第二十二話・堕天した少しエロい格好の鎖ビキニ女です
落下してくるナリーポンの果実は、薄雲の中を通過していく間に、天使の女体に変わった。
極彩色の翼と飾り尾羽を生やし、今にも千切れそうな鎖ヒモのビキニアーマーの肉体を得た、青賀エルは意識を失ったまま魔王城敷地内にある密林へと落下していく。
エルの魂が入った肉体は、そのまま密林の中にあった石碑のようなモノに激突する。
「げはっ!!」
激突した衝撃で石碑が割れ、肉体を得たビキニアーマーのエルは地面にうつ伏せで倒れた。
しばらくして、割れた石碑から白い煙のようなモノがエルの方に流れ、体に入っていった。
煙が吸い込まれた体がビクッビクッと痙攣してから、意識を失ったエルの体は奇妙な動きをはじめる。
イモムシのような動きをしたり、トカゲのように四つ足で走り回ったり、ニワトリのように歩き回ったり。
最後にはカエルのようにしゃがんだ格好で「ゲコッゲコッ……グエッグエッ」と鳴くと、密林の中へ跳ねて消えた。
翌日から魔王城敷地内にある密林中央の、未確認生物や幻獣が平和に暮らす『優魔村』の食糧庫が荒らされ、食べ物が無くなる事件が続発した。
優魔村の広場には、保護された幻獣や未確認生物たちが、神妙な面持ちで集まっていた。
村の上空には、髪を染めたウィッグサイズの『フライングへアー』が旋回していて。
広場の池には淡水性のフジツボから鳥の雁が誕生してくる『フジツボガン』が群生している。
池の泥の中からは、頭から体の半分が山芋からウナギに変化した『ヤマイモウナギ』が顔を覗かせ。
池近くの『バロメッツ』の樹からは羊が次々と生まれ落ちて。
樹の下には鼻で歩く鼻行類の『ハナアルキ』と、頭がカニで体が子犬の『カニバンバニ』がエサを求めて歩き回っていた。
広場近くにある崖の斜面には所々に、露出している山のハマグリ──貝からスズメが派生する『ハマグリスズメ』の、チュンチュンと鳴く声が二枚貝の中から聞こえてくる。
集まっていた優魔の村人は……一角を生やした肉食性の獰猛なウサギ『アルミラージ』
猫科の猛獣で首だけがやたらと長い『マフート』
竜の一種の幻獣『ムシュフシュ』
巨大ウナギのような姿をしている『インカニヤンバ』
空中クラゲのような『スペースクリッター』や、アノマノカリスから空中生物に進化した『スカイフィッシュ』……『モスマン』『チュパカブラ』『ビッグフット』『ジャージャーデビル』などがいた。
猫の頭に女性の体をしたバステト神のような『ワンパスキャット』が、中央に杖を持って立つ『マンドラゴラ』の長老に訊ねる。
「いったい誰が、先々代の長老が悪しき動物精霊たちを封じ込めた石碑を破壊して、封印を解いたのでしょうか?」
マンドラゴラの長老がヒゲ根を触りながら言った。
「『チュパカブラ』の目撃した話しだと、エッチなビキニアーマーを身に付けた天使がカエルのように跳び跳ねて、ソーセージの束を口に咥えて逃げていくのを見たそうじゃ……チュパカブラもピョンピョン跳ねて追ったが見失ったそうじゃ。おそらく、そのエロい女天使が封印石を壊した犯人じゃろう」
「天使が? もしかして、天使の体の中に悪しき精霊が?」
「入っておる……肉体の争奪戦に勝利した『肉食カエル』の精霊が天使の肉体を支配しておる」
長老の言葉に優魔たちの、どよめき声。
頭にヘルメットを被り、ライダージャケットを着た『モンキーマン』が長老に質問する。
「これからどうするんだ長老さんよ、このままだと村の食糧全部、肉食のカエルに喰われちまうぜ」
長老は持っていた仙人杖をくるくると、回してからポーズを決めて言った。
「儂が村を守る! 先代の長老から、悪しき動物精霊が現れた時の対処方法は聞いておる」
その日の夕刻──マンドラゴラの長老は一人。
肉食ガエルの精霊が宿った、青賀エルの潜む洞窟へと向かった。
優魔村の者たちには。
「儂が朝になっても帰って来なければ、洞窟に様子を見に来てくれ」
