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高校生からはじめる地球侵略  作者: 佐馴 論
第2章 UFO女を追う者たち
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本日の任務:UFO女をデートに誘う

 決行日である。潜伏先から学園に至る道を歩きながら、私は静かに決意した。休日、星降舞依と出かける約束を取り付けるのだ。

 学園内は他者の目があるため、彼女に自分の過去を語らせるには少々不向きだろう。それにいざとなれば――

 私は、自らの右手に目を向けた。


「おにーちゃん。どうしたの?怖い顔して」


 潜伏先の扉を開けた瞬間から、カナコは地球人モードになり切っている。既に見慣れたものだ。


「ところでお兄ちゃん。今日のお昼休みはどうするの?」

「まずは美浦愛子と話します。星降と唯一交友がある地球人です。彼女を窓口にした方が、話が早く進むと判断しました」


 プランとしては、まず美浦愛子に偶然を装って接触、彼女の警戒心を解きつつ、適当な理由を並べて星降との外出をセッティングさせるのだ。


「あれ、この前の」


 校門を抜けた時、背後から声をかけられる。

 最初の目標人物――美浦愛子が、早々に現れてくれた。


「昨日舞依と話してた人だよね?……えっと」

「レオル=マクニールです」


 振り向きざま、ここで笑顔だ。


「……え、急に笑い出して、何か可笑しいの?」

「……いえ」


 笑顔にはタイミングが肝要、と反省している間にも、カナコは早々に自己紹介を終えていた。それどころか、下の名前をちゃん付けで呼ぶ了承すら取っている。さすが、地球人との距離の縮め方が上手い。


「そうだ!お兄ちゃん、せっかくだから愛子ちゃんに相談してみれば?」


 もう私が話す番か。さて……昨日カナコに習った雑談のテーマはいくつか考えてある。


「最近タピオカって流行ってますよね。美浦さんはお好きですか?」

「……は?」


 空気のアイスブレイクどころか、美浦は相当に訝しげな表情だが……話を続ければ元に戻るだろう。


「昨日、クラスの方に勧められましてね。お好きですか?」

「嫌いだけど、それが何?」

「お、お兄ちゃん?今はそんなこと、どうでも良いでしょ……」

「ホントよ。何か相談とか言ってなかった?」


 美浦は下らん雑談には興味なし、か。彼女のようなせっかちなタイプは、話が早くて良い。


「実は私、星降さんとお話ししたいと思っていまして」

「舞依と?」


 まじまじと私を注視する美浦。


「……何か、私の顔がおかしいですか?」

「いやいや、全然。舞依の知り合いにいたっけかなーって」

「星降さんとは、転校して初めて出会いました」


 美浦は値踏みするように私の顔を見つめてくる。

 私は美浦の視線に答えるように、同様に彼女の目を見つめ返した。


「ちょっ……そんなじっと見ないでよ」

「お兄ちゃん!」


 いけない。あまり相手を見すぎるなとカナコに言われていたな。


「ごめんね、愛子ちゃん。実はお兄ちゃん、星降さんがとっても勉強出来るって聞いて、色々教わりたいんだって。ほら、私たちって、日本に来てそんなに長くないから、勉強で戸惑うところも多いんだ~」


 見かねたカナコがフォローを入れてくれたが……美浦の警戒心は薄れただろうか――


「私も、舞依にめっちゃ勉強教えてもらってるからね!見る目あるじゃん」


 美浦はまるで、自分ことのように誇らしげにそう言った。それから星降が入学以来ずっと試験で一番だとか、マラソンの学内記録保持者だとか、実は雑誌のスカウトを受けただとか……とにかく星降の良い所を、聞かずとも語ってくれた。


「でも、勉強のことだけじゃないよね……お兄ちゃん」


 カナコが肘で私の脇腹を小突く。その発言の意図は何だ?


