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U・N・オーエンの告白  作者: 面沢銀
Chapter.1 精神失陥 
4/18

The Thing

 4話 The Thing



「はっ……はっ……は……わわ……」


 天童の銃弾は大介の肩の上を通過し、耳障りな風切り音と水袋を潰したしたような、ぐちゅりという不快な音をその耳に届かせた。


 大介は自分に対して直結する死の恐怖にとらわれて、まだ体を動かせない。

 翼子は優しい笑みを浮かべたまま、それでも緊張した面持ちで周囲を目配せする。

 大介の視線をよそに続けてさらに二発発砲するも、それは大介を狙ってではなく、周囲の地面に対してだった。


 威嚇射撃というわけではなく、明らかに何かを狙っていたそれは何かに命中したのか、ぐちゅりという音をあげる。

 大介は疲弊していたが銃口の先を目でおう事はできた、しかし発射された弾丸が何を捉えたかまではわからなかった。


「私とあろう者がこうも後手に回ってしまうとは。状況が状況とはいえ不覚と言わざるをえませんね。ともかく良かったですね大介さん。あなたはまだ人間ですよ」


 言いながら銃を片手に翼子は壁に追い込むように大介に迫った。

 ゆっりと大介へと向かう翼子、その距離は大介が後ずさりするために縮まる事は無かったが、やがて大介の背が壁につく。


「あ、あわわ……」


 怯える大介に覆い被さるように翼子は大介を追いつめると、銃を手にしていない方の腕で壁に突いた。

 ドンという音と共に、大介はその翼子の腕をみる。必然として大介の顔は翼子に横を向く事になり。

 その大介の頬に軽く翼子はキスをした。


「うぇ! ?うえええ!!」


 さらに取り乱す大介だったが、翼子は微笑みながら大介の目をのぞき込む。


「ウブい反応ですね、私ではもうそんな反応はできませんから羨ましくもあります。恐ろしい目にあわせてしまったお詫びは今のサービスで帳消しという事でお願いします。さて、どうした物でしょうね。沙耶子さんの事も気になりますが、ここをこのままというわけにもいきませんし。大介さんにもこれでは黙っているというわけにもいきませんしね、ともかくそうですね。大介さんいいいですか?」


 今もなお辺りは肉が無造作に散らばり、血の海の中に立っているというのに翼子はそのシニカルな口調と人当たりを崩さずに大介に一方的に言葉を投げる。


「まず、天童翼子と名乗りましたが。これは偽名です、私の鑑賞しているアニメのキャラクターの名前なんですよ。事情があったとはいえ嘘をついてしまい申し訳ありません」


 反省している言葉とは思えない淡々としている形式的な口調だったが、翼子と名乗っていた女は大介の反応を待たずに続ける。


 もっとも、混乱したままの大介はこれといった反応を見せる事もなかったのだが。

 そもそも大介は先ほどの話で沙耶子が好きなキャラクターとしてあげていた名前と同じだったので、翼子という名前に対して少なからず疑問を抱いていたので、そこまで驚く事もなかった。

 しかし、小さいながらも一つの疑念が払拭された事によって、大介の心理状態が落ち着きを取り戻すきっかけになったのは確かだった。


「改めまして、おはようからおやすみまで。今後、あなたを守る事になる優秀なキャリアウーマン。一条由良(いちじょうゆら)です、どうぞよろしくお願いします。もっとも警察手帳も偽物だった私の自己紹介を信じていただけるかは甚だ疑問ではありますが、そこは先ほどのキッスのお釣りでどうにか我慢していただくとして。大介さん、今しばし時間を差し上げますので落ち着きを取り戻してくださいね」


 言いながら由良はポケットから携帯電話を取り出すと、この場と状況にふさわしくない明るい口調で誰かと連絡をとる。


「毒島さん時既に遅しです、バラ捲かれちゃってました。沙耶子さんですか? 接触はできていませんが今は人ではないでしょうね。話を伺う分には適合しているとは思います。ところで毒島さん、少しくらいは私の心配をしていただけてもよろしいのでは? ……まぁ確かに私はふてぶてしいのが取り柄ですからね。信頼と受け取っておきます。では、ここのお掃除はお任せしますね」


 毒島という人と話を進めながら、由良はしゃがみこみ、ポケットからビンを取り出すと、地面に転がるその生き物の死体をビンに詰めた。


 それは生き物の死体(・・・・・・)であって、人の死体ではなかった(・・・・・・・・・)


