嵐 1
ルベルト視点→→お姉様 です!
隣に座る少女の存在がやけに大きく感じられ、ルベルトの心は乱されていた。あのタイミングでノエルが引き剥がしてくれなければ彼女を言葉で突き放していたかもしれない。
「ザーシュバルドからなにかあったのか?」
仕事に関しては文句のつけようがない副官はいいえ、と首を左右に振る。
「女王陛下からのご沙汰ではありません。……第三妃様がお倒れになったのです」
ガタン、とレミニアリスがらしくなく音を立てて立ち上がる。口元を手でおおい隠す様にして小さく震えていた。それにいち早く気がついたノエルが「…姫様……」と険しい顔で、ずれた椅子に落ち着くように促す。
「ご容態はお悪いのですか??」
ノエルが主に代わって質問するとシェスは表情を曇らせる。
「現段階では…あまりよろしくない状況だそうです」
その言葉と共に、レミニアリスの心情もますます穏やかではなさそうに見える。
これは第三妃を害そうとした者が起こしたことなのか。
あるいは、何か別の思惑があったのか。
「お母様は……お母様は!?」
思い出したようにレミニアリスの口からは言葉がほとばしる。揺らめく瞳は答えを求めるようにして泳ぐ。
「皇后陛下は私室でそのご報告を受けたそうです」
淡々としてシェスが伝えるとレミニアリスは大きく息を吐く。
「そう……。一度帰りましょ、ノエル。……王太子殿下、お騒がせして申し訳ありません」
引き止める暇もなくレミニアリスはペコリと一礼すると、足早に去っていく。その姿はどこか頼りなさ気にも見えた。
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「これも、これもっっ!!!あの女のせいよ!!!」
昼間だというのにほの暗いこの部屋は皇后アリナディスの宮殿の明るく、華やかな雰囲気とよく比較される。豪華だが良質とは言いがたいベットの上で金髪の女性がヒステリックに叫んだ。その傍らでビクリと身を縮こまらせたのはミュリリアンヌ。
「お母様、落ち着いて。……ほら、お水を」
冷静に対応したのはエリザベートで、興奮する母親をなだめている。それを一口嚥下すると女性────第三妃ヴィルナは天蓋を睨み据えた。
「……ふん、どうせあの女がしたことなのでしょうね。……わたくしの食事に毒を盛ることなんてあいつにとっては容易いものでしょうから」
イライラしたのかグラスを思いっきりサイドの机へ叩きつける様にして置く。そんな母にミュリリアンヌは怯えているようだ。
「…ですが、あの方はこちらへは近づかないようにとお父様からきつく言われているはずですわ」
エリザベートは声を押える。すると、微かに女官と思われる数人の足音がした。
「陛下の前で猫を被る事ぐらいできるでしょうよ。……ミュリリアンヌ、応対しなさい」
「は、はいっ!」
ぎこちなくミュリリアンヌは動くと恐る恐る扉を開ける。入ってきたのはやはり女官だった。
「失礼いたしますわ、第三妃様」
「何用です?」
表面上だけでも威厳を保とうとしたのか、その声色は別人になっている。それを勘違いしたのか、女官は声を落とす。
「ご安心なされめせ、私共は陛下の女官。……陛下からお言葉を頂戴致しましたので伝えに参った次第です」
その言葉にヴィルナの表情はみるみると明るくなる。
「陛下から!……まぁ、早く言いなさいな!!」
はい、と女官はにこりと笑うとその言葉を滔々と述べた。
「『言いがかりを付けてアリナディスを侮辱するのはやめろ。……その地位もアリナディスあってこそ。今回お前が倒れたのは厨房の者の小さな失態だ。ゆめゆめ、そのことを忘れぬように致せ』と」
ヴィルナの顔に激情がやどり、シーツを拳で握りしめる。エリザベートは女官に「お役目ご苦労様、下がりなさい」と言い放つと、女官は愁傷に礼を取って帰っていく。
「……小さな、失態…ですって…??陛下はふざけていらっしゃるのね」
ヴィルナは黒く染まった憎悪を吐き捨てるように低い声で言った。心なしか、叫んでいた時の勢いがなくなっている。ミュリリアンヌはそんな母の側へ駆け寄ると手を握った。
「お母様、いけません。お父様のお怒りは買わぬほうがよろしいですわ」
そんな娘を軽く一瞥するとヴィルナはそうね、と頷く。
「ミュリーの言うとおり、ですわ。わたくし達がお母様を…お助けしますから」
娘たちに両手を握られヴィルナは眠るように瞳を閉じた。今は呼びかけてもその声は届かない。先ほどエリザベートから手渡された水には睡眠薬が仕込まれているからだ。
「…お姉様。ようやく実行できますね」
小さな声で呼びかけられたエリザベートはそっくりの妹に笑みを見せる。
「そうよ、ミュリー……。どれほど……どれほど待ったことか。……ねぇ、お母様。もうすぐなのですよ…?」
母に良いことを報告するように嬉しそうにエリザベートは眠った母へささやき、その手を愛おしそうに握った。
11月いっぱいはこのペースでいきます…!<(_ _;)>




