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レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞 2 「新たな敵」  作者: 橋本 直
第二十四章 通常勤務

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護衛

「なんだ、早かったな」 


 声に気づいて振り向けばカウラが立っている。普通の隊員は隊で着替えるはずなのだが、彼女は東和軍の夏季勤務服の半袖のワイシャツ、そして作業用ズボンという奇妙な格好をしていた。


「何か気になることでもあるのか?」 


 カウラはいかにも不思議そうに尋ねてくる。おしゃれなどには関心のないカウラらしいと言えばそれまでだが、定時前に制服を見せられて誠は少し食傷気味だった。


「その格好でいつも……」


「そうだが、気になることでもあるのか?」


 カウラはそう答えると玄関の下駄箱から革靴を取り出す。


「相変わらずおしゃれなんてどうでも良いって格好じゃないの、カウラちゃん。私服とか持ってないの?」 


 声の主、アイシャの方を振り向いて誠は後悔の念に抱かれた。そこには誠も見ている深夜アニメのファンシーなキャラクターのTシャツを着たアイシャが歩いてくる。


「貴様の方がよっぽど恥ずかしいと思うが」 


「大丈夫、見る人が見ないとわからないから」 


 確かにそのキャラクターが実はヤンデレで最終回に大虐殺を行う内容だったために打ち切りにされたアニメのキャラだと言うことは一般人は知らないだろう。誠はそう思いながら得意げなアイシャに生ぬるい視線を送る。


「お前等、本当に頭ん中大丈夫か?」 


 タンクトップにジーンズ。ヒップホルスターに愛用の銃を挿したかなめが笑う。かなめもアイシャも、そして誠も唖然としながら彼女が寮を出るのを見送った。


「ちょっと待ちなさい!かなめちゃん!」 


 アイシャがかなめの肩をつかむ。そしてすばやく拳銃を抜き取った。


「かなめちゃんもしかしてこのまま歩こうとしてない?」 


「だってアタシ等コイツの護衛だぜ?銃の一挺くらい持っているのが……」 


「だからって抜き身で持ち歩くな」 


 カウラの声で渋々かなめはアイシャに銃を任せた。アイシャは手にしたバックに銃を入れる。


「これからはこう言うものを持ち歩きなさい」 


 アイシャは手にしたブリーフバックを指し示した。その重そうな持ち方から見て、彼女の愛用の拳銃H&K・USPピストルが入っていることは間違いないと誠は思った。


「それじゃあ行くぞ」 


 銃を奪われたもののアイシャの言いたいことはよくわかるので、かなめは黙って遼の玄関を出る歩き始める。夏の日差しはもうかなり上まで上がってきていた。アイシャは通り過ぎる猫を眺めながら取り出した扇子を日よけ代わりにしている。


 寮の駐車場は半分ほどが埋まっていた。今の時間に止まっているのは夜勤か遅番の隊員の車が大半である。ここまできて自分のバイクで出勤しますとはいえない状況に誠は運転するだろうカウラを見つめていた。


「早く開けろ。暑いんだから」 


 カウラのスポーツカーの前でかなめが呟く。またため息をついたカウラはオートロックを開いた。カウラは助手席のドアを開き、シートを倒すとそのまま後部座席に滑り込む。


「こっち来い!」 


 そう言うとかなめはサイボーグならではの強い力で誠を後部座席に引きずり込んだ。


「そんなに強く引っ張らなくても……」 


「がたがた言うな!カウラエンジンかけろ、それから窓も開けるんだぞ!」 


 かなめの言葉に少し不愉快そうな顔をしながらカウラはエンジンをかけ、そのまま窓を開けた。


「今の時間だと駅前に向かう道は全部ふさがってるわね。裏道で行きましょ」 


 アイシャはそう言いながらナビを設定している。


「そうだな。引越しした直後に遅刻と言うのもつまらないからな」 


 そう言うとカウラのスポーツカーはすばやくバックし、そのまま切り替えして駐車場を出た。


「狭いなあ。カウラ、車買い替えないのか?」 


 かなめの言葉を無視してカウラはアクセルを吹かす。後ろを覗き込んでかなめと誠が密着しているのを見てアイシャは気に入らないというようにこめかみを振るわせながらバックミラー越しに二人を凝視していた。。


