第1話
「それでも私は・・・伝説の勇者になるんです!」
「そうか、とめても無駄か。」
「管理人さん忠告どうもありがとうございます。でも私は決心したんです。」
金髪に緑目の青年アラン・ケタブリルはクエスト管理人にお辞儀をした。
「クエスト管理が仕事だから戦いについては良くわからんけどさ
あんたみたいにガリガリに痩せてるのは1週間もしないうちに見なくなるな。
どっかでモンスターにやられたか。旅を放棄して故郷へ帰ったか。」
「私はそんな事ありませんよ!」
アランはにっこり笑って答えた。
「まぁ言うだけなら簡単だからな。
じゃ、好きな依頼を掲示板から選んでけ。新米冒険者さん。」
クエスト管理人は無愛想に答える。
「はい!」
アランはもう1度お辞儀をすると早速掲示板の方へ歩いて行った。
木でできた板が沢山立てて並べてある。
板には黒い画鋲で依頼(クエスト)が留められている。
『赤いレンガの小路にゴブリンファイターが現れました。
華麗にやっつけちゃってください。報酬55シルバー。』
『青い水晶の洞窟にある水晶をとってきて下さい。
水晶1個につき2ゴールドと交換します。』
『緑の森(奥地)のキンイロスナトカゲを生け捕りにして
つれてきてほしい。1匹につき10ゴールド。』
この世界の通貨は100シルバー=1ゴールドなので
緑の森のクエストは1000シルバー分の報酬が貰えるという事だ。
かなり難易度が高そうなので、これはやめておこう。
やはり赤いレンガの小路かな?
まだ1度も戦闘を経験してない自分でも大丈夫なのだろうか??
55シルバーは結構な金額だし(治療薬を買うのに2シルバーくらいかな)
もう少し、やさしそうなクエストを探すべきかもしれない。
『紫の田園。ネズミ退治してくれる人募集。
10匹につき6シルバー。』
このクエストは初心者向きなんじゃないかな。
よし、これにしよう。
そう思った瞬間。
「もーらいっ!」
横から手がスッと伸びてきてクエストをはがした者がいた。
「あ・・・」
アランは固まった。
青緑のロングヘアの女の子。
見た目はアランより若そうだが、どうなのだろうか?
竜族だったり獣族だったり、そういう血をひいてると
見た目は若くても年が上ということもある。
「もしかしてキミもこれやりたかったの??」
イチゴみたいに真っ赤な目をしている女の子はアランのほうを向いてきいてきた。
「いや、譲ります。まだクエストはいっぱいありそうですし。」
「あー、やっぱり、やりたかったんだねキミ!」
「気にしないでください。ここはレディファーストということで・・・」
「レディ?」
キョトンとする女の子。
と次の瞬間大きな声で笑い出した。
「レディ!?ボクのことレディだって?ぶっはははは!!!」
「え?」
もしかして男だった?
「よく間違えられるけどね、いやぁレディか・・・くすくす・・・。」
「・・・・・・。」
アランは固まったままでいる。
「やだなー、そんな顔しないでよ。」
まだ笑っている女の子・・・みたいな男の子。
「ボクはケイト。ケイト・ポリフェン。」
「あ、そうですか。私はアラン・ケタブリルと申します。」
2人は同時にお辞儀をした。
「じゃあさアラン。このクエスト2人でやろうよ!」
「ええ?いいんですか!?」
「これ反復クエだからさ、1人でやるとすぐ飽きちゃいそうだしさ!」
反復クエストというのは複数回クリアできるクエストのこと。
このネズミ退治の場合は10匹倒して終わりにすることもできるが
もう10匹、さらに10匹……と依頼主がクエストを取り下げるまで
クリアし続けることができる。報酬も6・12・18……と増えていく。
「ではぜひお願いしますケイトさん。実は1人じゃ心細くて。助かります。」
「OK!報酬はそれぞれ半分ずつねー。」
2人はそろって紫の田園に行くことにした。
魔法陣という物を利用したりあるいは呪文でワープしたりすれば
素早く移動出来るが、2人にはそれが無いため徒歩で移動する。
「10分も歩けば着く距離ですね。」
「そうだね!
・・・・・・キミ地図見てるけど初めて行くの?」
「はいそうです。これが初めてのクエストなんですよ。」
「冒険者デビューしたばっかり!?
