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第十四話

『そういえば今日は”学校”って場所に行く日なんだってな。』


 俺は妖怪蜘蛛を倒した次の日、若菜の部屋に行くと彼女はいつか見たおかしな服装に着替えて何やら忙しく準備していた。以前学校がどうとか言っていたが、そこにはこの服を着なければいけないらしい。神主や巫女のようなものなのだろう。

 一方若菜は眠い目をこすりながら自分の手提げに書物や何かを詰めていた。


「っていうか白、あなた普通に私の部屋に入って来ていますけど、一応この部屋にも結界は張られているはずなんですが。お父さんがわざわざ張ってくれて、」

『それがどうかしたのか?俺に結界なんて効くわけないだろう?』

「そ、そうですか……。じゃあ行ってきます。修行は放課後に、学校から帰ってきたらお願いしますね。」

『ああ、分かった。というかお前は狙われたばっかりなんだから気を付けて行けよ。』

「はい。えと……行ってきます。えへへ。」


 若菜は部屋を出ると、屋敷の裏口から出て学校へと向かって行った。立派な表門から出ないのが、家の中での若菜の立場を示しているようで少し可哀そうだと思う。

 それにしてもこの家は仮にも退魔師の家なのに、娘が狙われてすぐに一人で出歩かせるか普通?護衛の一人や二人も付けずに?まったくなんて薄情なんだ。しょうがないから俺が暫く護衛でもしてやろうか。別に散歩が気に入ったとか、屋敷の中が退屈だとかそんなんじゃない、若菜が心配だからその学校とやらに潜入してやるんだ。


『そうと決まれば善は急げか。』


 俺は結界を通り抜けて、今さっき出て行った若菜を追うように裏口を出た。





『なるほど、同い年の人間が集まって勉強をする場所か。何を学んでいるのかは全く理解できないが、なるほど確かに私塾などよりはよほど合理的な場所だな。』


 俺は若菜のいる部屋の、隣の建物の屋上の手すりに座って勉強している若菜を眺めていた。他の生徒より先生に質問したりはしないようだが、一生懸命に何か書き込んでいる姿は若菜らしくて実にいい。一つ気になるのは若菜が立ち上がるたびに周りの生徒たちが笑っていることだ。あれは一体どういうことなのだろう、後で若菜にそれとなく聞いてみようじゃないか。

 何もすることが無いとはいえ、若菜のことを見てそれなりに楽しんでいると、授業中にも関わらずおかしな恰好をした生徒が数人、俺のところへとやって来た。


「なんだお前。ここは俺らの場所なんだわ。さっさと出て行ってくんねえか?あ?!」

「あんだてめえその髪型、調子乗ってんじゃねえぞ!」


『あ、俺のことを言ってのか?』


 なぜか俺に突っかかってきた生徒の一人は俺の制服の肩の部分を掴むと強引に彼らの方へと振り向かせた。


「てめえ脳みそ入ってないのか?なめてるとぶっ潰すぞ。」


 学校には真面目で大人しい人の子が多いと、今日見てきて思っていたのだが、そんな中にもこうして暴力的な生徒もいるらしい。なるほど面白い。俺も暴力は好きだ。


「なんか言いやがれこの野郎!ぶっ……!」


ぶっ……殺してやるとでも言いたかったのか。彼が何か言う前に回し蹴りが顔にクリーンヒットし、手すりの金網に背中をぶつけていた。


「え?……は?」

『なるほど、このくらい加減すれば死なないんだな。あ、お前ら安心知ろよ。流石に殺したりしたら不味いからな。死なない範囲で相手してやるよ。』

「や、ヤッロ、ぶっころ……!いぎゃっ」

「ぐえっ!」


 一人が俺にやられて頭に血が上ったらしい他の2人も同じく殴り掛かってきたが、悲しいことに彼らの動きは遅すぎる。その内の一人の拳をはじいて顔面にデコピンをしてやり、最後の一人にはカウンターよろしくみぞおちに拳を叩き込んだ。


『ふむ。退魔師でないとはいえあんまり手ごたえはないな。さてはこいつらあんまり戦闘には慣れていないんだな。』


 彼らの並々ならぬ戦意に期待していた俺は、見掛け倒しだった彼らに若干がっかりした気持ちを覚えた。こんなところで寝ていると体に良くないと気を利かせて、俺は搭屋へ連れて行こうと三人まとめて持ち上げた。すると伸びている男のズボンから何かきらりと輝くものが転がり落ちた。拾ってみるとそれは小さく可愛らしい手鏡で、俺の姿を映していた。


 若菜の学校の男子生徒の多くが着ているズボンとよく分からない白い服と黒い上着。黒く丸い目と少し尖った鼻。


『ふーむ、なるべく普通の姿になろうとしたのだが……。これもどこか変なのか?』


 鏡には人間になった俺の姿が映っていた。

 普段人間の中で生活する際には犬の方が楽ではあるが、その姿で学校に入ろうとしたところ門のところで追い払われてしまったので、仕方なく人間の姿になったのだ。犬や狼などの姿は普段取りなれているが、人の姿はさすがに初めてだったので不安であったが問題はなかったはずなのだが。真一文字の口の端を上げると、意外と違和感なく笑うことができた。

 そういえばこの生徒たちは俺の髪がどうとか言っていたのだが……


「あぁ、なるほど。」


 髪を見て納得した。ほとんど真っ黒で気付かなかったが、左耳の辺りの一部が今一つ黒色に染まらず、真っ白になっていたのだった。



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