二章 巣立ち
あれから君は、少しずつ部屋の整理を始めていた。
段々と、物が減っては増えていく段ボール。
君がいない日の夜、君の両親は静まり返ったこの部屋を、
度々眺めにくるようになった。
僕に意思があるなんて知らないはずの君の両親は、
それぞれ一人の時にやってきて、棚から僕を両手でそっと持ち上げる。
あの日の君のように、僕を月明かりに透かしながら、
優しく、それでいて寂しそうな表情で話しかけてきた。
「あの子のこと……お願いね。」
「……頼んだよ。」
伝わりはしないだろう。それでも。
『まか……きっと大丈夫です。きっと。』
そう二人の手に祈りを込めるように伝えた。
もし僕がヒトだったら、“任せてください”と胸を張って言えたかもしれない。
けれど鉱物である僕には、随分無責任に感じて、
二人に聞こえないと分かっていても言えなかった。
この頃の君は仕事で忙しくなる前に、
よく友人たちと就職祝いの飲み会や遊びに出掛けていった。
その一方で僕は、
落ち着かない“何か”を感じ始めていた。
部屋はかなり物寂しくなってきた。
けれど、きっと全てを持っていくわけではないだろう。
就職が決まったと報告をしてくれた後、荷造りのために、
窓辺に飾られていた僕を棚へ移したあの日から。
君は、僕を見たり、触れたりしていない。
卒業論文の作成や就職活動で忙しかっただけかもしれないが、あれほど週末や長期休暇になる度、出掛けていた鉱物採取にも行っていない。
それを思い返した僕は、何気なく隣で仄かに輝く小さな鉱物たちに話しかけた。
『……あの、挨拶が遅れてすみません。
僕は、えっと……橄欖石と言います。
その、みなさんはなんという鉱物ですか?』
『…………。』
待ち続けても、返事はない。
『……………。』
僕は、鉱物たちに少し期待していたのかもしれない。
さっきまでより、一層冷たく感じる部屋。
『君は、僕を……。』
君のいない、段ボールまみれの部屋。
でも僕のいる棚には、鉱物たちがずらりと並んだまま。
遅めに帰宅しては、倒れ込むようにベッドで眠り始める君。
薄く雲に覆われた月の光は――
棚に飾られたままの僕を鈍く透かしている。
※次回更新は1月23日(金) 17時頃を予定しています。