おおーボクも昨日からだから似たような者だよ!」
「そうなんですか。」
ケイトはピョンピョン飛び跳ねながら言う。
「ボクはね、魔族の地位向上を求めて旅に出ることにしたんだ。」
「魔族・・・ですか!?」
「魔族って聞くとさ・・・
みんな悪いヤツだと思うでしょ?キミも身構えたよね。」
「申し訳ありません。」
「いいのいいの気にしないで!
ボクのお父さんは人間なんだけどお母さんは魔族でね。
みんなの依頼とか困ってる事を解決して有名人になって政治家になるんだ!」
「そして政治の力で世の中を変えるんだよ!」
キラキラした赤い目で語るケイト。
どうしよう・・・アランは下を向いてしまった。
ケイトの旅の目的は立派だ。自分の場合は伝説になりたい、ただそれだけ。
なんだか恥ずかしくなってしまった。
「けほんっ ケイトさんは
・・・あのこれ聞いてもいいのかわからないのですが。
おいくつなんですか?私は17歳なんですが。」
「お!同じだ!ボクも17だよ。
まだ選挙には出られないけど今から準備しなくちゃと思ってるよ。」
投票権すらまだなのに・・・。真面目だ。
ますます恥ずかしくなってきたアランであった。
「でさぁ。アランの旅の目的は?」
「うっ・・・。」
「なんか無いの?病気の家族に仕送りするためとかさ?」
「じ、実は私・・・その・・・。」
黙るしか無いアラン。顔が赤くなり汗が出てきている。
「もしかして・・・なんか旅人ってカッコイイから!?」
「うっ」
そんなようなものだ。
「そっかー。きみマジメそうなのにミーハーなんだねー。」
ケイトはニヤニヤしている。
「そ、そろそろ目的地に着きますよ。」
「依頼した人はどこかなー?」
ケイトの耳は少しだけ尖っていて、その耳がピクピクと動いている。
「どこでしょう・・・あ、あの人っぽいですね。」
赤茶色の屋根の家がぽつんとあり、その前に白髪のおじいさん。
黄色いチェック柄のベレー帽を被っている。
「こんにちは、ネズミ退治のクエストやりに来ました。あなたが依頼人ですか?」
アランは尋ねる。
「君達が受注者かい。どうぞよろしく。」
おじいさんは言った。
「キャベツ畑にネズミが、もう、たーくさん出て大変なんだ。
倒せるなら倒せるだけいっぱい退治してくれるとありがたい。」
「わかりました!」
ケイトが元気よく答え走り出す。
「ちょっケイトさん・・・。
あの、キャベツ畑はどっちへ行けばいいのですか?」
「ここから西へ行った所だね。
ねずみがうようよいるから行けばわかるよ。」
「ありがとうございます。」
アランはお辞儀をした。
「ってケイトさんっ待ってくださーい!!」
走って追いかけることになるアランであった。
「・・・。」「・・・。」
2人は絶句している。
想像以上だったからだ。ネズミの大きさが。そして数も。
ふつうのネズミの5倍くらいの大きさ。
キャベツ畑を埋め尽くす巨大ネズミ達。
「こう言っちゃナンだけどさ・・・報酬ケチってるよ。あのおじいさん。
10匹倒してたった6シルバー・・・2人だから3シルバーになっちゃうし。」
ケイトの耳が垂れて、しょんぼりしているのがよくわかる。
「受けた以上は、まず10匹やりましょう。」
ブロンズ製のロングソードを抜くアラン。
今朝商人広場で買ったばかりの新品だ。
「まっ、そうだよね。よーし頑張るよ!」
木製のハンマーを取り出すケイト。
昨日旅に出たばかりだから、やはりまだ新しい物だ。
「うりゃっ!」
「やー!」
~30分後~
「えいっ・・・やぁ・・・。」
アランは息が切れている。
「とぉー・・・えーい・・・。」
ケイトは少しだけ青い顔になっている。
「そろそろ・・・終わりに・・・したいのですが。」
「そうだね・・・もうオシマイにしようか・・・。」
2人とも武器をしまった。
「50匹ですね。」
「けっこう頑張ったねー。よし、おじいさんに報告しに行こう!」
「・・・それにしてもさ、どのくらい倒したか数えてないけど
どっちが多く倒したのかなー。どっちでもいいけどちょっと気になる。」
「そうですね、数える余裕なんてありませんでした。」
「あーっ疲れた。今日はこの辺で宿に帰ろうっと。ねーアラン!