「はぁ……なるほどね」


 美浦はにやにやしながら、勝手に何かを納得していた。


「舞依ってば、可愛いもんなぁ」

「愛子ちゃん、お昼休みって時間ある?星降さんと、お兄ちゃんと私と、4人でご飯とか……どうかなぁ?」

「良いんじゃない?うちら、昼はいつも中庭にいるよ」

「ありがと~!すごく楽しみ!」


 2人はうんうんと頷き合い、美浦は去って行った。私とカナコも校舎に入った。


「お兄ちゃん、大成功だね。笑顔も、とっても良かったよ!」

「練習の成果です。それにしても、星降を誉めた途端に話が進みましたね」

「よっぽど仲良しなんだよ。じゃ、お昼休みに~」


 カナコは別の教室に入って行き、私も自分の所属するクラスの教室に到着した。ぎりぎりの時間に登校したため、既にクラス内は騒々しい。

 しかし、一人席についている星降に声をかける者は一人もいなかった。宇宙人にさらわれたなどと突拍子もないことを口走る者に、地球人の大衆というのは残酷な扱いをするようだ。ゲルマ星人ですら、私の提言した地球侵略方法を当初は拒絶していたが……地球人はより強烈に、異質なものや考えへに拒否反応を示すと見える。

 そんなことを考えている内に授業は進んでいき、時間は12時過ぎとなる。星降はいつも通り、じょうろと弁当箱を持って教室を出て行った。

 もちろん私も、彼女を追う形で教室を出た。後を付けていると思われないように、私は先回りして花壇の前で待っていた。すると案の定、星降舞依がその場に現れたのだった。


「マクニール、さん?」

「星降さん、この前は本題に入らず帰ってしまい申し訳ありませんでした」

「い、いえ……大丈夫、です」


 挨拶程度の声掛けにも、やはり彼女は恐る恐る言葉を返す。


「星降さんは、お花がお好きなんですか?」

「そう、です」

「私も、草花を見ていると気持ちが良いです」


 目の前の花をテーマとした雑談。しかも相手の関心ごとに違いない題材は、この場における選択としてベストだっただろう。ようやく、カナコとの訓練の成果を出せた気がする。


「あ、あの」


 花壇の前でじょうろを傾けずに星降が振り返った。


「マクニールさんは、どうして私に……その、話しかけてくれるんですか?」

「それは――」

「私のこと、誰かから、何か、聞いてますよね?」


 そういい終えて、星降は顔を真っ赤にして背を向けてしまった。

 彼女が言わんとしていることは察することが出来た。だが無思慮な地球人たちの囁く噂など、私にとってはどうでも良いのだ。


「私がここに来たのは」


 そこまで言って、一度深呼吸をした。そして努めて冷静に、残りの言葉を発した。


「毎日、ここの花壇に来ていることが気になったのです」


 星降は、ゆっくりと振り返った。

 彼女と目が合う。同時に私はわずかに後悔した。

 母星の自然を失ったゲルマ星人としては、自然環境を蔑ろにする地球人の姿勢は、即刻矯正すべきと考えている。だからこそ、草木を大切に扱う星降の行動は評価に値する。だが場繋ぎの会話で語ることではなかったはずだ。


