第19話
朝早く、マリッサ・リズがバオの宿屋にやって来た。
「これが、その缶なのですね。」
ケイトから受け取った缶をシゲシゲと見るマリッサ。
「無限増殖の仕組み、解明出来るといいね!」
ケイトがマリッサに言った。
「はい、きっと解明してみせます。」
マリッサは深々とお辞儀をする。
久しぶりにアランとケイトは一緒にクエストをやる。
「1週間も店番してたから、戦い方を忘れちゃったよー。」
「はは、そうかもしれませんね。」
「で、どこに行く?」
「ケイトさん。今日は黄色の砂漠に行ってみませんか?」
珍しくアランが提案する。
「いいよー。砂漠ってことは、飲み水をちゃんと用意した方がいいね。」
「水筒を買っていきましょう。」
「OK!商人広場に行こう。」
商人広場で冷たいお茶と水筒を買う。
カバンの中に買い足した治療薬が入っているが、脱水症状には効かないので
しっかり水分を用意していかないといけない。
「チョコでいっぱいお金稼いだから、このくらいの出費は痛くも痒くもないね!」
そう言ってケイトはがま口を・・・。
「あれ?」
「どうしました?」
「ボク、がま口失くしたみたい。」
「なんですって!?」
念のため肩掛けカバンの中をゴソゴソ引っ掻き回すが見つからない。
「ひええええ!?」
パニックになるケイト。
「とりあえず、今は私が払いますね?」
宿に戻り、受付のマリーに調べてもらう。
「どのような特徴の物でしょうか?」
「えっとね。このくらいの大きさで・・・。」
手を動かして説明するケイト。
「青い革で出来ていて、花の刺繍が入っているんだ。」
「そのような物は、ありませんね。」
「落とし物、多いんですか?」
アランは聞いてみた。
「お客様の個人情報に関わりますので、お教えする事は出来ません。」
マニュアル通りの対応をするマリー。
「どうしよう。」
ケイトは落ち込む。
「朝は、あったんですよね?」
「うん、10ゴールド入れたの覚えてる。」
「それを、カバンにしまった?」
「うん。・・・・・・うん?」
ケイトがハッとする。
「違う!部屋の机に置いたんだ!!」
とケイトは叫び、自分の部屋に走っていった。
黄色の砂漠へは、乗り合い馬車で移動する。
青い水晶洞窟の次の駅だが15分かかる。運賃も片道で8シルバーだ。
「がま口、あって良かったです。」
「うん、ボクの大事な物だから、失くしたんじゃなくて良かったよ。」
がま口を手に持ってケイトは言う。
「このがま口はね、ボクのお父さんが作って、お母さんが刺繍した物なんだ。
旅をするのに、必要だろうって用意してくれたんだよ。」
「そうだったんですか。」
「アランのお父さんやお母さんは、どんな人なの?」
「私には、父も母も居ません。」
「え!?」
「孤児なんです。孤児院で育ちました。」
「ごめんね。デリカシー無い事聞いちゃった。」
「いいえ。いつか話さなくてはと思っていましたから。」
「・・・・・・。」
黙ってしまったケイト。
「ケイトさん。ケイトさんの兄弟の話が聞きたいです。話してください。」
「・・・・・・。」
「私には兄弟が居ないので、興味があります。」
「うん、わかったよ。」
ケイトは口を開いた。
「ボクの弟と妹は、全部で18人居るんだ。」
「すごいですね。」
「男の子が7人で、女の子が11人だよ。」
「ボク、次がメリー、ユリー、カイト、ルリーとルイトが双子で、
ミリー、モリー、アイト、ヨリー、ナリー、ネリー、
シイト、マイト、ノリー、コリ―、サリー、ヒイト、ライト。」
「お、覚えるのは大変ですね。」
「ボクを含めてイトがつくのが男の子で、リーがつくのが女の子なんだ。」
「へぇ。」
「1番歳が近いメリーは、積み木遊びが好きでね。
将来は建築家になるって言ってたよー。」
「一緒に遊んだりはしなかったんですか?」
「ボクの積み方に、いちいち文句言うからさー。
一緒に遊ぶのつまんなかったんだ。」
「なるほど?」
「ユリーは花粉症なんだよね。よくお父さんにくっついていたなー。」
「ケイトさんのお父さんは、ごく普通の人間なんですよね。」
「お母さんの一目惚れだったんだってー。」
「すごい美男子だったんですね?」
「そうなのかなー。」
ケイトは難しい顔をした。
「カイトはね、お母さんに似てはいるんだけど。
花を触ると、それがしおれちゃうんだ。」
「花がしおれる?」
「一瞬ピカピカになった後、急にしおれちゃうんだー。」
植物を育てるには、木と土と水、それと光と闇が上手くバランスが取れないと
上手く育たないと本で読んだのを思い出した。
何かの属性の魔力が強すぎたり、弱すぎたりするのだろうか?
