嵐 3
ノックや前置きもなしにレミニアリスの私室に入って来られるのは皇宮で限られてくる。その数少ない人物こそ、この人物なのだが。
「殿下、ノックぐらいなさればどうです?私、びっくりしましたわ」
ロゼラインが大袈裟に驚いてみせるとその人は笑う。
「……きみがこれ如きで驚くのに僕は驚くけどね?」
美しいアイスブルーの瞳をおかしげに細めたこの人はレミニアリスの兄に当たる、皇太子アーノルド・レヴェイン。月のように冴えた美貌は父譲りであり、軽装をしていてもにじみ出る雰囲気は微塵も隠せていない。
「兄様……盗み聞きはダメだって、お母様に教わりませんでしたか?」
「母上はとても奔放な人だからね。……まぁ、盗み聞きから情報は漏れるものだけど」
それは暗に先ほどの会話を聞いた、ということだろうか。
「……他言無用ですよ、兄様」
妹の頼みならば、とアーノルドは肩をすくめる。しばらくの間用心のために兄を観察していたが、ふと疑問に思う。
「あの、兄様」
「なんだい、レア?」
「………何か言いに来たのですよね。普段は執務室に引き籠もってばかりの兄様がわざわざ出向いてくるなんて、余程のことだと思うのですけど…?」
ご明察、とアーノルドは扉からレミニアリス達が腰掛ける目の前に座る。そして何を思ったのか、レミニアリスが口にしようとしていた小さな砂糖がけの菓子を手にとった。
「……第三妃が倒れたのは多分、即効性だが命に別状はない弱い毒だろうと僕たちはみている。無論、父上もだけど」
そこで言葉を切ってアーノルドは2人にテラスへ出るように促す。鮮やかな小魚が飼われている小さな鉢の前まで来ると、アーノルドは手に持った菓子を細く砕き、水へばら撒く。それらは小さな波紋となって存在を示し、魚たちを呼び寄せた。小さな口で菓子をつついた魚は尾ひれを激しく痙攣させ、バタバタと躯をよじらせる。
「………え?」
「こ、これって…」
ロゼラインとレミニアリスは顔を見合わせた。ノエルは驚きに表情を凍らせる。
「…第三妃に使用されたものと同じだろうね。レアの方が微妙に強いのはご愛嬌、ってとこかな」
ご愛嬌で毒に侵されるのは全く以って不本意だ。同じことを思ったのか、ロゼラインは不愉快そうに扇で口元を隠す。
「………どこの誰ですの?レアを狙った不届き者は」
笑っているがその目は剣呑な光を宿し、アーノルドをみている。待ってましたとばかりにアーノルドは2人の耳元で小さく囁く。
「限りなく第三妃側の人間だ。今は調査中だけど、そのうち割れるはず」
父や兄が動いてるということは状況は厳しいのだろうか。第三妃に加えて、レミニアリスも彼らの標的になっている可能性もあるからなのか。
「……明日から私は部屋に閉じこもったほうがいいの?」
「ちょっと、レア。それって毒に侵された設定なの?」
「こうでもしないと犯人は割れないんじゃ…」
2人の会話にアーノルドは小難しい表情で告げる。
「それでも構わないけど、嬉々として犯人側はレアに集中的に攻撃するはずだ」
「出る杭は打たれる、って言うじゃないの。ダメよ、レア。危険なことはさせられないわ。……嫁ぐ前なのに」
兄と姉の言葉にレミニアリスはうっ、と詰まる。できる限りの母やセシリア達の憂いは自分が嫁ぐまでに晴らして置きたいのだけど……。
「……わかりました。変な行動にはでません」
「……いい子だ、レア。僕は執務室にいるから何かあったらすぐに連絡すること。…ロゼラインもだ」
念を押すように確認し、アーノルドは追いかけてきた官吏たちに連れ戻されていく。
「ねぇ、レア。……私、何かが動いている気がしてとても不安だわ」
光が降り注ぐテラスからは雲ひとつない晴天に見えた。
しかし、その視界の端に小さな黒い雲が目に止まる。
「……はい。すぐに解決できればよいですけど……」
風が大きく吹いて2人のスカートを揺らす。髪を抑えながらやり過ごすと、先程目にした雲は掻き消えていた。
読んでくださってありがとうございます!
テストやらなんやらで更新が遅れました……!<(_ _;)>
間隔が開きすぎないように頑張ります(;>_<;)
※登場人物にアーノルド兄様を追加しました!