「……私、家でも野菜とかお花を育てるの好きで」


 やがて星降が、絞り出すように声を出した。


「だから、学校でも同じことができるのが楽しくて」

「はい」

「頼まれたわけでもないのに、こうして水やりしちゃったりとか」


 星降舞依は、ぎこちないながらも、自ら言葉を紡いでくれた。

 地球人の価値観は未だに理解できないことばかりだが、彼女の笑顔は何と言うか、魅力的な部類なのだろう。


「ご、ごめんなさい!なんか、べらべらしゃべってしまって……」

「いいえ、謝る必要はありません」


 私の言葉に安心したのか、星降はもう一度、ぎこちないながらも笑顔を見せた。

 それから彼女は水やりの続きに戻った。私はそれをただ見ているだけだが、今までのような落ち着きの無さはなりを潜め、穏やかな時間が流れていた。


「おーい、舞依、マクニール」


 そんな折、美浦とカナコが現れた。丁度水やりを終えた星降は、じょうろを置いて美浦に手を振っていた。


「私、この人の従妹で同じく転校生のカナコ=メルシエっていいます!」


 友人の美浦も一緒だからだろう、星降はカナコとはごく自然に話し始めた。


「舞依。お昼さ、この2人も一緒で……いいかな?」

「うん。2人が良ければ、私は嬉しいよ」


 私たちはその後、すぐ近くの屋外テラスで昼食を囲んだ。星降と美浦は手作りの弁当、私とカナコは、ただの菓子パンであった。


「私、日本のアニメとかマンガが好きで留学してるんです。アニメーターになるのが夢なんだけど、美大とかって難しそう……」

「すごいです。私なんて、普通の大学しか考えてなかったなぁ」

「いやいや~舞依ちゃんのことだから、すごい優秀な大学目指してるんでしょ?」

「そ、そんなことないよ。他の理系より試験科目が多いから、頑張らないとなんだ」


 会話はカナコが中心になり、器用に星降の情報を引き出そうと立ち回っている。私は口を挟まず、聞き役に徹するとしよう。


「ねぇ、マクニール」


 そう考えていた矢先、隣に座る美浦が私の名を呼んだ。


「カナコちゃんから色々聞いたけどさ」

「色々?」

「良かった。あんたが悪い奴じゃなさそうで」


 カナコ、私の知らないところでしっかりと援護をしていてくれたのだな。


「最初はちょっとキモかったけど」

「同感です」


 初対面の私は地球人的感覚からすると、少々怪しかったのだろう。カナコの人好きのするような表情と口調と比べてしまうと、より痛感させられる。


「でも、あんたが舞依のことを傷つけるつもりじゃないって、何となく分かったよ」

「以前には、そんな輩が近づいて来たのですか?」

「あー、うん」


 カナコの冗談に笑っている星降を、美浦は横目で眺めていた。


「……舞依が何か悪いことしたわけじゃないのに、ムカつく理由で近づいてくる奴もいてさ」

「あの下らない呼び名に関係が?」

「ほんと、くっだらない」


 美浦は憮然として、紅茶のパックを握り潰した。美浦が何かされたわけでもないだろうに、彼女の怒りは本物のようだった。


「すみません。嫌なことを思い出させてしまったようです」

「ううん。あんたが下らないって思ってくれること、ちょっと安心したぐらいだよ」

「ならば良かったです。今の私は、どうしたら星降さんと仲良く出来るかどうかに関心があるだけですから」

「……ふふっ」


 美浦は突然、噴き出すように軽く笑った。


「いかがしました?」

「ううん、別にー」


 美浦は少し楽しそうに、弁当箱から卵焼きを箸でつまんで口に入れた。


「うそ!星降さんって、映画好きなの?」

「あ、うん。ちょっとだけ、ですけど……」

「聞いた?お兄ちゃんと趣味が一緒だよ!」


 急にカナコに肩を叩かれる。私の趣味は、いつの間にそんな設定になったのだろう。


「実は今度の日曜日、お兄ちゃんと映画に行く予定だったんだ。知り合いにチケット貰ってね。あと2枚あるから、星降さんと愛子ちゃんもどう?」

「映画かー。良いね。舞依、ちょうど会う予定だったし、どう?」


 美浦の棒読み気味の台詞から察するに……恐らくカナコの策で示し合わせているな。


「すごく、嬉しいお誘いだけれど……私、行って良いの?」

星降は伏し目がちに尋ねてくる。こちらが誘ったのだから、来て悪いわけが無いだろうに。

「もちろんです」

「あ、ありがとう、ございます!」


 星降は何度も何度も頭を下げてくる。カナコが途中で止めなかったら、土下座でもしかねん勢いであった。

 ともかく、我々の作戦は今の所、滞りなく進んでいることは間違いない。星降舞依の過去、その正体をじっくり探る絶好の機会を得ることができた。

 その時、私の視界の右端が数度点滅する。コンタクト端末が緊急メールの受信を告げているのだ。私は失礼、と一言残して一度その場を離れた。

 緊急メールは、地球上どこかのゲルマ星人が、私に直接の面会を求めている場合に送信される。電子メールや電話の傍受を特に警戒すべき重要な情報を伝達したいのだ。

 文面は一言「来る日曜午前中、直接の報告必要あり」となっていた。

 そして送り主の名を見て「AM10、地点F04」と返信し、すぐに3人の元に戻った。



次回の投稿も明日になります!

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