である母の事ももちろん。
そのことで自分が悲しい思いをするのはもう慣れたが
幼い兄弟達も同じ目に遭うと思うと、くやしくてしかたなかった。
家族皆のために必ず有名になって世界を変えてみせる。
そうボクは決心したんだ。
ふとアランの事を思い出した。
ボクがアランの居ない間に別の人とクエストしてたって知ったら
寂しいと思うかもしれないな。
もしもお兄ちゃんがいたら、あんな感じなのかなー。
そんな事も考えてみたり。
「よーし!1人でも頑張ろー!」
「ふぁっくしゅーん!」
「大丈夫か、アラン。」
アランと同じテーブルに座っているベガルが言った。
相変わらずボサボサの頭をしている。
ここは食堂。昼ごはんまでまだ時間があるが
1時間くらい前には開放されるので徐々に食事つきの冒険者が集まってくる。
「熱とかないのか?」
「ふぁっくしゅ!熱はありませんでした。ただ、くしゃみが止まらなくて。」
なるべく人の居ない方を向いて、しっかり手で覆ってくしゃみをする。
「そうか、お大事にな。」
「ありがとうございます。ふっ、ふっ、ふぇっくし!」
マスクをしているディークが少し怪訝そうな顔をして近づいてきた。
「アラン。これ使ってくれ。」
その手には、風邪薬らしき液体。
「すみません、ありがたく頂きます。」
「いや、これは俺のためでもあるから。」
それだけ言うとさっさと自分の席に戻ってしまった。
「ディークって良いやつだけど神経質なところあるよな。」
ベガルは、そう言うとリュックからごそごそ午前中の戦利品を取り出す。
しっとりした赤紫色の粉。四角い密閉容器に入っている。
「誰かサソリの餌に良さそうな物もってるやついないか?生きたトカゲとか。」
「死んだものは食べないんですか?」
アランは聞いてみた。
「うん、選り好みするんだ。スズメのやつ。」
「大変ですね。」
「そんなに量は食べないから、そうでもないと思うけどな。」
薄紫色の髪をした女が近づいてきた。
「スナトカゲモドキはどう?
さっき1匹捕まえたものの売れないし困ってるのよ。」
「お・・・いいな。良ければバタフラーの鱗粉と交換してくれないか?」
そういってベガルは密閉容器を指差す。
「ありがたい話よ。毒薬作る材料にさせてもらうわ。」
「毒!?ふっ、ふぃっくしゅーん!」
「あら見ない顔だわ。」
「新人だ。なっ、アラン。」
「はい。アラン・ケタブリルと申しま・・・ふぃっくしゅ。」
「あんまり喋らないほうが良いんじゃない。
あたしはランラン。ランラン・シェライタ。」
薄紫の長い髪は太い1本の三つ編みになっている。
「ランランは毒矢の名人なんだ。」
「ロングボウね、吹き矢じゃなくて。
自分で調合した毒を矢に塗って使うのよ。」
「すごいですね。」
毒矢の名人なんて格好いい。
「スナトカゲモドキは部屋においてきたから食事の後に取りに行くわ。」
「わかった。後で交換しような。」
その頃ケイトは商人広場に居た。
わらび餅のおかわりをしていた。
「もうすぐお昼だけど、おやつタイム。
あれ、あそこに居るのリンコかなー?」
クリーム色が見えた。
黒っぽい犬も隣に居た気がする。
「ドッグフードください!」
とリンコ。
「いつもありがとうね。」
と店の人。
「ハリーはここのが好きみたいなんです。」
「おーい、リンコ先輩!」
「あら?ケイトじゃない。」
「わんわん!」
「この子がハリー?」
ケイトは黒い犬に興味津々だ。
「そう!初めて会うよね。かわいいでしょ!」
「うん、カッコイイねー。
いいなぁ、おともが居ると1人でもクエストしやすいよね。」
「・・・?あっそうか、アラン風邪なんだっけ。」
「うん、風邪でダウンしてるよ。」
「それは残念。
・・・一緒に行ってあげたいけど、午後のクエスト受けちゃった。」
「そっか、ありがとう!気持ちだけでうれしいよ!」
ケイトはニコニコしている。
「ちなみにどんなクエスト?」
「『黄色の砂漠でサソリの甲殻を剥ぎ取って来てほしい。報酬は・・・。』」
ベガルが泣いちゃうよ。とケイトは思った。
「皆様、昼食のお時間になりました。食堂へお集まり下さい。」
マリー・マカロニの声がスピーカーから流れてくる。
「ケイトのやつ来ないな。」
ベガルが食堂の入り口を見ながら言った。
「そうですね。あ、リンコさんは食事無しのプランなんですかね?」
「そうなんじゃないか。
あいつは今日は好きなもの食べたいとか言っていた気がするな。」
「今日は・・・ということは、いつも食事が無いわけでは無いと?」
「うん、気分によって変えてるらしいな。」
「なるほど。ふぃっくしゅーん!」
「やぁ、アラン!相変わらずくしゃみ出るんだね。」
いつの間にかケイトが食堂についていてアランの隣に座っている。
「いつの間に来たんですか。
あ、それよりクエストの進捗具合はどうですか?」
「それがね。実はボクなんにもやってないんだ!」
満面の笑みで答えるケイト。
「何もやってない・・・とは?」
「やっぱさ、アランがいないとつまんないからさ。
もう今日はボクも休みにするー!」
ずっこける一同。
「ははは。ま、そういう日がたまにはあってもいいんじゃないか?」
「いいんでしょうか。」
「いいのいいの!さぁ、ご飯食べよう!」
夜。アランは宿の自室で本を読んでいる。
今読んでいるのは『独学で身につける剣術のコツ』である。
『コドモのけんじゅつしどうしょ』
『猿にもわかる剣術』
『剣術初心者のための本』
それらがベッド脇に積んである。
今日は風邪で横になっていたから用意した本をほとんど読んでしまった。
そう、アランは剣術を習ったことが無いため戦い方が自己流である。
ケイトはハンマーの使い方を誰かに習った事があるのだろうか?
皆それぞれ、どうやって戦い方を身に着けているのだろう?
今度戦う所を見せてもらえたら何か参考になるかもしれないな。
・・・そろそろ眠くなって来たので寝ることにした。