 内蔵を思わせる生々しく滑り気のある体表、形状はクリオネを思わせるが、頭頂部は大きな口になっており、鋭利な歯が生えているのが確認できる。

 舌の代わりなのだろうか、幾本もの長い触手が口から伸びている。

 吐き気を催す醜悪なその生き物の死体、それは由良が手に取ったものは消しゴム程度の大きさであったが、ソレの存在を認識してしまった大介は気がつく。


 一面が赤いこの状況ではその生き物の体表が保護色になっており、気がつけなかったがそれと同じ生き物の死体が三匹ほど地面に転がっている。

 その三匹にいたっては消しゴム大どころか五百ミリのペットボトルと同じくらいの大きさである。

 由良が銃で撃ち殺したのはこの生き物だったのだ。


「そ、それっていったい……?」


「おや大介さん、まともに会話ができる状況まで回復されましたか。単刀直入に言うならば、大介さんが先ほどご覧になられた痛ましい事件と、今ここで起きている異常事態の犯人というか元凶ですね」


「ど、どういう事ですか?」


「この生き物は……まだ名前がありませんので何と呼びましょうか? そうですね可愛いらしくフェアリーと呼ぶとしましょう」


 悪趣味にも由良は、その生き物を妖精と呼称して話を続ける。


「フェアリーはいわゆる寄生虫ですね。虫と呼ぶにはいささか難有りなフォルムをしていますが。人間に寄生して宿主の体を乗っ取る……正しい表現ではありませんが広義的にはそういうわけです。本当に恐ろしい(・・・・・・・)部分はまた別(・・・・・・)なんですが。ともかく見た目には寄生されているかはわかりませんので、そこが問題なのですよね。でも、ご安心ください。習性としてすでに寄生されている人間には寄りつかないのです。なので大介さん、先ほど襲われたあなたは間違いなく今のところ人間ですよ」


「そんな生き物が……どうして?」


「概ね検討はついていますが、それを調べるのが私の仕事なのですよ。さて、大介さん。ここで私のお仕事に関わる話なのですが、うっすらとお察しいただいているかと思いますが、この話は秘中の秘となっていましてね。知ってしまったからには死んでもらうか、協力していただくしかないのですよ」


 そう言いながら由良は大介の眉間に改めて銃口を向ける。

 顔は変わらず笑顔であり、口調も穏やかなままである。

 それでも殺意は感じられないが、決意は感じられるその瞳に大介は飲み込まれていった。


「どちらを選んでも、正直なところ私は構いませんが。お互いのためを思うなら協力をお願いしたいところですね。半ば強制的でフェアではないと私も感じてはいますが、私としてもこの状況は不本意だという事は告げておきます。でなければ最初に偽名なんて使いませんから。ここまでは提案、そしてここらは私のお願いです。お願いです、大介さん。私に引き金を引かせないでください」


 詐欺師めいた笑顔から一転、お願いをするという言葉から由良は表情を曇らせ瞳に涙を浮かべる。

 それが嘘か誠かを、大介は判断できはしなかったが、由良の提案の答えはこの時点で一つしかなかった。


「きょ……協力はします。でも、僕は何を?」


「学校です、このフェアリーの寄生実験におそらくあなたの学校が関わっているんですよ。なのでその部分でちょっとお力をお借りしたいなと。それについて必要な力添えはこちらも惜しみませんよ。本音を言えば、沙耶子さんに近いあなたが適任ではあったので」


 由良が沙耶子という言葉を改めて口にしたのをきっかけに、大介の頭は完全に思考能力を取り戻す。

 同時に、疑問と感情を爆発させた。


「そういえば沙耶子は!? アンタさっき電話で言ってたよな今は人ではないって」


 大介の発言に少し驚いた様子をみせるも、特に口調を変える事なく由良はその質問に答えた。


「なかなかしっかりと聞いていますね、必要な情報なので恐縮ですが遠慮なく申し上げます、沙耶子さんはほぼ間違いなく寄生されています。妖精が入った時点で厳密には人とは呼べないのですよ。妖精を体内で培養しする人ならざる存在、ほっておけばネズミ算式に増えていきます。そういえばこんな文言がありましたね、そして誰もいなくなった。あれ、これって何でしたっけ?」


 朝、学人が言っていた言葉を大介は思い出していた。

 そして、それは沙耶子が言い出した事でもある。


「アガサ・クリスティーの小説ですね」


「おや、博識ですね。その話の通り、最後に残った(・・・・・・)人間は誰もいない(・・・・・・・・)って事にならないようにようにしませんと」


 言って由良はさらに提案する。


「私はこれからその沙耶子さんの家に伺うつもりですが、大介さんはどうしますか?」


 その由良の言葉に大介は頷いた。


「なかなかのガッツです。それにここで着いてきてもらわないと、ホラー映画だったら死亡フラグですからね」


「どういう事ですか?」


「気づきませんか? ここまで騒ぎを起こしているのに誰もあらわれない。つまるところ、ここら一体は結構(・・・・・・・・)ヤラレちゃってる(・・・・・・・・)って事ですよ」

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