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記述主義者がペンを捨てるまで。  作者: ほんの未来
第7章:記述主義者と努力嫌いのための努力論。
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89 デッドエンド回避~戦争を避ける2

 地球上にある国で、もっとも緩衝地帯的『余裕(スラック)』を必要としているのはロシアだろう。世界最大の面積を誇り、防衛ライン、その国境はとりわけ長い。また、自由民主主義と社会主義の対立は冷戦を終えて一応の終結を見た。しかし、米中対立やロシアのウクライナ侵攻を見れば、火種が消え去ったとはまるで言えないのが分かるだろう。

 20世紀、そして21世紀と、私たちは思想(イデオロギー)のぶつかり合いでずいぶん人を殺してきた。

 アドルフ=ヒトラーが率いたドイツ。帝国主義や民族主義。国家による闘争。

 ソ連からロシアへ、中国などが中心。共産主義や社会主義。階級による闘争。

 西側諸国や米国、今では日本も含む。民主主義や自由主義。個人による闘争。

 そして、世界史でもっとも死者を出した戦争。それは第二次世界大戦中の、独ソ戦だ。

 不可侵条約を破り、ソ連に突如侵攻したドイツ。人が死にすぎていて、どれだけの犠牲者が出たのか研究ごとに諸説ある。ソ連だけで、おそらく2千万人から3千万人ぐらいが亡くなったそうだ。

 さて、そんな歴史を抱えた、今のロシアを考えてみよう。

 果たして、ロシアに隣接するウクライナ、そこが北大西洋条約機構(NATO)に加入するのを認めるだろうか?

 地球儀を見てみるとなかなか面白い。ロシアと米国の間には、北極がある。ヨーロッパ諸国とは間にバルト三国やウクライナなどの旧ソ連から独立した国がある。中東との間にはカザフスタンやウズベキスタン、これも旧ソ連からの独立国。日本との間には北方領土があるね。ロシアと隣接できる国は、基本的に社会主義国だけだ。中国や北朝鮮が分かりやすい。北欧諸国も隣接するが、社会民主主義の重福祉国家だ。例外を挙げるならアラスカだが、米国に領土を売却したのは19世紀のロシア帝国だ。これはソ連成立以前の話になる。

 あの広大なロシアの周りを覆うように、緩衝地帯的『余裕(スラック)』がずらりと並んでいるというのは芸術的ですらある。そりゃ、ウクライナのNATO入りでそれが崩れるとあれば攻め込んでくるのも当然だ。

 もちろん、ウクライナ側にも言い分はある。共産主義はその成立初期において、農業政策で大失敗をしてとんでもない餓死者を出してきた。「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれたウクライナも例外ではなく、ソ連の外貨獲得のための食料輸出、1932~33年の人為的大飢饉(ホロドモール)により大量の餓死者を出した。ウクライナだけで500万人ぐらいが亡くなっている。それでもウクライナの半分は親ロシア派だ。では逆に、ウクライナがロシア入りするのはどうか? これもロシア側は絶対に認めないね。ウクライナにはどちらとも言えず煮え切らない、中立の緩衝地帯であって欲しいからだ。

 筆者(わたし)はひとりの日本人として、日本固有の領土として北方領土は返して欲しいと思う。けれど、同胞に数百万人かそれ以上の規模で死者を出すリスクと引き換えてまでと言われたら、喜んで前言撤回する。どちらとも言えず煮え切らないまま、お互いに時折声を上げつつ、えんえんと、領土問題を抱え続けることで安全保障が叶うのであれば、致し方ないと思う。本当に口惜(くちお)しく、やるせないながらも、そう思ってしまうんだ。

 このような領土問題を恒久的に解決するのであれば、世界のルールを変えなければならない。たとえば、強力な世界政府を実現するだとか。あるいはAIやバイオ技術を発展させ、人間をあまねく電脳化し、領土で争うこと自体を無意味にしてしまうだとか。現状では創作、SFで語られるような巨大な変化を待たなければならない。それを起こそうと挑んだのがウクライナ側だ。

 本当に『余裕(スラック)』というのは、扱いが難しい。戦争を防ぐための緩衝地帯的『余裕(スラック)』について考えてみた。

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