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浄霊③

来ていただいてありがとうございます。


私は街の外へ急いだ。街の外では邪霊が大量発生してるって言ってた。危ないかもしれないけど、どうしてもアニスさんと旦那さんを会わせてあげたかった。夜の街を走り抜けた。


頭の中にアニスさんの記憶が流れ込んでくる。旦那さんの名前はジェスさん。二人は幼馴染で、小さな頃からとても仲が良かった。学校を卒業するとアニスさんはお家のお店を手伝うようになり、優秀だったジェスさんは更に上の学校へ通うことになった。


一度二人は離れ離れになるけれど、ジェスさんが卒業して王宮で事務官に就職を決めて戻り、アニスさんにプロポーズ。二人は結婚した。ジェスさんはもともと本好きで仕事の傍ら珍しい本を集めるのが趣味だった。あまりにも蔵書が増えたのでアニスさんの提案で、お店を開くことになった。ジェスさんはせっかく集めた本を売ることを渋っていたけど、コレクター気質なのか同じ本が何冊かあって家に入りきらないとアニスさんに怒られたみたい。


三月ほど前にジェスさんはいつものように仕事のお休みを利用して、他国へ本の収集に向かった。七日程で帰る予定だったのに、帰ってこなかった。そして、アニスさんが病気になったのが半月ほど前。たちの悪い流行り病だったらしく、クリスと私が本屋さんを訪れた時にはもう亡くなっていたみたい。でも、あのお店でアニスさんはずっとジェスさんを待ち続けてた。


ジェスさんが本を集めに行くのは少し危険な場所が多い。戦が起こっているような場所。燃やされそうになっている本を保護する目的もあったから。アニスさんは止めて欲しいって懇願してた。ジェスさんはこれで最後だって約束して出かけて行ったそう。そして帰ってこなかった。手紙も届かない。


「つまり、あの時に私が見たジェスさんはたぶん……」

トールさんは街に結界が張ってあるって言ってた。ジェスさんが街に入れなかったってことは、そういうことなんだと思う。



街の外に出る門に着くと、すごく騒がしかった。いつもなら見張りの兵士さんがいて、許可証を見せないと通れない。だけど今夜は見張りの兵士さん達がいない。門の外へ簡単に出られた。…………?!

「何これ……」

十体以上の黒い影が門の外にいた。門のそばで焚かれてるかがり火に映し出されて、影がゆらゆら燃えているみたいだ。それらの奥、街から一番離れた場所にひときわ大きくて濃い影がそびえたつように在った。兵士達や冒険者達が戦ってるけれど、すぐに復活してしまう。アルスター座長もトールさんも苦戦してるみたい。

「攻撃が効かない……?どういうこと?」

それに、クリスはどこ?無事なの?


「あまね?何で来たんだ!」

声のする方を見た。

「クリスっ!」

(ジェスッ!)

私とアニスさんの声が重なる。クリスとジェスさんが数体の邪霊に囲まれてるっ!クリスの攻撃も効いてないの?なんで?ジェスさんの体が黒く変色してる。邪霊になりかかってる?

(邪霊に触れると、邪霊になってしまう。私もそうだった)

アニスさんは街に出た邪霊に触れられて邪霊になりかかってたんだ……。そういう仕組みなんだね。


今、二人を取り囲んでる邪霊を消しちゃうと、ジェスさんも消えちゃう……。つまり、全部浄化すればいいってことか。範囲攻撃じゃなかった、範囲浄化だ。落ち着け私!大丈夫!さっきやったみたいに、言葉を変えて組み立てて……。


(ジェスッ!!)

「クリストフェル様っ」

アニスとトールさんの声が響く。邪霊が一斉に二人に飛びかかった。



「ダメッ!クリスに触らないでっ!!」


私の中で何かが弾けた。



『吹き渡る風よ、白き猛き優しき風よ、我が前の悲しき御霊をすべて清めよ』



すこし抑揚がついた声。自分でも不思議……歌っているような声が出たと思う。真っ白な光の風が嵐のように吹きすさぶ。


 



いつの間にか風がやんだ。私の周りには光の球体がふわふわといくつも浮いている。


鳥がいた。星空にたくさんの鳥達が羽ばたいてる。淡く光を放っていてとっても綺麗。

「あの時、お城で見た鳥……。そう、あなた達が運んでくれるの?」

鳥達は高く一声鳴くと、光達を背中に乗せて遠い空へと飛び立った。とても幻想的な光景だった。遠くにあの船が迎えに来てる。みんな無事に夜の国へ行けるよね。


そして、ジェスさんがアニスさんを抱きしめてる。良かった。二人が再会できて。笑ってこっちを見てお辞儀してる。二人は溶け合うように一つの光になって鳥の背に乗って空へ旅立っていった。……これで良かったんだよね?なんだか涙が止まらない。どうして?


「あまね……、君は一体……」

クリスが近づいてきた。ケガはしてないみたい。

「クリス……。大丈夫?」

「ああ、俺は大丈夫だ」

「そう、よかっ…………」

安心した私は、目の前が真っ暗になった。









トール視点


クリストフェル様とアルスター殿と共に街に出現した邪霊を倒しに向かった。我々生きる人間が邪霊に触れると、最悪の場合死に至る。我々は邪霊が現れたという墓地を注意して進んだ。墓地は街の外れ、街の外周を囲む壁付近にある。


だが邪霊の姿はなかった。屋敷へ戻ろうとしたが街への出入口である門の方から悲鳴が聞こえてきた。女性が邪霊に襲われそうになっている。我々は駆け付けて邪霊を倒そうとした。しかし、邪霊は壁をすり抜けて街の外へ出ていってしまった。我々はすぐに門から外へ出た。


「何だ、これは」

アルスター殿が呟く。

「邪気の森でも無いのに邪霊がこんなに……」

クリストフェル様も驚いている。しかも倒しても倒してもすぐに復活してくるのだ。厄介だった。


「あまね様?」

クリストフェル様の危機に現れたあまね様は聞き覚えのない呪歌を歌われた。白い光の奔流が辺り一面に満ち、気が付くと全ての邪霊は浄化され、光となってあまね様のまわりに浮かんでいた。まるであまね様を慕うように……。


これは一体何なのだろうか……?どこからともなく現れた美しい鳥達が光を乗せて飛んでいく。美しい光景。その中心にいるあまね様はとても……とても美しかった。聖女……自然とそんな言葉が浮かんだ。やはり彼女こそが……。


力尽き、倒れそうになるあまね様をクリストフェル様が抱き止める。彼女を見つめるそのお顔はとても優しげだった。長年仕えてきた私でも見たことが無いくらいに。そしてクリストフェル様は彼女を抱き締めて、愛おしそうに頬を寄せたのだった。



そしてこれは後の話になるが、ガーネット王国に力ある聖女が現れたという噂がひそやかに流れることになる。








ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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