そう言い残して。
朝になっても長老が帰って来なかったので、村の者たちが洞窟に行くと干からびた長老が倒れていて、青賀エルもうつ伏せで倒れていた。
「早く長老さまの体に、お湯を!!」
村人がマンドラゴラの長老にお湯をかけると、長老は復活した。
長老を介抱しているビッグフットが長老に訊ねる。
「いったい、この洞窟で何があったんですか?」
「秘術を使って、霊体になって天使の肉体に入り込み、肉食ガエルを説得した……天使が肉食ガエルの代わりに食べて食欲を満たしてくれれば、もう村の食べ物は奪わないそうじゃ」
村人の『カッパ』が、尻子玉を抜いてやろうとエルに近づくのを見た長老はカッパの行動を制する。
「その者に危害を加えてはならぬ……肉食ガエルと魂の契約を結ばせねば」
やがて、意識を取り戻したエルが、うつ伏せから上体を起こす。
「うぅん……ここドコ? あたし確か天界からナリーポンの肉体を得て……えっ! 何? このエロい格好⁉」
状況がまったく、分からないエルに長老が言った。
「契約を結ぶと言え」
「あなた誰?」
「いいから、言うのじゃ」
「……契約を結ぶ」
エルの心臓がドクンと脈打ち、肉食ガエルとの魂の契約が結ばれた。
「それでいい、お主は体の中にいる肉食ガエルが求めるままに食事をするのじゃ……お主が肉食ガエルの食欲を満たせば、肉食ガエルの方も、必要な時にお主に力を貸すと言っておる……お主に名前は? なぜ、下界に来た?」
「あたしの名前は、青賀 エル……下界に来た目的は……目的は……あれ? なんで地上へ来たんだっけ? そもそも、あたし天界でナニやらかしたの?」
エルは、自分が規律天使で真緒を天使に昇華させるために降臨したコトを、落下の衝撃ですっかり忘れていた。
長老が言った。
「まぁ、地上に来た目的はそのうち思い出すだじゃろう……儂が思うに、その悩殺的な格好は、天界でエロ担当の天使ではなかったかと思う。天界だから中学生男子レベルのエロ天使じゃろう」
長老の言葉を真に受けたエルが、自分の胸を軽く揉み回して言った。
「そうか、あたし【エロ天使】だったんだ」
青賀 エルは、そのまま洞窟に住み。優魔たちの世話になるコトにした。
一週間後──優魔の村でビキニアーマー姿で、翼と飾り尾羽を引っ込めて農作業に汗を流すエルの姿があった。
掘り出した『人面イモ』をカゴに入れて運んでいるエルに、長老が言った。
「どうじゃ、村での暮らしには慣れたかのぅ」
「ええ、おかげさまで。みなさん良くしてくれますから」
エルはしゃがみ作業で、お尻に付着した土を手で払う。
その時、やって来たカエル男『ラブランド・フロッグ』が長老に言った。
「よーよーっ、長老さんよぅ……知っているかいよーっ。近々、冷奈ちゃんが真緒さまのところに、押しかけ妹で来るんだってよーっよーっ」
「ほぅ、そうか雪男と雪女郎の子供の冷奈ちゃんがのう……この前に遊びに来た時は、ホワイトタイガーの冷凍怪人になって。近所一帯を冷凍光線で氷河期に変えてしまったからのぅ──魔王家もまた、にぎやかになるのぅ」
長老とラブランド・フロッグの会話を聞いていたエルの手から、人面イモが入ったカゴがドサッとエルの足元に落ちる。
青賀 エルが呟く。
「思い出した……あたしは魔王 真緒を天使に昇華させるために地上に……こうしちゃいられない」
走り出すエル、数十メートル走ったエルはUターンすると、長老のところにもどってきて訊ねる。
「長老、敷地の出口はどこ?」
「ここから、一番近い出入り口なら……あっちの方向に」
「ありがとう、ちょっと外に出て魔王の息子を叩き潰してくる」
そう言うとエルは、マンドラゴラ長老が指差した方向へ、土煙を巻き上げて疾走していった。
エルの姿が見えなくなると、長老はポツリと。
「真緒さまならワザワザ、敷地外に出なくても帰ってくるのに」
そう言った。