よかったらさ、今日だけじゃなくて明日も一緒にクエストしようよ!」
「・・・!?」
「ダメ?」
「ありがたいです!私もそうしたいです!
もしよければ・・・明日だけじゃなくて、これから一緒に旅しましょうよ!」
「おお!いいねいいね!決まりだね!
旅を始めて2日目で仲間が出来るなんてすごーい。」
ケイトの耳がまたピクピクし始めた。
「ははっ私なんか初日ですよ。」
アランがにっこりしている。
「あ、おじいさんだ。おじいさーん!50匹頑張りましたっ!」
「ああ。30シルバーだね。15シルバーずつに分けておいたから。」
「親切にありがとうございます。」
「いや、助かったから。だいぶネズミが減ったよ。」
おじいさんは2つの袋をアランとケイトにそれぞれ渡した。
「では、さようなら!」
「ボクの泊まってる宿に空きがあるなら、そこに泊まればいいと思うよ。」
「そうですね、空きがあればそうします。」
アランは財布の中身をチラッと確認した。
「・・・1泊いくらぐらいなんですか?」
「10シルバーだよ。」
「今日の稼ぎの3分の2ですか。」
「最初はそんなもんじゃないかな?
あ、ここだよ。バオの宿屋ってとこ。」
2人は抹茶みたいな色をした建物に入った。
広いロビー。何人かの冒険者が奥のテーブルの脇で雑談をしている。
受付の人はピンクの髪をしていて濃い緑の制服を着ている。
胸につけている名札にはマリー・マカロニと書いてある。
「305号室のお客様おかえりなさいませ。
お連れ様はお泊りの方ではないようですが?」
「アラン・ケタブリルと申します。
空きがあれば泊めて頂きたいのですが?」
「なるほど、今お調べしますので少々お待ち下さい。」
「丁度306号室が空いていますのでそちらでよろしいでしょうか?
1日あたりの利用料金は食事がついていないプランで10シルバーです。」
「食事つきだとどうなります?」
「3食ついて35シルバーです。」
「・・・。食事無しでお願いします。」
アランは鍵を受けとった。
部屋に行く前にロビーにいる他の冒険者にあいさつしておかないと。
そう思ったアランは談笑している集団のほうへ歩いていった。
いつの間にか集団の中にケイトがいた。
「やっぱり、あのおじさんってケチってるよね?」
青髪の男がうなずく。
「あんまり割が良くないよ。
田園の中でもピンクのエプロンつけてるおばさんのほうが
もう少し報酬くれると思うね。」
「そっか!こんどはその人のクエスト受けたほうがいいのか。」
今度は赤髪の男が言う。
「最初は、なかなか大変だろうけど
田園の依頼は比較的ラクだからそこに通うのがおすすめかな。」
「そしてお金を貯めていい武器とか防具とか買って。
もう少し難易度上げたクエストをこなしていく!」
クリーム色の髪の女が言った。
「なるほどね。ボク全然装備を整えてないからネズミ相手にも苦労したよ。
・・・あっアランだ!こっちおいでよ!いろいろ先輩達から聞いてたんだ!」
「綿のシャツ。革のパンツ。
ブロンズロングソード。いかにも新人ってかんじだね。」
「今日から旅に出ることにしました。アラン・ケタブリルと申します。」
「俺ディーク・ソルトン。」
と青髪の男。
「オレはベガル・クリムト。」
赤髪の男。
「リンコ・バーバラ。
ねぇ、どこの部屋になったの?」
クリームの髪の女。
「306号です。3階ですね。」
「あら、あたしの下の部屋かも!
相棒の犬がいるんだけど足音とかうるさかったらゴメンね。」
リンコが舌をペロッと出して言った。
「犬ですか?」
「そう!ドーベルマンでハリーって名前なの。」
「ベガルより強いかもしれないね。」
ディークがニヤリとしながら言った。
「犬と比べるんじゃない。」
ベガルが苦い顔をした。
「いいなー。おとも、ボクも欲しいな!」
ケイトが身を乗り出す。
「餌代が払えるようにならないと飼えないからね。まぁ頑張れよ。」
ディークが言った。
「ペット・・・か。」
アランは1人部屋で考えていた。
今朝商人広場を覗いた時に何匹か売られているペットを見た。
トカゲ、カエル、犬、猫、フクロウ、オウム。
様々なペットが売られていた。
自分だったら何が欲しいかな。
野生の動物を懐かせて飼うのもいいな。
そんな事を考えているうちに意識は遠くなっていった。