「あら、かなめちゃんは良いんじゃないの?このままのほうが。誠ちゃんとラブラブごっこが出来るじゃない」 


 一瞬、アイシャの言葉が理解できなかったかなめだが、その視線でアイシャが何を言おうとしているのか理解すると誠の足を踏みつけた。


「痛いですよ!西園寺さん!」


 誠は痛みの叫びをかみ殺してそう叫んだ。


「空が高いや。空気は夏の気温だがもう秋かねえ」 


 痛みにうずくまる誠を見ながらかなめは外からの風に短めの髪をなびかせていた。カウラは誠に同情するようにバックミラーの中で笑みを浮かべている。


「じゃあクーラーは要らないな」 


「おい、風情ってモノの話をしただけだ。ちゃんとつけろよ、クーラー」 


 かなめに言われなくてもカウラはもうすでにクーラーを動かしていた。


「こんな道あったんですね」 


 住宅街の中。大通りなら渋滞につかまって動けなくなる時間だと言うのに確かに回り道とは言えすいすいとカウラの赤いスポーツカーは走る。


「このルートの方が早いのよ。まあ、誠ちゃんは原付だから渋滞とか関係ないものね。中央大通りを走れれば確かに一番早いんだけど渋滞があるから……」 


 アイシャは涼しげな目を細める、細い路地、他に車の姿は無かった。そして住宅街を抜けると一面の田んぼが広がっている。


「ここから先はどう行っても大丈夫よ。まあ、最後は菱川重工の正門で工場ラインの出勤組みの渋滞につかまるでしょうけど」 


 アイシャが伸びをする。カウラはそのまま細い農道を飛ばしている。


「そう言えば今日はおせっかいな胡州海軍の面々とかもついてこないな」 


 大きなあくびをした後、かなめはそうつぶやいた。


「ああ、それらしい連中なら駐車場を出て住宅街の中でまいたぞ」 


 あっさりとカウラはそう言った。


「カウラ、お前なあ。せっかくの胡州の税金使って護衛してくれるって言う連中まいてどうすんだよ」 


 至極もっともなかなめの突っ込みにカウラが笑みを浮かべた。車は菱川重工豊川の正門へと続く通称『産業道路』に出た。トレーラーが次々と走っていく中、カウラはタイミングを合わせてその流れに乗った。


「何とか間に合いそうね。カウラちゃんこれ食べる?」 


 アイシャはガムを取り出し、カウラを見つめた。カウラはそのまま左手を差し伸べる。


「アタシも食うからな。誠はどうする?」 


「ああ、僕もいただきます」 


 ガムを配るアイシャ。六車線の道路が次第に詰まり始めた。


「車だと通用門の検問でいつもこれだもんね。どうにかならないのかしら」 


「ここじゃあアサルト・モジュールや戦闘機なんかも作ってるんだ。セキュリティーはそれなりに凝ってくれなきゃ困る」 


 工場前での未登録車両の検査などのために渋滞している道。ガムを噛みながらかなめは腕を組む。しかし、意外に車の流れは速く、正門の自動認識ゲートをあっさりと通過することになった。


 車は工場の中を進む。積荷を満載した電動モーター駆動の大型トレーラーが行きかうのがいかにも工場の敷地内らしい。


「誠ちゃん、よく原付でこの通りを走れるわね。トレーラーとかすれ違うの怖くない?」 


「ああ、慣れてますから」 


 アイシャの問いに答えながら、すれ違うトレーラーを眺めていた。三台が列を成し、荷台に戦闘機の翼のようにも見える部品を満載して大型トレーラーがすれ違う。四人の顔を撫でるのはトレーラーのモーターが発する熱風ではなくクーラーから出る冷気だった。カウラは工場の建物の尽きたはずれ、コンクリートで覆われた司法局実働部隊駐屯地へと進んだ。


「身分証、持ってるわよね」 


 アイシャがそう言いながらバッグから自分の身分証を出す。


「それとこれ、返しとくわ」 


 アイシャに彼女の愛銃、スプリングフィールドXDM40を渡した。いつも通り通用口の警備室では警備部部長マリア・シュバーキナ少佐の部下の警備担当宿直隊員への説教が続いていた。


「意外に早く着いたんじゃないの?」 


 カウラの車を見つけて振り返ったマリアが説教を止めて開けた窓ガラスに顔を近付ける。かなめは誠の身分証を受け取ると自分のものと一緒にカウラに渡した。


「すまんな、おとといの正体不明の敵に神前達が襲われた一件で警備はしっかりとの本部からのお達しがあってな。手間をとらせてすまん。一応私達も公務員だ上の指示が出たら……我慢してくれ」 


 マリアは受け取った四人の身分証を詰め所の部下に渡す。マリアが言うことが海で出たアロハシャツの襲撃者のことだと思い出して誠は苦笑いを浮かべた。


「しかし、大変よね、マリアも。全員チェックするようになったの?」 


「まあな。同盟機構の政治屋さん達に一応姿勢だけは見せとかないといけないだろ?」 


 アイシャの問いに答えるマリアに部下が身分証を手渡した。ゲートが開き、そのまま車が滑り込む。シャムのとうもろこし畑は収穫を終え、次の作付けの機会を待っていた。カウラはそのまま隊員の車が並ぶ駐車場の奥に進み停車した。


「もう来てるんだ、茜ちゃん」 


 助手席から降りたアイシャが隣に止まっている白い高級セダンを見ながらそう言った。


「アイシャ!遅いわよ!」 


 誠とかなめが狭いスポーツカーの後部座席から体を出すと、その目の前にはサラが来ていた。


「おはよう!別に遅刻じゃないでしょ?」 


「おはようじゃないわよ!四人とも早く着替えて会議室に行きなさいよ!嵯峨筆頭捜査官がもう準備して待ってるんだから」 


「どこ行くの?サラ」 


「決まってるじゃないの!歓迎会の準備よ!」 


 サラはそう言うとそのまま走り去った。とりあえず急ぐべきだと言うことがわかった誠達はそのまま早足でハンガーに向かった。


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