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U・N・オーエンの告白  作者: 面沢銀
Chapter.3 感染市街
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Push Dagger

「ハァハァ……ハァハァ……なんだよ今の」


「私が知るはずもないけえど、今朝のアレと同じじゃない。まるでゲームね、参っちゃうわ」


 まるで他人事のように桐子は返事をしながら、桐子は背後を警戒する。膝に手を当てて息を切らす学人をよそに、その呼吸は既に整っていた。

 一般的な地味な女学生というイメージが桐子の見た目からついてまわり、その先入観から運動が出来ないという印象を持っていた学人にとって、この数分の出来事もまた信じられないものだった。


 化物が自分の街に現れ、それが自分に遅いかかる。

 そんなSFめいた状況よりも、目立たなかったクラスメートが見た事も無い刃を握りしめ、その鈍い黒刃から血がしたたっているのだ。


「そうじゃなくて、ソレだよ。ソレ、ソレは何なんだよ!?」


「ああ、これ? プッシュダガーっていうの」


「だからそうじゃなくて、何でそんな物を持ち歩いてるんだよ!?」


 学人の追及に桐子は初めて表情らしい表情を見せたが、それは決して好意的な物ではない。

 怪物の醜悪な様相を目の当たりにした時よりも怪訝な様子で眉に皺を寄せ、ともすれば攻撃的に昂ぶった感情を学人に向ける勢いである。

 その迫力に学人は少したじろぐものの、怪物に尻込みし、さらに自分より体格が二周りは小さいクラスメートに萎縮するわけにはいかないという、無意味な自尊心が桐子にたいして萎縮する事を阻んだ。


 強い眼差しを向ける学人に桐子は浅くため息をつくと、静かな口調ながらも、クラスメートとはいえまともに会話する事など無かった学人に秘匿していた事を話してしまう事に自分でも驚きながら答えた。


「私は家の環境がアレでね。それが原因ってわけでもないんだけど。まぁ今も昔イジメられててね。死にたいって思ってたんだけど、ある時に自分が死ぬくらいなら相手を殺そうと思ってさ。まぁ、そんな感じ」


 桐子の説明は彼女の出自や現状を語るに最小限の言葉で構成されていたが、それだけで十分に学人は桐子の事情を察する事ができた。

 要領を得ない言葉の羅列が、その戸惑いながらも隠す気の無い話し方が雄弁に彼女という人のあり方を語っていたからである。

 ポケットティッシュでプッシュダガーの血を拭うと、桐子は懐にそれをしまった。


「さて、どうしよう? この状況ってさ、警察に通報するべきなんだよね。私はコレの事もあるし、ここを離れたいんだけど」


 冷静すぎる桐子の思考につられ、学人もまた落ち着きを取り戻す。

 普段飄々としてみせて、周りに合わせる学人にとっては、この桐子の冷静さは相性が良かった。

 なぜならば桐子は冷静であっても、状況を整理する能力という部分で学人には遠く及ばない。

 これがただの通り魔という事ならば、その選択は正しいのだろうが、相手は怪物だった、それをどう説明すればいいのか。

 仮に説明をするにしても、警察が来るまで道端で息を潜めるというのは現実的ではない。


「通報はするにしても、何て言えばいいかわからないし。人が倒れてたとか、何があったかボカしておくしかないんじゃないか。俺もここを離れるってのは賛成だし。とにかく人通りが多いところに出た方がいい」


 学人の提案は当面の状況を整理するうえで適切であり、異論も無く桐子は黙って納得し鞄から携帯電話を取り出し耳にあてる。

 しかし、怪訝な顔で携帯電話を振ったり叩いたりするばかりだった。桐子がちょっとと声を掛けるよりも早く、状況を察した学人は自分の携帯電話を取り出し、置かれた状況を確認する。

 圏外にでもなっているのではないかという、SFチックな事を学人は考えたが、そういうわけではない。

 110番をダイヤルするが、応答は無くビープー音もなく通話は切れる。


「携帯ってこういうのがあるから嫌い」


 桐子はため息をついて、学人の様子からやはり繋がらなかったかと視線を落とした。

 電波状況は悪くない。それで固定電話につながらないという事は。

 学人が思った事を口にしてしまう。


「これって……こういう事が周りでも起きてて、話し中ってか警察の回線がパンクしてんじゃね?」


 そこまで桐子は考えていなかったのか、試しに誰かに電話をかけようと携帯電話を手に取るも、誰もかけようとする相手がいない事に気がついて電話をしまった。


「それは大変な事だろうけれど、どうして。いえ、知ってそうな人がいるわね。沙夜子さん、私はそもそも彼女が怪しいって思って連絡したんだから」


 その冷淡な口調に学人は声をあらげようとしたが、沙夜子が事件について知っているかどうかを差し置いても、こんな事件があったのだから安否を確認するべきだと沙夜子の番号にダイヤルする。


「まぁ、繋がらないでしょうけど」


「もしもし、沙夜子か!?」


「マジで!?」


 どうせ電話にでないだろうとタカをくくっていた桐子は思わず声をあげてしまった。

 対照的に学人はホッとした様子で、優しく沙夜子に話しかける。


「無事か?」


 沙夜子の安否を気遣う学人に、身振りだけで携帯のスピーカーを周囲に向けるようにと桐子が身振り手振りで促す。

 『あまり無事じゃない』という消え入りそうな沙夜子の声、その声は微かに涙で震えていた。


「どうした、大丈夫か? 何があった?」


「……ごめんね、うまく説明できない」


「いいよ、説明できなくても。なんか学校のアレが外でも出てるってか何てか、俺たちも襲われて。そうだ、大介は。大介もいっしょか?」


「いっしょ……じゃない」


 学人がどうしたと言うよりも早く、桐子が会話にわって入った。


「ねぇ、勘違いならいいんだけど。あなた、今回の事件について何か知ってるんじゃないの?」


 学人が『おい!』と言葉を遮るものの、桐子は止まらない。

 桐子の口調はある種の確信から発せられており、桐子自身も焦りすぎだと思う反面、口を閉ざす事はできなかった。


「私、聞いたのよ。学校でのあの時に『私のせいだって』。それで、私達は変な怪物に襲われた。これって関係ないの? 関係ないならないって言って」


 その剣幕に学人も思わず口を閉ざす。

 少しの沈黙の後。


「……ごめんなさい」


 沙夜子の謝罪の言葉を残して、電話を切った。


「おい、お前!? 何なんだよ。ってか、キャラが変わりすぎだろ。何でそんなに沙夜子を目の敵みたいに言うんだよ」


「あなたには関係無い。いや、無くもないか……。一緒に来て」


「来てって何処へ!?」


 学人は声を荒げるものの、沙夜子はまるで動じずに目的地を指さす。それは山に設けられた、この街の財源とも言える関田製薬の工場がある場所だった。


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