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大か小か

「やだぁ~それブルキナファソ~!」

「うっそ~ほんとにぃ?」


 初めての合コンは、順調に進んでいた。

 いや、ブルキナファソとかいう謎の言葉が何故愛ちゃんから出てきているのとかを考えると、順調とは言えないのかもしれないけれど。

 どうしてそのような話の展開になったのかは説明できない。

 私も途中から聞いてなかったから。

 愛ちゃんはもう、目の前のチャラ男スーちゃんと結ばれればいい。

 さっきトイレでもこっそり、「私終わったらスーちゃんとはけるから」とウィンクされた。

 後日遺体で発見されないことを祈るばかりだ。

 そんなことより、私が気になって仕方がないのは逆隣。

 全男の憧れキサキさんと、その正面に鎮座するは不愛想100パーセントの布衣ランドさん。

 始まって30分。布衣さんはたまに話を振られてぶっきらぼうに答えるくらいで、一方のキサキさんは、肩を怒らせたまま力強く布衣さんを睨んでいるだけだ。

 何この構図。


「キサキさん。何か喋れば?」

「駄目です。今布衣さんの意識がこちらに向いておりません」

「どうしてわかるの? むっつりスケベかもしれないわ」

「わかります。相手の鼓動や視線の動きで心理状態は読めるんです」


 そだった。

 この人、遠距離から他人の感情や意図を読み取れる超高性能機械なんだった。

 相手の気持ちがわかってしまうとは。

 恋をする上で、難儀なものを持ってしまったものだ。


「意識が向いてないなら、向かせるのが恋愛でしょ?」

「意識を、向かせる……なるほど」


 と言って、さらに目力を込めるキサキさん。


「なにしてんの?」

「殺気を送っています」

「馬鹿なの?」


 しかも少し効果があったのか、布衣さんは何かを感じ取ったように周囲を警戒し始めた。

 そして少し寒気を感じたのか、立ち上がり去って行ってしまった。


「あぁ……行っちゃった」

「お手洗いですね。膀胱(ぼうこう)が張っていましたので」

「そんなこともわかるの……やだ想像しちゃった」


 駄目だこりゃ。

 キサキさんは、少し男女関係というものに慣れれば大丈夫かと思っていたけれど、どうやら根本的にこの人はずれているようだとわかった。

 本当に、色恋沙汰とは無縁で生きてきたに違いない。


「さっきから友達の心配ばっかして、楽しくない?」


 ふと。

 唐突に声をかけてきたのは、私の正面に座る爽やかなイケメンさん。野良(のら)(がみ)さんといったか。


「いえ、楽しいですよ。ただ、私はあまり恋愛をする気はなくて」

「そうなんだ。どうして?」

「このあいだこっぴどい目に遭いましたし、来年には受験なので勉強に集中しないと」

「なんだ。失恋? わかる。つらいよねあれ」

「失恋、というか……まぁそんな感じです」


 説明のしようがないから誤魔化すしかない。


「そっか。残念。僕は志津香ちゃんが一番いいなって思ってたんだけど」

「え? あ、あ~その、ありがとうございます」


 さらっと言われると、それはそれで恥ずかしい。

 しかもこの人が言うと様になるからなおさらだ。


「あれ、ランドは?」

「さっきお手洗い行ってたみたいですけど?」

「遅くね? うんこか?」

「ちょっとやめてよぉ~」


 愛ちゃんとスーちゃんの馬鹿会話を横耳にふと思い至る。


「おいそういう弄りやめてやれって。それに飯の最中だぞ」

「なんで! うんこは人間ならだれでもするんだぞ? アイドルだってブリブリじゃん!」

「ちょっとぉ~! きゃははっ!」


 目の前のうんざりするやりとりを横目に、


「ちょっと私たちもお手洗い行きますね」


 そう言ってキサキさんを立たせつつ、その場をそそくさと逃げる。


「どうしたのですか? これが連れションというやつですか?」

「そうだけどそうじゃない。ちょっとこっちこっち」


 キサキさんを引っ張りながら、死角へと逃げる。


「落ち着いてください志津香さん」

「え、どうして」

「たとえ女同士と言えど、こういうお店の厠でそのような行為は……」

「何言ってんの!?」

「違うのですか? よかった」

「違うにきまってるでしょ!」

「先日ニュースでそのような話題が上がっていて、志津香さんの心拍数が上がって緊張されていたのでもしかしたらと」

「急に? このタイミングで抜け出してヤるとでも? 性欲の化け物じゃないそれ」

「ソウタさんはたまに……」

「やめい! 聞きたくない!」


 慌てて口をふさぐ。

 店員さんが驚いたようにこちらを見つつ歩き去っていく。

 こんなかわいい顔からなんて卑猥な話題が出てくるのか。

 ……これが大人ってやつ?


「そんな話じゃなくて。布衣さんのこと」

「布衣さんですか? 心配しなくても大きい方ではないですよ」

「誰がそんな心配しとろーか!!」


 どっちでもいいわい!

 大でも小でも!


「布衣さん、明らかに興味なさそうだったでしょ?」

「……ですね」

「キサキさんを前にしてそれなんだから、きっと容姿にさほど興味がないの」

「いえ、私など……」

「うるさい美人は黙って褒められなさい。それで、たぶん今はどこかで時間を潰してるんだと思う」

「ん、みたいですね。今布衣さんがお手洗いから出てお店の外に向かっていきました」

「探知機!」


 この人を前にして嘘はつけそうにない。

 言われた通り店の出入り口まで来ると、案の定店の外に腰かけてスマホをいじっている布衣さんを見つけた。


「行ってきて」

「え、今ですか?」

「ほら早く!」


 困惑するキサキさんを押し出す。

 キサキさんも納得していないながらも、ゆらゆらと足を進めていく。

 私も二人の会話を聞き逃さないと、こっそり側面から出て二人に近い壁の死角に隠れた。

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