表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉱物  作者: 霞水乱夢
7/7

六章 願い





君がいなくなってからの僕は、幾度も“淋しさ”に呑まれ、

淡い黄緑の影を落としながら想い出に沈んだ。


けれどその度に、君の孫は気づいて優しく寄り添い、

話しかけてくれた。


そんな君に似て優しい孫は、

今では僕にとって「君」と呼ぶ存在になっていた。



キミが亡くなって一年ほどが過ぎた九月。

僕と君は墓参りに来た。


墓石の近くには、赤や白の彼岸花があちこちに咲き乱れている。


君は丁寧に墓石を掃除しながら、キミに話しかけ始める。


家族のこと。

仕事のこと。

最近行った岩山で、珍しい鉱物を見つけたこと。

貰った僕を今でも大切にしていること。


他にもたくさん話した後、

君は墓石の前に布を敷き、僕をそっと置くと、

背を向けて静かに座った。



『……久しぶり、会いに来たよ。


いつもはお互い一方的に話していたけど、

今度は僕だけ一方通行になってしまったね。


……キミはどうしてる?

今も僕らのこと、見守ってくれていたりするのかな。

それとも、変わらず鉱物採取に行ってる?


もし……キミとまた会えたら、そのときはキミと……。』



キミに話しかけていると、ふと思い出す。


初めて言葉を交わしたあの夜、キミが教えてくれた。


橄欖石カンランセキの石言葉――《幸福》



『……僕は、キミを"幸せ"にできていたのかな。』



“淋しさ”に呑まれ始めた僕に、

君は何気なく気づく。



「……また、会いに来よう。」



君は微笑みを浮かべながら、優しい手つきで僕を持ち上げ、

歩き始める。


君の背中を押すように、ふわっと風が吹く。



“……またね。ペリドット”



風に乗って聞こえた優しい声。


僕のことをその名で呼ぶのは、

硬い岩の闇から見つけ出してくれたキミしかいない。


涙は流せないけれど、それでも堪えきれなかった。


またキミの声で、その名を呼んでもらえるなんて――。


でも君には聞こえなかったようで、そのまま遠ざかっていく。



『お願い……。少し、振り返って……。』



そう呟きながら目を閉じた。



ヂカッ………



僕は無意識のうちに夕陽の光を集めたのか、

少しだけ強く光った気がした。


君は僕を見下ろし、足を止めて振り返る。



けれど、そこにはなにもなかった。



俯く僕の頭上から、ポツリ、ポツリと何かが落ちてきた。


見上げれば、君が涙を流していた。


その涙越しに見えたのは、キミの姿。


キミはあの日と同じように、

僕らを優しい眼差しで見つめていた。



君は啜り泣きながら、僕に話しかける。



「……また、会えたね。」




『……そうだね、“嬉しい”ね。』



そっと応えた僕も、君の涙に濡れて、

“泣いている”ようだった。


でも暑い夏に流した涙は、すぐに乾いてしまった。


それでも、

あの声で名を呼んでもらえたこと、

キミにもう一度会えたこと。

それだけで、この上なく“嬉しかった”。



蝉の声が鳴り止まない帰り道、

僕と君はまた会いに来る約束をした。



僕が橄欖石カンランセキで良かった。


陽の光、月の光の下でも、

また君とキミに会いに来られる。


この先、どれほど生きるのか分からないけれど。


それでもキミのこと、共に過ごした日々、

想い出させてくれた数々の“感情”を絶対に忘れない。


これからも、きっと、ずっと。




気づけば、辺りはすっかり日が暮れていた。



『キミといつか本当に話せる日がきたらいいのに……。』




澄んだ夜空に、一筋の流れ星が遠く長く流れていく――





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


失うものと、残りゆくもの。

この物語が、読んでくださった皆さんの中に少しでも

残っていたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