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ラヴァーズ  作者: 水瀬 ハル
11/20

潜入、実態

深夜二時。


三蔵は、六尾村山中を歩いていた。


やがて村が一望できる場所へ辿り着くと、手頃な椅子へ座った。

「・・・仁、何か分かったか」


三蔵が煙草へ火を付けながら問う。

暗闇から月明かりに照らされ、少し透けた青年が困ったように笑う。三日ぶりに見た顔は、少しだけ嬉しそうだった。


『少しだけ、だけど。この村の住人、何人か僕が見えるみたいだ。』


その言葉に三蔵が目を見開いた。

「・・流石は現代でも土地神信仰しているだけあるな。慎重に動けよ。他は?」

三蔵がにや、と笑って静かに呟いた。


仁は子供のようなあどけない顔で笑う。

『ああ・・・夕野茜は、学校でも孤立してるみたいだ。幼馴染の夜崎桂とよく、一緒に居る。夕野茜は、何か隠してるみたい。好んで夜崎桂と一緒に居るよ。性格は、夜崎桂の前だと明るい。


それから、その夜崎桂だけどーーーーー


御子降ろしの風習は水面下で行われて居て、夜崎桂はその贄に指定されちゃったみたい。決行は4日後。監視がついてたよ。戦国時代の、忍者ばりのね。』


静かに語られた情報を、三蔵は脳内に纏める。御子降ろしはまだ続いて居た。それも、贄は夜崎桂。それから、夕野茜は恐らく、夜崎桂に少なからず好意を抱き、心を開いている。決行は4日後。監視からして、夜崎桂は相当頭のキレる青年。それか、余程逃したくない贄らしい。


「・・・こりゃ、悠長にしてらんねぇか。仁、何処か拠点に出来そうな家はあったか。」三蔵が地面に煙草を押し付け、溜息をつく。仁はうーん、と考えて、おずおずといった様子で口を開く。


「・・・・根は、いい人なんだけどね、、、、」





* * * *


仁に誘導され、着いてゆくとそこは藁葺きの一軒家だった。夜遅いというのに灯りがついている。


先に仁が待ってて、と三蔵に告げ、吸い込まれるように中へ入って行った。


やがて騒がしくなり、がたがた、と建て付けの悪い戸が開き、サキと同じくらいの老婆が出てきた。


「あらあらあ。仁ちゃんの弟かい?まあー。髭面に黒服かえ?似合わんねぇー。仁ちゃんとは打って変わって優しそうじゃないし。寒かったろう?お上がり。」


あまりにも失礼で騒がしい老婆に、黙っとけ、これが俺の正装だ、と悪態をつきつつ、三蔵は老婆の後に続いた。


中に居た仁は、囲炉裏の側で困ったように笑っていた。

三蔵は溜息をつきつつ、仁の隣へと居座った。


やがて奥から盆を持ち、老婆はよたよたと歩いてきた。盆の上には仁の大好物の雪時雨がちらちらと燃える火に照らされていた。老婆は襖を脚で閉め、古びてうすくなった座布団の上に座った。


「こんなもんしか出せないけどね、おあがり。何処からきたんだえ?」


もくもくと湯気の立つ湯呑みを手を温めるように持ち、老婆は目元の笑い皺を深くしながら笑った。


「・・・時屋 三蔵。爪手(つまで)村のはずれで古本屋を営んでいる。」

依頼人以外に身分を明かす時、少しだけ嘘を混ぜて本当をはなす。それが、三蔵と仁の暗黙の了解だった。


老婆はこくりと微笑んで頷き、口を開いた。

「・・・あたしは、狛野こまのきょう。自給自足の生活でなんとかやりくりしてる、老婆さ。昔はイタコをやってた。今は隠居だよ。あんたも昔、いろいろあったんだねえ。」


老婆----キョウは、仁を一瞥して雪時雨に手を伸ばした。

三蔵はずず、と茶を啜る。


「こんなところへ何をしに来たのかーーーは、聞かないさ。あんたは外の無神経な連中とは違うようだしね。だが、くれぐれも注意するんだよ?この村は外の連中をよしとしない。誰かになにか言われたら、キョウばあさんの身内だと言っておきな。あたしが出来るのはそれだけさ。あとは自分でなんとかするんだよ。」


キョウはそれだけ言って、雪時雨を一口で食べた。

「・・・なんでそんなに親切なんだ?あんただって、この村の民だろう。」

三蔵の言葉に、キョウは前歯の一つかけた白い歯を出して、ニッと笑った。

「年寄の道楽さ。この年になるとどうも寂しくてねえ。話相手になっとくれ。」


三蔵はその言葉に、少し思案し、笑った。



* * * *


なんだかんだで明け方になり、三蔵は座敷で来客用だという薄い布団にくるまっていた。

仁は三蔵の隣で明け方の空を眺めていた。

やがて仁を目を瞑っている三蔵に視線を向けると、「三蔵」と呼んだ。

「・・キョウさんに、言えば早いんじゃない?なにか、知ってるかもよ?」


その言葉に三蔵は横目で仁を見ると、溜息を一つ、吐く。

「---あの老婆が関係者だったら、俺たちはそれこそ野宿で、忍者のようにこそこそ情報を集めなければならない。それよりはずっとマシだ。」


三蔵の言葉に、それもそうだね、と仁はまた空へと視線を戻した。


それに、あの老婆はおそらくーーー


言おうとして、やめた。

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