ケイトの沢山の兄弟の話をしていたら、あっという間に目的地に着いた。
『オレンジサボテンの実を30個採ってきてください。報酬2ゴールド。』
クエストを読み上げるケイト。
「サボテンって実がなるんですね。」
「ドラゴンフルーツって聞いたことない?」
「ある気がします。」
「オレンジサボテンは、オレンジ色のドラゴンフルーツを実らせるんだよ。」
「サボテン自体がオレンジなわけでは、無いのですか?」
「違う違う。」
ケイトは、植物に詳しい。
2人は、カラカラに乾いた砂漠を歩いて行く。
「喉が乾きますね。」
「そうだねー。お茶持ってきてよかったね。」
「あのサボテンはオレンジサボテンでは無いのですか?」
アランが、丸く綿毛の生えたサボテンを指差す。
「うーん。違うよ。あれは麻酔になるんだ。あ、ランランが欲しがるかな?」
「採っていきますか。」
「気をつけて採取しなきゃ。液が体に入ると眠くなっちゃうからね。」
「そうなんですか。」
ケイトは本当に植物に詳しい。
ケイトがナイフで丸いサボテンを切り取った。
そして袋に入れ、液が漏れないようしっかり口を結んだ。
「あ、あれだよ。あれがオレンジサボテン!」
ケイトが別のサボテンに向かって走り出した。
なんだか松ぼっくりみたいな形のサボテンだ。
ケイトが見つけたオレンジサボテンは、オレンジ色の花が咲いていた。
しかし、実がついてはいなかった。
「あの、ケイトさん。」
「何?」
「ケイトさんのお母さんは、サボテンも育てられるんですか?」
「そうだねー。出来るよ!」
「出来るんですか。」
「近くを探せば、実がついてるのがあると思うよ!」
「あの、ケイトさん。」
「どうしたの、アラン?」
「ケイトさんのお母さんって、何でも育てられるんですか?」
「そうだけど、何で?」
「もしかして、マンドラゴラを生やしてしまったという事は・・・?」
「あった、あった。小さいのだったから、お父さんが燃やして処分したけど
あのときは大変だったよー。ボクは1週間気を失ってた。」
「それは危ないですね。」
「ボクのお母さんって優しいけど、おっちょこちょいなんだよねー。」
ケイトがふと立ち止まって、空を見る。
「今頃、どうしてるのかなー。」
「手紙でも書いたらどうでしょうか?」
「いいねー!アランの事も書こうっと!」
2人はオレンジサボテン探しに戻った。
松ぼっくりに似たサボテンの1番上のところに実があった。
「これですね?」「うん。」
アランがもぎ取って、さっきの麻酔になるサボテンとは別の袋に入れた。
「これを、あと29個ですね。」
「頑張ろう!」
2人は手分けして、オレンジ色のドラゴンフルーツを集めていく。
「・・・・・・28個です。」
「・・・・・・29個だね!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
あと1個なのだが、その1個が、なかなか見つからない。
「あ、ブー・フブーブだ!」
ケイトが叫んだ。
「・・・?」
「あの木の事だよ!」
と言うと、巨木に向かって走っていった。
高さ40メートルはありそうな、大きな大きな木。
幹は、直径10メートルはありそうだ。
「んー、実は、なってないね。」
「何なんですか?ぶー・ふぶぶって?」
「ブー・フブーブっていうのは、利用価値の高い植物!
実や種が採れると、食べたり、油を取ったり出来るんだよ。」
「いろいろ使えるとなると、他の冒険者にも人気がありそうですね。」
「そうだねー。たぶん他の人が先に見つけちゃったんだろうね。」
ケイトは残念そうな顔をしている。
「とりあえず、オレンジサボテンの実を見つけなくては。」
「そうだった。探そう。」
2人は、辺りをウロウロしながらオレンジサボテンを探す。
10分ほど歩き回って、ようやく最後の1つを見つけた。
「ケイトさん・・・。」
「何?アラン?」
「帰り道は、こっちで合っていますか?」
「え?アラン、わからないまま歩いてるの!?
ボク、何も考えずに、アランについていってるだけなんだけど!?」
「な、なんですって!?」
「ボク達・・・迷子だ・・・。」
「まだ帰ってないの?」
心配そうな顔のリンコ。
「そうみたいだね。」
シド・ファが言う。
食堂、4階組のテーブル。話題はアランとケイトの事だ。
「昼食だけなら、まだしも、夕食にも姿を見せないとなると心配だね。」
ディークがスープを飲みながら言った。
「おい。オレも混ぜてくれないか?」
ベガルがひとりぼっちのテーブルから声をかける。
3階の食事付きはアランとケイトとベガルだけなので
ぽつんと1人でツナサラダを食べているベガル。
「わたし、2人が黄色の砂漠方面の馬車に乗るところを見たよ。」
レミ・ファが思い出して言った。
「オレの事は無視か!?」
「ベガル、空いてる席に座っていいから、静かにしてくれ。」
ディークがイラッとしながら言う。
「すまん。」
コソコソと移動するベガル。
「・・・黄色の砂漠は、初心者が迷いやすいんだよね。」
ディークが腕組みをする。
「もしかして2人は、今頃迷ってる?」
「帰れなくなっちゃったのかな~。」
「そうだとしたら、探しに行ったほうがいいんじゃない?」
皆ワイワイと話をしている中、黙々とリンゴをかじっているヨル・ヒック。
「・・・・・・。」
ピンポン玉サイズの水晶玉を取り出したヨル。
「・・・・・・。」
ヨルは、突然立ち上がった。
「・・・?ヨル、どうしたの?」
レミがキョトンとする。
一同静まり返る。
「・・・・・・。心配いらない、2人は無事に帰る。」
「いつ帰ってくるの~?」
シドが聞いた。
「・・・・・・。わからない。」




